SSブログ

『グローバリゼーションとは何か』 [読書日記]

グローバリゼーションとは何か―液状化する世界を読み解く (平凡社新書)

グローバリゼーションとは何か―液状化する世界を読み解く (平凡社新書)

  • 作者: 伊豫谷 登士翁
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2002/08
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
1970年代以降、近代世界は新しい世界秩序への解体と統合の時代に入った。国民国家に編成されてきた資本と労働と商品は、国境を越え、ジェンダーや家族の枠組みを壊し、文化と政治・経済の領域性や時空間の制約すら越境し、新たな貧富の格差の分断線を引き始めている。あらゆる領域を越え、社会の再編を迫るグローバル資本。その新たな世界経済の編成原理とは何か。
一橋大学の伊豫谷先生は、移民研究の第一人者である。

21世紀の途上国の貧困削減と開発は、「ミレニアム開発目標」という全世界が共有する2015年までに達成する8つの目標に集約されている。でも、この目標の達成にはカネがかかる。世界銀行が2002年初頭に行なった試算では、途上国に流入する開発資金が当時の水準よりもさらに年間500億ドル必要になる。これは、とてもODAだけでは吸収できない規模であるため、開発資金はODAだけではなく、先進国の輸入市場の開放や民間資本の対途上国向け投資などで補完せねばならないというのが国際社会のコンセンサスになっている。

外国人出稼ぎ労働者が母国にもたらす外国送金にも大きな期待が寄せられている。外国送金は、ODAの2倍の規模で途上国に流れ込んでいる。だから、欧米の移民推進論者の多くは、外国送金で法外な中間マージンを取られないよう途上国の金融制度の改革が必要だとか、先進国は積極的に外国人労働者を受け入れるべきという論陣を張る。経済学的には、出稼ぎ労働者の越境移動は、本国への送金が全く発生しなければ受入国側に、労働者が稼いだカネを全額本国に送金すれば本国側が得をする。実態はその間にあるだろう。

でも、そんな手放しで移民推進を言ってていいのだろうか。僕は大学時代から労働者の越境移動については、推進するよりは先進国が輸入自由化して途上国内に雇用機会を作る方が家族にとっては幸せではないかという考えを持っていたが、本書はまさにそのポイントを突いた論旨の展開をしている。

ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて飛び交うグローバリゼーションの現代、労働者の越境移動の大きな特徴は、受入国での滞在期間の長期化、女性の労働移動、受入国側の政策による労働者の選別により機会が得られる人と得られない人の二分化、先進国と途上国間での賃金格差の固定化とそれに伴いどちらの側でも高所得者と低所得者の二極分化が進むことなどが挙げられる。先進国において介護士、看護士などのニーズが高まることにより、就業年齢の途上国女性が先進国に向かうため、故郷における家族の役割の変革、子供の教育への影響など、コミュニティの崩壊に繋がる様々な弊害が生じることが懸念されると筆者は指摘する。

グローバリズムに対する対抗軸をどう構築したらよいのだろうか。筆者は、反グローバリズムとしての戦略は、結局のところ具体的な個々の課題に対して決定されるしかないとする。僕たちに求められる具体的な行動の明示は本書にはないが、僕は、今の日本政府が取っているような、高齢者ケアの必要性をフィリピンからの介護士、看護士の受入れで充足させるような安易な政策選択に対して懐疑的な視点を投げかけることではないかと思う。高齢者ケアを市場取引の対象にする前に、僕たちにはコミュニティケアのような誇るべき選択肢もあるのではないだろうか。
nice!(3)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 1

降龍十八掌

難しい問題ですね。
私のようなホームレス寸前の人間からは、ODAより日本人にカネを回してぇ~と叫びたいですし。
いわゆるエリートサラリーマンではない、一般的な労働者はもはや保険料や税金を払えない状況だと思います。
マルクスのいうとおり、社会主義に向かうしかないんじゃないですかね。

ラジオでも、現代は医者よりも看護婦さんが足りない!ってことを言っていました。

グローバリズムより、苦労ばかりズム?の日本国内の労働者問題を改善してほしいものです。
by 降龍十八掌 (2009-04-15 16:30) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0