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ビハールの農業オバサン [インド]

11月8日付のHindustan Times紙12面に、自転車にまたがるオバサンの写真が出ていた。女子学生然としたうら若き女性が自転車に乗って颯爽(?)と走る姿はインドの農村に行っても見かけることがよくあるが、さすがに腹回りにたっぷりと肉が付いて体重80kgはありそうな巨体のオバサンが自転車にまたがる姿は異様で、自転車がきしんでいるんじゃないかと自転車のことが心配になった(笑)。

「車上の婦人(Woman on wheels)」(Richir Kumar記者)は、ビハール州ムザファルプール県アナンドプール村に住むラジ・クマリさん(54歳)を紹介する記事である。地元の人々から「キシャーンおばさん(Kisan Chachi)」と呼ばれるクマリさんは、今年の農業振興賞(Kisan Shree award)を受賞した。地元の農民を説得し、1970年代からタバコや大麻(cannabis)の栽培で有名だったこの地域で、果樹や野菜栽培への転換を貢献したのがその理由である。(Kisanは、農家や農業といった意味)。

失業していた農民の妻だったクマリさんは、義父の反対も押し切り、自分も農民として畑に出た。1980年代初頭の話である。ある日、彼女はきっこうりゅう(亀甲竜、ヤムイモの一種。oal、elephant's footともいう)のピクルスを売るために地元の県物産展の農業科学センター(Krishi Vigyan Kendra、KVK)のテントを訪れた。そこで、彼女は鍬や鋤に興味を持ち、男性の領域である畑作へと関わるようになっていったという。

「私がもっと若かった頃は、医療サービスのボランティアとして活動していました。そこで噛みタバコは癌に繋がるというのを知り、農家の人々にたばこの栽培を止めてもらうよう働きかけようと考えました。私は果樹や野菜栽培のコツを農家の人々に知らせることから始めました。農家の資金繰りは大きな課題でした。だから、私は女性に自助グループ(SHG)を形成するよう働きかけ、Swarn Jayanti Gram Swarozgar Yojanaのプログラムで銀行から借入れ申込みができるように助言してきました。」

現在、ラジ・クマリさんは商業目的でピクルスを生産するのに女性を1日50ルピーで雇用している。ムザファルプール県サライヤ郡の約350人の女性を動員し、35のSHG形成に成功している。こうした女性のSHG活動が彼女達の生活向上にも貢献している。こうした女性達にとって、ラジ・クマリさんは銀行とSHGの橋渡し役である。毎日30kmを自転車で走り、農業や事業のコツを伝えて回っている。ビハール州のSHGメンバーの殆どが農業に従事しているが、神像製作やピスタチオ栽培、バングル(装飾用腕輪)製作、ピクルス生産、陶器製造、畜産等も始めているSHGメンバーもいる。

クシュブーSHGに所属するミーラ・デヴィさん(45歳)はこう言う。「キシャーンおばちゃんは私達の人生を変えてくれました。今では私達も1日2回は食事をとることができます。」

クマリさんは自宅では自分の娘の縁談取りまとめに忙しい。加えてムザファルプールの町でコンピュータ講習も受講したいと思っているが、これは未だ実現していない。2006年のパンチャーヤト選挙に立候補したが落選した。次の選挙にも立候補するつもりだ。何故政治なのか?「もっと多くの人々に奉仕する機会が得られるからです。そうすることで私も幸せになれると思います。」

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貧困州ビハールで頑張っている農村女性の話である。こういうケースは少なくないと思うが、何故この話を紹介したかったかと言うとポイントは2つある。

第1に、ビハール州はSHGの形成が非常に難しいと言われている。そこでSHG形成に成功しているのがこのクマリさんの事例である。ビハールや隣りのウッタルプラデシュ州では全体的に貧困で、女性の権利自体が農村住民にあまり認知されておらず、女性は家庭内の男性を通じてしか情報は入って来ないし、男性が黒と言ったら白でも黒としなければならないような厳しい環境に置かれている。そんな中でクマリさんのように嫁ぎ先の義父の反対まで押し切るのもすごいことだが、女性が外出してSHGに参加するところまで組織化ができたというのもすごいことである。

第2に、クマリさんが果樹や園芸作物に関心を持ったきっかけが地元KVKのブース訪問だったと記事にはあるが、実はこのムザファルプールKVKには1970年代に日本人の専門家が入って活動されていた。当時はKVKという組織制度がなく、「日印農業普及センター・ムザファルプール農場」というような呼ばれ方をしていたのではないかと思われるが、ここで日本人専門家が指導していたのが園芸作物栽培だった。だから、末端の農家の指導に果たしたクマリさんの仲介機能は当然ながら評価されてよいが、加えてそうした知見を持つKVKがあり、そこに日本も昔関わっていた可能性があるというのはちょっと嬉しい話である。

少し前にデリーにあるネルー大学の大学院に在籍しているビハール州出身の学生さんから、「ビハール州は貧しいのだから、日本はビハール州にもっと援助をするべきだ」と言われたことがある。しかし、ムザファルプールのラジ・クマリさんや今年5月に紹介した養蜂のアニータ・クシュワハさんのような全国的注目も集める女性の優れた取組みがあるビハール州に、必要なのは援助なのだろうかという疑問は湧いてくる。大切なのは動機付けで、ちょっとした好奇心が大きな成功を呼び込む可能性はすごく大きいのではないかと思う。そしてこうした優れた取組み、サクセスストーリーがそこに存在するということをより多くの農民に知ってもらうということではないだろうか。

今回引用した記事のURLはこちら!
http://www.hindustantimes.com/rssfeed/bihar/Cycling-glory-Woman-on-wheels/Article1-474050.aspx

「キシャーンおばさん」に関連した記事はこちらから!
http://www.indianexpress.com/news/change-of-crop/502475/0
http://timesofindia.indiatimes.com/india/Field-marshal-/articleshow/5206067.cms
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