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ケララに見る経済危機の影響 [インド]

世界的な経済危機の影響はインドの場合は比較的軽微だと以前述べたことがある。貧困層は幸か不幸かグローバル経済にあまり組み込まれておらず、彼らにとってむしろきついのは生活必需品、食料の価格上昇であるというような趣旨だった。ところが、週刊誌India Todayの2009年3月9日号を読んでいて気になる記事を発見した。「暗黒の湾岸(Gulf of Gloom)」と題したこの記事は、ケララの出稼ぎ送金依存経済が湾岸諸国で働いていたケララ人50万人以上が深刻な経済危機の影響で職を失い故郷に戻ってくるというものである。

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記事は先ず同州コラム県サクティクランガラ村(Sakthikulangara)のお話から始まる。この村の漁師出身の若者は、ドバイに出稼ぎに出ていくのが一般的だった。ところが、世界的な景気後退と原油価格の急落を受け、今年初めからの2ヶ月足らずの間に1000人もの人々が職を失ってドバイから村に帰ってきたという。彼らはドバイで働ければ時給200ディルハム(≒200ルピー)で雇われていた。仲介業者が取るマージンがどれくらいかはわからないが、1日20時間働き、金曜日も含めて休日も働けば月75,000ルピーぐらいにはなったらしい。こうした出稼ぎ労働者がケララに戻ってきて漁師をやっても、1日250ルピー程度にしかならないという。そもそもこの村の人々は学校教育は終えているものの、漁業関連以外の職業で訓練を受けたことがない。そういう人々が帰国してきて労働市場に参入してくるわけであり、かなり深刻な経済社会危機をもたらすことが危惧される。地元の漁業は若者が湾岸諸国に出稼ぎに行くことで深刻な労働力不足に一時は直面したこともあるが、今や状況は全く逆である。

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《カネにはならなくてもある程度雇用吸収力はある?》

サクティクランガラ村だけではなく、ケララ州全体が同じような状況にある。海外にいるケララ人出稼ぎ労働者は200万人にものぼり、その90%が湾岸諸国に出かける。その数100世帯につき25人とかなり大きい。こうしたケララ人非居住者の60%はブルーカラー労働者で、彼らが国に残した家族に対して行なう送金金額は4000億ルピーにも達するという。これはケララ州の年間税収総額の2倍にも相当する。また同州は外国に住むインド人の本国向け送金の受け手として送金総額の25%以上を占める。

3月まで湾岸諸国で過ごしたケララ人労働者の子息も4月になれば現地での授業を終えて大挙してケララに戻ってくる。インドの新学期は6月から始まるが、この新学期に向けた入学編入手続きは1月末までには終えていなければいけなかったのだという。

流れは完全に変わった。外務省が湾岸諸国に行かせるために発給したグループ査証取扱い件数は、2008年1月の2,286件から同年12月にはわずか265件にまで激減した。逆に湾岸諸国での出稼ぎからケララに戻ってくる人は1日300人にも達するという。

これだけ大きな人の逆流であるから、ケララにも様々な影響を及ぼす。不動産価格は暴落し、湾岸諸国で起業するために地元銀行から借金をした人々は返済を未納にしている。そのうちに、農家で起きたような自殺がここでも増えるのではないかという不吉な見込みもある。出稼ぎから戻ってきた労働者の自殺件数は2003年には40件だったものが、2008年には140件にまで増加したらしい。

こうした危機的状況に対し、中央と州政府は何をやっているのだろうか。記事によれば、ケララ州政府も3月初頭に帰国する出稼ぎ労働者をターゲットとした総額11憶ルピーの経済復旧策を発表したばかりだが、外国に住むインド人に対する単なるリップサービスでしかないと言い切る識者もいる。湾岸諸国にあるインド大使館は事の深刻さを強調するのを避けていると記者は批判する。

但しこんな見方もある。海外に住むインド人は過去33年間の間、ケララに2000憶ルピーもの外国送金を行なってきた。こうした送金額の僅か5%程度しか生産的投資に投入されていない。出稼ぎケララ人は稼いだ金をすぐにあまり生産的ではない支出――大きな屋敷の購入や高価な結婚式――に使ってしまい、貯蓄は殆どないという。言わば自業自得なのに救済パッケージが必要なのかという意見である。

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難しいですね。こういうところで緊急政策パッケージを考えるといっても、元々雇用機会があまりなかったから出稼ぎに行っていたのだろうし、水産品加工でもやって新たな商品開発をしようといっても市場開拓も含めて相当な努力が必要になるだろう。いっそいい機会だから日本みたいに介護士としての人材育成でもやったらどうかとも思う。
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