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『医療改革』 [読書日記]

医療改革―危機から希望へ

医療改革―危機から希望へ

  • 作者: 二木 立
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2007/11/08
  • メディア: 単行本
内容紹介
 主要先進国中で医療費水準最低/患者負担割合最高、という歪んだ制度を持つ国となった日本。危機のなか見出される希望の芽とは?
 医療経済・政策学の視点から小泉・安倍政権の7年間の医療改革の特徴と帰結を検証。医療危機が叫ばれる中、今年に入り見出され始めた肯定的変化を〈専門職団体の自己規律の強化〉〈マスコミの報道姿勢の変化〉〈医療・福祉費抑制政策の部分的見直し〉の3つの視点から論じ、よりよい制度への道筋と改革案を示す。敢えていま希望を語る。
トリバンドラム携行書籍第三弾―――。
帰路の機内で読み始めたが、読み残した最後の50頁ほどを読み切るのに思いのほか時間がかかり、ご紹介するのが遅くなってしまった。

もともと本書は著者が各所で連載、寄稿、ないし講演してきた論説集なので、ある程度は仕方ないところがあるとは思うが、2009年の読者の僕達からすると既に結果がわかってしまっている政府の政策について制定される以前の予想を述べているところや、その予想と結果との比較でどこが外れてどこが当たっているのかを解説しているところには読みづらさを感じた。読者の方にある程度の「飛ばし読み」を強いる書き方だと思う。

それはさておき、本書の論調はこれまで僕が読んできた医療崩壊をテーマにした数々の文献と異なり、明らかにトーンを落とし、現実主義的な視点に立って政府の施策を冷静に評価している。厚生労働省の施策はことごとく悪いので白紙撤回しろというトーンだった本もこれまでにはあったが(それはそれで著者の立場からはその通りなのだろうと思うが)、本書についてはその施策について、どの部分は評価できるか、どの部分は評価できないか、どこまでは現状認識でどこからは著者の主観に基づく評価かをかなり明確に峻別して述べている。「医療改革の志を保ちつつ、リアリズムとヒューマニズムとの複眼的視点から検討すること」「事実認識と「客観的」将来予測と自己の価値判断に3区分して検討する」(いずれもp.129)というのが本書を通じての著者の一貫した姿勢である。

その上で、これも一貫した姿勢だと思うが、リアリズムに立脚して時の厚生労働省の施策を評価しつつも、医療関係者の忍耐もそろそろ限界ではないかとの危惧も隠そうとはしていない。
(後期小泉政権の医療改革における「療養病床の再編・削減」について)今回の改革方針を強行しても、今まで述べた理由から、医療・介護費の(大幅)抑制は見込めないだけでなく、医療者・医療機関の厚生労働省に対する信頼を喪失させます。その結果、これまで厳しい医療費抑制政策の下でも日本医療のパフォーマンスの良さを支えてきた医師・医療従事者と医療機関(特に民間中小病院)経営者の活力とモラール(士気)が急速に低下し、現在はまだ小児救急医療や産科医療などに限局している医療危機・医療荒廃が、慢性期医療を含めた医療全体に拡大する危険があると私は恐れています。(p.140)

こうした小泉政権の傾向について、後を引き継いだ安倍政権では、行き過ぎた市場原理主義の揺り戻しの中で、医療・社会保障改革方針にも幾つかの注目すべき特徴がみられるという。
第1は、従来別個に扱われていた「医療・介護サービス」、「医療・福祉等」が一体的に扱われていることです。これは、政府・厚生労働省が今後医療・介護・福祉を一体的に改革しようとしていることを意味します。それだけに、医療関係者は介護・福祉政策の動向にも注意を払う必要があります。(p.154)

介護については、2005年介護保険法改正時に、厚生労働省は、「「在宅重視」と言いながらも、実質的には「自宅重視」から「居住系サービス(自宅以外の多様な居住の場)重視」へと方針転換しました。(中略)このことは、厚生労働省が、自宅でのケアが中心となりうる寝たきり老人と異なり、認知症者の自宅でのケアは軽症者を除けば極めて困難なことをようやく理解したことを示しています」(p.173)と評価している。しかし、その一方で、2005、2006年に行なわれた医療・介護保険制度改革の中では、施設と慢性期入院及び「居住系サービス」では、「ホテルコストと食費が全額利用者負担でしかも施設側が自由に料金設定できることになり、利用者の支払い能力によって利用できるサービスと施設が異なる「階層消費」が制度化されたという。
 やや図式化すれば、生活保護受給者と法廷負担しか支払えない低所得者は特別養護老人ホームの大部屋を利用する(非生活保護受給者の法廷負担を含めた利用者負担総額はは、世帯分離をすれば、月額約5万円)、多少の追加的負担を払える中所得者は個室・ユニットケアの特別養護老人ホームまたはグループホームを利用する(同月額10~15万円)、高額の追加料金を払える上所得者は有料老人ホームを利用する(同月額20万円以上)と言えます。(中略)
 私は、このような医療・介護保険制度の公私2階建て化により、低所得者のケアを受ける権利・機会が制限されることを危惧しています。(pp.174-175)

コムソン問題については、元々介護保険市場はサービス提供者が自由に料金を設定できる純粋な市場ではなく、厚生労働省が全国均一の公定料金(介護報酬)を決める「準市場」であり、倫理的にも経営的にも極端に高い利益率の追求は許されないため、大手介護事業者としては不正請求でもして、介護報酬の連続引き下げの中でも高い利益率を確保していかざるを得なかった宿命があったのではないかと著者は述べている。しかし、今回のコムスン処分を受け、、今後の介護サービス提供組織の主役は、「大手の営利企業ではなく、地域密着型の施設・事業者」になり、その中心は「同一の法人・グループが保健・医療・福祉サービスを一体的に提供」する「保険・医療・福祉複合体」になってくるだろうと予測している(pp.175-178)。
それでも問題はやはり認知症ケアビジネスの健全な発展のためには介護報酬の適切な引き上げが不可欠だという。
一般の介護サービス異常に市場が狭く、「勝者一人勝ち」が不可能な認知症ケアでは、一部の優良事業者だけでなく平均的な事業者が適正利潤を確保できるような介護報酬を設定しない限り、良質なケアを提供するための絶対条件である優秀な人材の確保は不可能です。(p.179)

僕が印象に残ったのはそんな記述だ。
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