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「貧困」の定義をいじると…(3) [インド]

以前、標題と同じタイトルの記事をこのブログで紹介した際、計画委員会の任命で設置されている「テンドルカー委員会」というのの他に、農村開発省の任命で設置されている「サクセナ委員会」というのがあって、こちらが6月に打ち出した「貧困」の新定義によると、総人口の50%近くが貧困層に位置づけられることになるということにも言及されていた。

最近、テンドルカー委員会の中間報告書が計画委員会に提出されたことについても本ブログで紹介したところであるが、実は同時期にサクセナ委員会の定義が週刊誌『Down To Earth』2009年10月1-15日号に掲載されていた。タイトルは「貧困ライン:難しい線引き(BPL: a difficult line to draw)」(Savvy Soumya Misra記者)という。全文のURLは以下の通りだ。
http://downtoearth.org.in/full6.asp?foldername=20091015&filename=news&sec_id=4&sid=2

要点を簡単に紹介しておこう。

1)最近サクセナ委員会が農村開発省に提案した貧困ライン以下の人口(BPL)の特定方法は次の3段階から成る。
①次の3グループを除外:公的セクターないし民間セクターで雇用され、月1万ルピー以上の収入がある。1世帯当たり農地所有が県平均の2倍以上あるか、二輪車/四輪車を所有するか、または農業機械を所有している。所得税を納付している。
②次のグループを加える:原住民やダリット(ここには州政府が最も不利な立場に置かれていると認定している指定カーストも含まれる)。女性独身世帯やホームレス、施しに依存する世帯、少数民族の世帯、一家の稼ぎ手が障害を抱えている世帯、または家族の1人でも強制労働に従事している世帯。
③これらのグループをその性格によって点数配分し、これに予め予測された貧困率のラインに到達するまで合計点数が高い者から順にBPLと認定していく:例えば、指定カースト/指定部族(3点)、土地なし農業労働者(4点)、日雇い労働者(2点)、60歳以上の高齢者が家長を務める世帯(1点)等といった具合。

2)インドは計画委員会が2004‐05年に行なった貧困予測を用いて、農村部の貧困率を28.3%としている。農村開発省の委員会の新定義によれば、貧困率は50%程度にまで上昇する。(即ち、上記1)で述べたスコアリングで点数を積み上げていくと、これらの項目のどれかに当てはまる人口が総人口の50%程度は存在するということだろう。)

3)こうした取組みには批判も多い。ジーン・ドレーズ教授はスコアリング結果に基づくBPL認定は線引きに関して必ず切り捨てられるグループが生じるという問題を抱えていると指摘する。また、ネルー大学のヒマンシュ教授もこれが単なる仮説に基づく手法で現場で試行されたことが一度もないと述べている。ラジャスタン州のMazdoor Kisan Shakti Sangathanのニキール・デイ氏も、この新定義が進歩であることは認めつつも、調査を行なって各世帯をクラス分けする手法は問題を引き起こしやすいし、農村開発省はこの新定義に基づき、関係各省庁に説明を行なっていくことが求められると述べている。

4)農村開発省は、これまで、1992年人口センサスにおける所得データや1997年センサスでの支出データ、2002年の土地所有や衛生、家屋の材質、生計方法等の2002年版社会指標等に基づきBPL人口の特定を行なってきた。そのBPL人口特定結果に基づき、現在の第11次5カ年計画(2007‐2012)が策定されている。

5)N.C.サクセナ委員長によれば、他のセンサスと違い、同委員会が提案する新制度はBPLリストからの除外を恐れて農村家庭が様々な政府プログラムの恩恵にアクセスしようとするのを妨げるようなことはないとし、これまでリストからあふれていた住民もこれに載るようになれるであろうと述べている。

なんだかテンドルカー委員会による貧困層予測との関係があまりにもよくわからない記事である。どちらも貧困層人口が総人口の何%を占めるのかを話題にしているし、どちらも政府の各種助成プログラムの給付対象者の特定とそれに必要な総予算規模の算定のために必要だとされている。では何故テンドルカー委員会の方は38%でサクセナ委員会の方は50%になるのだろうか。特に、このサクセナ委員会によるBPL定義に関しては、記事を読む限り先にBPL人口をどの程度かパーセンテージで予め予測しておき、そのパーセンテージに至る前スコアの高い世帯から順にBPL認定をしていく方式を取っている。であれば、記事では言及されていない「50%」の算定方法が別にある筈である。それがわからないために、単純な比較が難しい。

引き続き追いかけときます、この話題。
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yutakarlson

■日本の貧困率は15.7% 厚労省が初公表-貧困への道を自ら望んでひた走る若者が増加しつつある!!

こんにちは。日本でも、昨日より貧困率のことが話題になっています。日本の貧困率結構増えてきているように見えます。ただし、もっと重要なことは貧困率そのものではなく、旧来型の貧困とは異なる貧困も増えてきていることだと思います。いわゆる、貧困のために教育の機会がなかったなどの貧困の再生産ではなく、自らその道をひた走る若者が増えてきています。従来型の貧困であれば、お金をばら撒くことでもある程度解決はできますが、新しいタイプの貧困はそうはいきません。このタイプの人々は、自業自得というところもありますが、それでも、こうした先進国型の貧困者(本当は貧困でも何でもない)が増加すれば、社会不安を巻き起こすことには変わりありません。やはり、精神(考え方)を変えるといった意味で、社会常識・規範、住居、職業まで含めた包括的支援プログラムを提供することが重要になってくると思います。詳細は、是非私のブログをご覧になってください。
by yutakarlson (2009-10-21 13:26) 

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