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30年前の「あの日」 [備忘録]

先日、「Sanchaiの「30年前」(その1)」という記事を書いて、中学3年の1月から卒業する3月までのことは「その2」としていずれ紹介しようと考えていることを示唆していたが、『あの日にドライブ』を読んだ後、もっと具体的に「あの日、あの場面」というのを意識して描いてみようかと思い直した。従って、今回のタイトルは「その2」ではなく、「30年前の「あの日」」とした。

30代以降の僕の選択に関してはさほど後悔はないと以前述べたが、実は10代の頃の出来事については、「あの日、あの時、こうしていれば…」という後悔を後で覚えたことが幾つかある。中3の最後の3ヶ月を振り返ると、特に忘れられない次の2つの思い出がある。

1.自転車事故
2つあるうち、時系列的に後から起こった出来事を先に紹介する。既に卒業式を終え、高校入学まであと2週間を切ったある日のお話。当時生徒会長を務めていた僕は、既に選挙が終わっていた次期執行部の面々への事務引継ぎのために、中学校へと向かっていた。雨の中を傘を左手で支えながら右手だけで自転車のハンドル操作をして中学校へと向かっていたのである。しかも、通常の通学路である川べりの自転車専用道路ではなく、古い商店が立ち並ぶ巡礼街道筋を走っていた。

何故この道を使っていたのかは今となっては思い出せない。でもその日学校へと急いでいた僕は、開いた傘を雨よけがわりに前方に掲げ、相当な勢いでペダルを踏んでいた。そして悲劇は起こる。狭い商店街で荷物の積み下ろしを行なっていた幌付きトラックの荷台の後部に思い切りぶつかっていってしまったのである。

当然その場では傘が壊れたのと、自転車の前輪が少し歪んだというのは気付いた。ただ、ぶつかった痛みは体にはあまり残らなかったので、「大丈夫か」と心配顔で尋ねてきたトラックの運転手さんの制止も振り切り、「大丈夫です」と言い切ってさっさとその現場を離れようとした。傘は壊れて雨にずぶ濡れになったし、自転車の前のカゴも多少へしゃげてペダルも心持ち重くなった気がしたが、体はなんともなかった。

しかし、暫くして気が付いた。前歯が1本折れていることに。

僕はその「欠損」について「差し歯」の処置をすぐに取らなかった。いずれやろうやろうと思っていたらいつの間にか欠損状態での生活の方がそれ以前の生活よりも長くなってしまっている。今だから告白するが、この前歯欠損は高校・大学を通じて自分にとってはかなりのコンプレックスになっていた。(自業自得なんだけど…)

あの時、あのルートを使っていなければ、或いは雨傘ではなくレインコートを着用していれば、また或いは事故の後すぐに差し歯の処置を取っていれば―――そのうち1つでも実行できていれば、その後の生き方は大きく変わった可能性があるように思うのである。

2.気になるあの子(中学編)
誰でもそうだと思うが、中学時代に好きな女の子がいなかったというと嘘になる。中学時代の淡い恋心など大人になってそのまま成就するものではないだろうから正直に書くが、僕も1年の頃から気になっていた子がいた。中学時代ヘタレ剣道部員だった僕の憧れは、武道館の近くのテニスコートでいつも練習していた軟式テニス部のエースYさんだった。同学年だったが同じクラスになったことはない。

テニス部エースのYさんは運動神経がかなり良かった。逆に僕は平均的な運動能力でしかなかった。しかし、こんなことを書くと万が一本人が読んだら絶対気を悪くすると思うが、Yさんは勉強の方があまりにもできなかった。僕の住んでいた故郷の町は、成績上位の者は南の大垣市にある県立高校普通科を志望する。僕は生徒会役員とか郡の中学対抗駅伝の選手とかを務めていて中3秋までに成績がかなり落ち込んでいたが、辛うじて大垣の進学校を受験させてもらえるところでなんとか踏みとどまっていた。逆に成績下位の女子は北の県立高校家政科を志望する。ただでもYさんは町内中部の中学校から近いところに自宅があったが、僕は町内最南端に住んでいた。だから、中学を卒業してしまえばYさんの行動半径と僕のそれが交差するポイントが全くないというのがわかっていたので、僕は敢えてアタックという積極行動も取らなかった。いや、それは屁理屈であって、アタックする勇気がなかったのに違いない。

どこで誰にその気持ちを漏らしたのかは覚えていないが、人の噂は広まるのが速いもので、当時、僕がYさんのことを好きだというのは剣道部の連中は皆知っており、さらには女子テニス部の連中も皆知っていたらしい。3年の僕のクラスには女子テニス部のA主将とS副主将が揃って在籍していた。3年のクラス替えの際に2人が同じクラスだと知り多少焦ったところは最初はあったが、日常の学級活動でYさんを意識させられることはなく、2人とは普通に接していたと思う。間違っても、2人にいい顔すればYさんにも伝わるだろうなどという下心はなかった。

そういう状況なら、中学も卒業が近くなるにつれて変に気を利かせて何かを企てる奴が現れても何ら不思議はない。

2月(或いは3月に入っていたかもしれない)のある日のことである。近くの席だったSが、何かの拍子にこんなことを僕に尋ねてきた。――「ねえ、Sanchai君って、色だったら何色が好きなん?」

この何の脈絡もない突然の質問に、僕はこう答えた。――「赤や。燃えるような赤色や。」

それだけの会話だった。その後のやり取りについては全く記憶にない。

そして、そんなやり取りをSとした数日後のこと。その日、僕は卒業生から先生と在校生に贈る謝恩会の準備か生徒会活動かどちらかわからないが(一緒にいたのが謝恩会でにわかバンド演奏を一緒にやったTだったので多分前者だと思うが)、音楽室だか生徒会室だかにいて下校時刻が非常に遅くなり、夕方6時を回っていた。

この時期、外は既に真っ暗になっている。僕は、Tと一緒に靴箱のエリアに歩いていった。そしてそこで1人でいたYさんを見かけてドキンとした。驚いたことに、彼女の方から声をかけてきた。

Yさん:「Sanchai君、ちょっとええ?」
Sanchai:「うん」

TもYさんのことは知っていたので、状況を察して「俺は先に帰るわ」と言ってすぐに校舎を出て行った。残されたのは僕とYさんだけ。驚かれるかもしれないが、実はこの時交わした会話というのがYさんとの初めての会話でもあった。校舎から自転車置き場までは少しだけ歩く。その間、こんなシンプルな会話をした。

Yさん:「Sが変なこと聞いてごめんね」
Sanchai:「別にかまへんよ」

その他のやり取りは殆ど記憶にない。ただ、そこでわかったのは、テニス部の中に、僕がYさんと話す機会をなんとか作ろうという動きがあったらしいということである。そして、そうした動きをYさんが気にしていたことも。だが、通学に自転車を使っていた僕は、徒歩で下校するYさんとそこで記憶にもあまり残らぬ会話を少しだけした後、なんと挨拶して別れて帰ってしまったのである。帰る方向がまるで違っており、僕は家路を急いでしまった。

そこで僕の後悔。それは、なんであの時次のセリフが言えなかったのかである。

S:「暗いから送って行こうか?」

これを言っていたら何かが変わっていたかもしれない。いや、たとえ何も今と変わらなかったとしても、少なくともこの場面における男としての当たり前の対応を当たり前にやったという自己満足の気持ちは抱くことができたに違いない。中学の女子がどこまでそれを意識していたか今となってはよくわからないが、ここで家まで送るという当たり前の行為を僕がしなかったために、Yさんは僕にやっぱり幻滅したかもしれないなとも思う。いずれにしても僕に残るのは自己嫌悪の念である。

その後についても書いておこう。先ず、高校3年の時に国鉄大垣駅の改札口のところで彼女を見かけた。僕は高校剣道部の同僚と一緒で、彼女は大垣の商業高校の男子生徒を待っていた。あ、Yさんだとすぐにわかったが、向こうは彼氏と一緒だったわけで、僕が声をかけるような状況ではなかった。同じ町でも北と南では接点がないなんてのは実は言い訳に過ぎず、その気があれば大垣あたりでデートはできたのだなというのがその時わかり、結構悔しい思いはしたのだが。

次は大学2年生の時、故郷で行なわれた成人式に出席してその時に会場で見かけた。和服姿の元同級生が大多数を占めていた中で、1人白い洋服を着ていたので余計に目立った。綺麗だった。但し、その時点で既に結婚されていたようであった。

中学時代の憧れの子と一生連れ添うなんて滅多にないだろうから、Yさんにちゃんと告白しなかったことに対してはさほどの後悔はない。憧れは憧れのままでもよかったと思っている。しかし、繰り返しになるがここでの僕の後悔は、あの日、あの時に男として当然やるべき当たり前のことがちゃんとできなかったことにある

今や我が子供達が小学校高学年や中学生に成長し、僕の経験を笑いながら話せるようになってきた。特に長男には伝えたい。こういう状況になったら好きか嫌いかに関係なく、男ならちゃんと家まで送れと。逆に娘にも伝えたい。こういう状況で送ってくれないような男は甲斐性なしだから父は認めんぞと(笑)
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montblanc

自分にも似たような思い出があります。
そして今、同じ状況におかれたら・・・
また同じことを繰り返しそうです。
by montblanc (2009-08-13 00:12) 

雅子

嗚呼・・青春。。。
by 雅子 (2009-08-13 11:43) 

duke

映画のようですね^^
1の方も見させて頂きました。
私も剣道部で、アニメージュ買ってました^^
by duke (2009-08-13 18:58) 

Sanchai

☆みかんママさん☆
いつもniceありがとうございます。

☆montblancさん☆
niceとコメントをありがとうございます。そう、予めわかっていれば積極的にいけるのですが、それがわからなければやっぱり同じことを繰り返してしまうでしょうね。Yさんのお話の中で結局最後までわからなかったのは、Yさんは実のところどう思っていたのかということです。これは今でもわかりません。もし悪い気はしてないとの確証があったら、攻められますよね。

☆雅子さん☆
こんにちは。niceとコメントをありがとうございます。ほんと、今となっては「青春」でしたね。懐かしいです。

☆dukeさん☆
niceとコメントをありがとうございました。次のネタは「剣道」でいかせていただきます。
by Sanchai (2009-08-14 02:19) 

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