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『さまよう刃』 [読書日記]

さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/05/24
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
長峰の一人娘・絵摩の死体が荒川から発見された。花火大会の帰りに、未成年の少年グループによって蹂躪された末の遺棄だった。謎の密告電話によって犯人を知った長峰は、突き動かされるように娘の復讐に乗り出した。犯人の一人を殺害し、さらに逃走する父親を、警察とマスコミが追う。正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎える―。重く哀しいテーマに挑んだ、心を揺さぶる傑作長編。

読後感が切なかった。同じ東野作品である『流星の絆』のDVDを見た直後で、『流星の絆』の方は両親を殺害された三兄妹があれだけ「殺す」と言っていた真犯人を最後は生きて罪を償わせる決断をしたが、『さまよう刃』の方はシチュエーションが逆で、たった1人の娘を凌辱して死に至らしめた犯人である少年達に対し、父親は最後まで復讐を試みる。東野作品ではよくある話だが、結末で大どんでん返しがある。いろんな意味で。だから、ストーリーとしては面白いし、読み始めたら止まらない。だが、読み終わってのやるせなさが大きい。

自分が長峰と同じ状況に直面したら、やっぱり同じ行動をとるだろうと思う。更正する可能性もないような残虐な行為を平気で行なえる未成年が少年法を盾に保護されるというところには複雑な思いがする。法律を守るのが警察で必ずしも警察は市民を守ってくれるわけではないとしたら、自らの手で制裁を加えたいと思うのは仕方がないのではないだろうか。読者にそういう思いを抱かせて考えさせるという意味ではこの作品は十分成功していると思う。

映画化されて10月に公開された作品でもある。

ただ、小説として見た時には幾つか気になるところはあった。

第1に、長峰を長野でかくまった丹沢和佳子について。長峰の潜伏に協力しつつも復讐の実行を阻止しようとするその言動は理解できるのだが、自ら幼子を自分と夫の不注意で事故で亡くすというその過去が、和佳子の長峰への思いにどう反映されたのかがよくわからなかった。正直なところ、和佳子のバックグランドはあまり長峰との関わり方には生かされていないような気がした。(案の定、映画ではこのバックグランドはカットされてるようですね。)

第2に、マスコミについて。取材の仕方もさることながら、こういう動き方をするというのはけっこうえげつない。被害者とその家族のプライバシーに対してはあまりにも配慮をしていないし、青少年更正研究会の弁護士と雑誌編集長のテレビ対談にしても、本当にこのような出来レースがテレビ討論の舞台裏であるとしたら、テレビの情報も鵜呑みにはできないなと思う。

第3に、もう1組の被害者家族である鮎村について。その怒りは長峰のそれにも匹敵すると思うのだが、何だかピエロに使われてしまってかわいそうで仕方がなかった。復讐も果たせず、警察から「馬鹿野郎、余計なことしやがって」と吐き捨てられるだけに終わったその行為が悲し過ぎる。長峰は救われたかもしれないが、鮎村は全く救われない展開で終わってしまった印象である。

そういうことも含めて、クライマックスシーンの後の描き方があっさりしすぎだなという批判があっても仕方がないという気がした。相変わらず自己保身の釈明を繰り返している誠の見苦しさを浮き上がらせておきながら、和佳子も鮎村も最後は出てこない。和佳子は父とわかり合えたのだろうかとか、鮎村はどのように心の整理ができたのだろうかとか、本当ならマスコミにも我が身を省みる機会を与えて欲しかったのだがそれもなく、最後は警察のサークル内での話で終わっている。499頁も読み進めながらこのあっさり感は何なんだろうか?

―――映画の予告編もご覧下さい。イメージを得るにはいいかも。
映画『さまよう刃』公式サイト
http://yaiba.goo.ne.jp/
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