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『地図から消えた国、アカディの記憶』 [読書日記]

地図から消えた国、アカディの記憶―『エヴァンジェリンヌ』とアカディアンの歴史

地図から消えた国、アカディの記憶―『エヴァンジェリンヌ』とアカディアンの歴史

  • 作者: 大矢 タカヤス
  • 出版社/メーカー: 書肆心水
  • 発売日: 2008/06
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
アカディ、そんな国はどこにもありません。しかし自分がアカディアンである、その子孫であるという人は、一説では世界に300万人もいるのです。どのような経緯でそれらの人々が今や名前しか存在しない土地を故郷と思い定め、共通の絆で結び合っているのでしょうか。それに答えるためにはカナダ史の、日本ではあまり知られていない1ページを開いてみる必要があります。18世紀の半ばアカディと呼ばれていた土地からイギリス軍によって強制移住させられたフランス系開拓者たちの悲しい思い出が、一世紀のちにアメリカの詩人ロングフェローによって謳われ、この長篇詩『エヴァンジェリンヌ』が、カナダはもとよりアメリカ、ヨーロッパ各地に散りぢりになっていた子孫たちの心を強く打ったのです。
ロングフェローの叙事詩『エヴァンジェリン』については、1989年に卒業旅行で米国を再訪し、ルイジアナ州クラウリー在住のカウエン夫妻を尋ねた時に初めて聞かされた。「ケイジャン料理」の語源でもある「ケイジャン(Cajun)」が今でも多く住むアケイディアーナ地方に住むカウエン夫妻は、セント・マーティンヴィルのバイユーの畔にたたずむ「エヴァンジェリンの樫(Evangeline Oak)」にも案内して下さり、その昔ケイジャン達はどのような経緯でこの地方に移住してきたのかを教えて下さった。


関心を持った僕はその後社会人になってからも少しケイジャンのことを調べたことがある。勿論ロングフェローの詩も原文と和訳を比べる形で読んだりもした。それから10年あまりが経過し再び米国に住む機会があったので、アケイディアーナには3回ほど訪れ、少しずつ情報収集した。その結果は、以下のウェブページでも紹介している。「エヴァンジェリン」の悲話とはどのようなものだったのかも少し紹介したのでご覧いただければ幸いだ。

「ケイジャンのテーストを満喫―ルイジアナ南部アケイディアーナ」
http://www.sanchai.net/CajunCountry.htm

さて、本日紹介する本は2つの点でお薦めである。

第1に、ロングフェローの叙事詩の現代語訳が掲載されている。僕が昔読んだのは1930年に岩波文庫から出ていたもので、訳文自体が堅すぎて理解するのに大変苦労した。それが今の言葉で訳し直されているので、すらすら読めて情景もイメージしやすい。

第2に、本書はケイジャンの歴史ではなく、カナダ・ノバスコシアに昔住んでいたフランス人入植者アケイディアンが英国軍により故郷を追い出されて米国東部沿岸を始めとして世界各地に離散していった歴史が描かれている。これだけの規模でアケイディアンの歴史を描いた本を僕は他に知らない。僕は今までルイジアナの側からアケイディアンを見てきたので、ノバスコシアから強制移住させられたアケイディアンは全てルイジアナに直行したのかと思いこんでいたが、本書を読んでみて、世界各地に離散したがその地での生活が合わなかったアケイディアンの一部が当時仏領だったルイジアナ(実はフランス王室はスペイン王室との間で領土の交換を勝手に決めてこの地域は当時既にスペイン領だったらしい)に徐々に集まってきたというのが実態だったらしい。

そういう意味で、ケイジャンの歴史を世界史の大きなコンテキストの中で捉え直すのに適した1冊である。

ところで、ここで何でフランス人入植者が英国によってノバスコシアから追放されたかということだが、察しの良い方は欧州での英仏七年戦争の結果だろうと想像されるだろう。1756年に開戦した英仏戦争では、北米大陸でも戦闘があり、フランスに味方したインディアンは英国軍と戦ったらしいが、1763年に英国勝利。英国はフランスからカナダ全部とアパラチアからミシシッピまで得た。同じような時期に世界各地で英仏代理戦争が繰り広げられたが、インドの場合は1757年に西ベンガル州プラッシーで英国軍と仏・ムガール帝国軍の戦闘があり、英国が勝利してインド植民地支配が確立している。勝利者英国のその後のやり口のえげつなさは本書にもよく描かれている。

哀詩 エヴァンジェリン (岩波文庫)

哀詩 エヴァンジェリン (岩波文庫)

  • 作者: H.W. ロングフェロー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1930/10
  • メディア: 文庫

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