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INDIA The State of Population 2007(その4) [インド]

3回にわたってご紹介してきた本書も、本日は最終回である。
僕の感想を以下の通り述べさせていただきたい。
お付き合い本当にありがとうございました。

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3.全体的なコメント 
インドの人口政策が人口安定化を上位目標とし、安定化の中期達成目標を出生率が人口置換水準まで引き下げられることとする点、およびこれに向けたインド政府の取組みが十分な成果を挙げていないという点はよく理解できた。インドが国全体としてこのような状況にある中、人口増加をある程度抑制していくという全体政策については議論の余地はないように思う。また、州別で比較するという視点は自分の問題意識とも合致するので、こうしたグループ化は今後の研究の事例としてどの州を取り上げるかを検討する際の参考ともなったように思う。(1)人口構造変化と高齢化への言及
本書を通じて人口構成の変化に対して言及があったのは特に第10章であるが、具体的に高齢化について言及があったのは第8章1カ所のみである。そこでは人口問題と開発問題を総合的に検討し取組みを推進していく制度枠組みの必要性が論じられており、そこでは両方の問題領域にオーバーラップする形で今後持ち上がってくる新たな課題の一例として高齢化が挙げられているのみである。またここでの取り上げられ方もどちらかというと人口構造の変化を開発計画策定に反映させていかないと、人口ボーナスを十分享受することもできずに高齢化が経済成長の足枷として効いてくる人口オーナスのフェーズに移行してしまうという警告的な意味合いで使われているように思えた。

第10章の人口構成の変化の捉え方も、人口増加の慣性をいかに抑制するのかという問題意識に根差したものである。カテゴリー3の州は確かに出生率が既に人口置換水準を下回っているため、これらの州について提言されている人口政策が慣性の抑制策に重点が置かれるのは理解できるが、ここで述べられた具体的な施策は出生率をオーバーシュートする可能性もあり、日本や韓国、タイ等と同じ途を辿るリスクも伴うものであるように思えた。人口安定化に向けたメリハリの効いた政策提言というのであれば、3つのカテゴリーを並列で扱うよりも、最もインパクトの大きいカテゴリー1やカテゴリー2の州の人口抑制策をもっと前面に押し出してもよかったと思うし、逆にカテゴリー3の州を並列で扱うのであれば、社会経済開発の課題と人口問題の統合の一環として高齢化の問題に言及があってもよいのではないかと思う。

アラム教授が言っていた「インドのNational Rural Health Missionはリプロダクティブヘルスのことばかり」というのがよく理解できるレポートであった。

(2)インドの政策制度枠組み
本書において最も参考になったのは人口問題に関するインドの政策制度の枠組みについて理解を深められたことである。既に述べてきたことの繰り返しになるが、インドの人口問題を考える上で鍵となる政策としては以下のものがある。
 5カ年計画
 母子保健プログラム(Reproductive and Child Health Programme)(1997)
 全国農村保健計画(National Rural Health Mission)(2005)
 全国人口政策1976(National Population Policy 1976)
 全国人口政策2000(National Population Policy 2000)
こうした政策文書とは別に、今後の研究を進める上で参考になった記述は、人口政策の実施に当たっての中央と州とのデマケに関するものである。

既述の通り、本書の第8章は人口問題と開発問題を総合的に検討して政策立案と実施がなされなければならないと強調されているが、加えて地域の状況を十分踏まえるという意味で州よりも下位のレベルでの政策立案、実施、モニタリング評価が必要になると指摘もされている。では肝心の州レベルはどうかというと、州政府の開発計画は中央政府で行われているようなモデル形成に基づいて立案されるという形が取られていないという。これは、人口や開発を考える上で必要な情報が州レベルで集約される仕組みになっていないことや、モデル形成を行える実施体制になっていないことが原因と見られる。また、そもそも中央と州のデマケにおいて、中央政府の開発計画自体が州レベルでの実施を前提としており、州レベルで独自の開発計画を策定することに制約が課されているという状況がある。このことは高齢化問題を開発計画に反映させていく際にもボトルネックになり得る大きな問題であると考えられる。

JICAがマディア・プラデシュ州で実施中のリプロダクティブヘルスプロジェクトの専門家から最近聞いた内容もこれを裏付けるものである。同専門家によると、中央政府が詳細な項目から成る保健マネジメント情報システム(HMIS)を導入しているために末端のヘルスワーカーは情報収集に過大な労力を割かれて本来彼女らが行うべき活動ができていないとのことである。詳細な項目をHMISでデータ管理することは中央政府が末端の情報を吸い上げるには適しているかもしれないが、肝心の州政府のレベルはバイパスされ、ある意味州政府が最も現場のことを知らないという構図になっているという 。同州は他州と比べて珍しく州レベルでの人口政策(Madhya Pradesh Population Policy 2000)を独自で策定し、人口と資源、環境のバランスを強調してこのバランスの実現のためには出生率と死亡率の削減が必要であると謳われている点は本書でも評価されているが、2011年までに出生率を人口置換水準まで引き下げるという目標達成に必要な実施体制にはなっていないと著者は述べている。

(3)国内人口移動の人口動態予測への反映
本書を読むに際しても問題意識の2点目は州別の人口動態予測を行う際にどの程度国内人口移動による社会増減の影響を考えておく必要があるかということであるが、要約部分で述べた通り、国内人口移動の大半は州内での農村→都市、州間或いは州内での都市→都市に限定されるため、州別で見た場合の社会増減はあまり考慮する必要がないと述べられていた。このことは自身で州別の人口動態予測をしてみる際には非常に有用な見解だと思うが、逆に州内での農村→都市の人口移動に伴い一部で生じている農業の担い手不足の状況に関して特別な考察が必要となるような気がした。
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