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INDIA The State of Population 2007(その3) [インド]

本書紹介第3弾は、内容をご紹介することにしたい。少々長いですがご容赦を。

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2.要約
 本書は全10章から成る。

第1章 人口増加とその配分(Population Growth and Distribution)
第1章は、インド独立からこれまでの人口増加の全体像とその増加がどの州でどのように起きているのかを述べている。1947年のインド独立時、その人口は3億4500万人だったが、2001年の人口センサスでは、これが10億2900万人とおよそ3倍に増加している。そして2007年7月現在は11億3400万人にさらに増えたと見られる。このようにインドの人口増加は非常に急速であり、それが社会経済開発と生活の質に及ぼす影響は計り知れないものがある。このような予測は早期からされており、インドは1952年と世界的に見ても非常に早い段階から産児制限のための公的プログラムを開始していた。それ以降人口抑制・人口安定化はインドの開発課題の中でも最優先事項と見なされてきたが、政府が言うほどこの努力は実を結んではいないというのが識者の見解である。

人口増加率が2%であれば、約35年で人口は倍増する。実際にこれはインドで起きたことである。そして、人口増加の観点から社会経済開発への影響が最も危惧されるのは、ビハール(分離後のジャルカンド州も含む)、マディア・プラデシュ(分離後のチャッティスガル州を含む)、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ(分離後のウッタルカンド州を含む)の北インド4州である。これらの州だけで2001年のインド総人口の41%を占める。これら4州のうち、1991年から2001年までの10年間に人口増加率が鈍化したのはマディア・プラデシュ州だけで、後の3州の人口増加ペースには鈍化の傾向は見られない。今後の予想として、2025年までに総人口は3億2500万人から4億8500万人程度の増加が見込まれている。この予測は人口安定化努力をある程度踏まえたとしても不可避であると見られる。

第2章 人口の開発への影響(Development Context of Population)
ここでは、急速な人口増加がどのように経済社会開発に影響を及ぼすのか、そのメカニズムを説明した章である。1990年から2002年にかけて、インドのエネルギー消費量は石油換算で3億6600万トンから5億3800万トンに増えたが、この消費量増加の56%が人口増加から説明できるという。1990年から2000年にかけてのインドの炭酸ガス排出量は6億8000万トンから11億1800万トンに増加したが、この増加の36%が人口増加要因によるものだという。著しい人口増加は、1人当たりの天然資源その他資源の利用可能量を制限する。このことは、社会経済開発、持続可能な生活の質的改善に大きな制約を課すことになると述べている。

第3章 人口政策(Population Policy)
第3章では、インドの人口政策の歴史を概観している。著者によれば、急速な人口増加を抑制する努力は主にインド政府が策定した人口政策によって主導されているが、こうした政策の形成過程は制度化を殆ど伴わない場当たり的な対応でしかなかったと評価している。1952年よりインドにおける人口政策は家族計画の推進を通じて出生数を引き下げて人口の自然増加を削減することを注視してきた。出生数と死亡数がいずれも低下することで人口転換を誘発し、生産年齢人口が増えるという結果を招いている。この生産年齢人口増は1991年から2001年にかけての1人当たりGDP成長を8%引き上げるという効果はあったが、このいわゆる「人口ボーナス」はインドではそれほど大きくなかったと著者は指摘している。即ち、引き下げられたとはいえ出生率は人口置換水準を依然として上回っており、出生率低下ペースは緩慢で、人口構造の変化は小規模(marginal)にしか起きていないと主張する。独立後のインドの人口政策のインパクトは、政府が定めた出生率のターゲットを各時点でどれくらい達成したかで測ることができるが、第1次5カ年計画では、計画最終年に当たる1972年の人口1000人当たりの出生数を25人と定めたが、このターゲットは30年以上遅れてようやく達成されたに過ぎない。同様に2000年に制定された「全国人口政策(National Population Policy 2000)」では、2010年に出生率を人口置換水準にまで引き下げるという目標を定めているが、この目標は2021年以前に達成される見込みは殆どない。ウッタル・プラデシュ州(ウッタルカンド州を含む)では2025年以降でないと達成不可能と見られている。

第4章 家族計画(Family Planning)
第4章では、政府の人口政策のうち、政策導入当初からの最優先課題と見られていた家族計画の普及状況について評価が行われている。既述の通り、独立以来、家族計画プログラムは政府の人口安定化努力の中心と位置付けられてきた。しかし一方で、家族計画サービスの提供は公的保健医療サービスの提供と一体不可分の関係にもあった。結果として、インドの家族計画は社会的文化的側面を重視して行動変革を人々に迫るというアプローチではなく、むしろ専門医療面を重視した介入を行うという形をとってきた。このアプローチでは、ファンディングの殆どがインド政府によって行われるという官僚主義的活動に止まり、国民一人ひとりにとってのプログラムとはなっていなかったと著者は指摘する。この状況は今日でもあまり変わっていない。インドでは人口安定化の取組みにおいて社会経済開発面の考慮が欠落している。公的な家族計画普及努力が実際に家族計画の普及やリプロダクティブヘルス、子供の健康といったニーズに応えるためには、プログラムではより包括的な取組みが検討されねばならない。著者によれば、こうしたプログラムはつい最近まで数値目標を設定したトップダウン型のアプローチを取ってきたという。そこには女性の出産行動に関する地域特有の要因に配慮するという余地が全くなかったという。様々な家族計画手法を受け入れた人々の人数という数値目標にこだわるあまり、女性の出産行動に関する社会的、心理的、文化的、家族的要因は顧みられることはなかった。結果として、家族計画は家族の出産行動に対して非常に限定的なインパクトしか残せなかった。

こうした公的家族計画プログラムのアプローチに大きなパラダイム変革が起こったのは1996年のことである。数値目標の設定は廃止され、地域のニーズに応じたアプローチ(community needs assessment approach)が新たに採用されるようになった。しかし、このアプローチを実施に移すのに必要とされる制度的枠組みが依然不明確で、家族計画プログラムで保護されている夫婦の割合はあまり増えていないのが現状である。家族計画プログラムの実施体制のキャパシティビルディングと組織効率の改善が、取り分け各地域のレベルにおいて、家族計画サービス提供の計画策定や地域主体のモニタリング評価といった面で図られる必要がある。しかし、インドの行政制度を考えると、こうしたサービス提供システムの分権化や地域住民やその代表者を巻き込んだ地域レベルでのサービス提供の計画策定は非常に大きな課題とも言える。幸いに、第73次、74次の憲法改正はこうした分権化の方向に踏み込んだ内容となっており、2005年から施行された「全国農村保健計画(National Rural Health Mission、NRHM)」も公的ヘルスケアの提供システムを分権化し、人々の健康面と家族の福祉面でのニーズに有効に応えていくことを狙ったものである。

第5章 女性と子供の健康(Reproductive and Child Health)
ここでは、出産に伴う女性と乳幼児の健康の問題を取り上げている。これは、インドでは乳幼児の女性の死亡率が非常に高く、これが人口全体での死亡率の高止まりに繋がっていると見られているからである。死亡率は低下傾向にはあるが、現時点での水準は依然として高く、政府が定めた「母子保健プログラム(Reproductive and Child Health Programme)」も国際目標である「ミレニアム開発目標(MDG)」もいずれも達成困難と見られている。今日でも10万件の出産につき300人の妊産婦が死亡している。2001年には全国で9万2000人の女性が出産時に死亡し、このうち93%が農村部で起きている。また、この妊産婦死亡数の70%はビハール、ウッタル・プラデシュ、マディア・プラデシュ、ラジャスタン、オリッサの5州に集中している。こうした妊産婦死亡のほぼ半数は、出血多量か敗血症で死亡しており、女性1人当たりの妊娠出産頻度を引き下げ、より効率的な出産支援サービスが行われる必要があることを示している。妊産婦死亡率を改善するために現在行われている取組みは主に施設分娩の促進にあるが、農村部では施設分娩が難しいことの方が多く、また施設分娩には設備インフラや人材育成への膨大な投資が必要であることから、あまり有効なアプローチとは言い難い。

他方、5歳未満の乳幼児死亡率も妊産婦死亡率同様に低下傾向にはあるが、この乳幼児死亡率の減少の殆どが誕生後1年以降の死亡率改善の成果であるという点には注意が必要である。即ち、出産直後から1年目までの死亡率は依然として高い。また、低下傾向はあるとはいえ、農村部と都市部での開きは大きく、また地域間のばらつきも大きい。基本公衆衛生と栄養改善プログラムで包括的なカバーがなされれば、5歳未満の乳幼児死亡数の60%は阻止できるとの試算もある。

第6章 女性の地位(Status of Women)
第6章は、妊娠出産や育児を中心とした女性を取り巻く環境について概観している。女性の性的平等はインドの憲法でも保証されているが、実際には政府が定めた目標と実態との間には大きな隔たりがある。女性に対して不利な状況は近年さらに悪化の傾向が見られるという。インドの女性の地位は、①教育、②ジェンダーバランス、③健康と家族計画、④生産活動への参加という4つの領域から説明ができるが、4領域全てに取り組むような女性のエンパワーメントに向けた包括的アプローチはインドには欠けていると著者は指摘する。

第7章 都市化と人口移動(Urbanization and Migration)
本章では、人口問題の2つの大きな側面における現状を取り上げているが、著者によれば、都市化も人口移動もインドの人口問題の議論では長く無視されてきた側面であるという。その理由として、インドでは都市化のスピードが遅かったことや、都市の人口増加の殆どが都市人口の自然増加の結果であったことが挙げられる。都市化の過程で都市から都市への人口移動がより重要な役割を果たすとの予測はある。地方都市からデリーやムンバイといった大都市への移動である。しかもこの傾向は流入人口に対する最低限の基礎医療サービスの提供に大きな制約条件となりかねない。人口移動では、ウッタル・プラデシュ、ビハールの2州からの流出が最も大きい。逆に流入が大きいのはデリー、ハリヤナ、マハラシュトラの3州である。これ以外の州に関しては、流出も流入も人口構成の大きな変化や経済成長への顕著な影響をもたらすとは見られていない。

第8章 人口問題と開発問題の統合(Population and Development Integration)
第8章では、これまでの議論の中で度々指摘されてきた社会経済開発プログラムの中で人口問題を取り上げることを改めて強調している。近年、開発問題がより人を中心として捉えられるようになってきてはいるが、インドのマクロ経済開発計画モデルにおいて、人口に関係する変数が内生化されたことはこれまでなく、むしろ、人口予測が消費やセクター別予算配分の予測の前提条件として使われてきたにとどまっているという。逆に、人口安定化政策は、社会経済開発のプロセスとは完全に独立して概念形成から政策立案、実施、モニタリング評価まで行われてきた経緯がある。 インドの場合、人口と開発の統合は主に人口安定化政策における保健医療面への配慮という形で行われてきた。それ以外の側面については殆ど顧みられることはなかった。州レベルでも、人口問題や開発計画策定時の懸念等への言及はあっても州が主体的に取り組む課題としては認識されてこなかったという。州レベルでは人口と開発を統合して計画策定を行うキャパシティが著しく弱いことが理由として考えられる。

開発計画策定時に人口要因を考慮に入れることが先ず求められる。そして、こうした人口問題と開発問題の統合は、草の根レベル、即ちコミュニティとのインターフェースにおいて最も有効である。ローカルレベルでこうした統合を行うことは、女性の妊娠出産行動や社会経済開発の当該地域での意味合いを把握して計画策定に反映させていくのにも有効である。

こうした統合は、それに向けた概念形成と実施枠組みの構築を必要とする。特に開発行政の様々な階層において制度化が図られなければならない。有効なのはここでも村落レベルで人口安定化努力と社会経済開発活動のモニタリング評価を総合的に行うことである。しかも、こうしたモニタリングは地域住民に対して行われるべきもので、今行われているようなサービス提供者の活動に対するモニタリングではない。

第9章 人口政策目標達成に向けた進捗状況(Progress towards Population Policy Goals) 
2000年に制定された「全国人口政策(National Population Policy 2007)」の究極の目標は2045年までに人口増加の安定化を達成することにある。この目標達成に向けて、同政策では2010年までに人口置換水準(2.1)まで出生率を低下させることを掲げている。そして、この中期目標の達成に向けた具体的取組みとして、家族計画手段、保健医療インフラ、保健医療人材等の面でまだ十分充足されていない国民のニーズに応えていくことを挙げている。本章では、この2000年人口政策の進捗状況を州別で比較評価している。進捗評価の指標として、先ずインパクト指標として①合計特殊出生率、②乳幼児死亡率、③妊産婦死亡率、④18歳未満で結婚する女性の比率の4つを挙げ、続いてプログラム進捗指標として⑤家族計画手段に対して充たされていない需要、⑥予防接種を全て終えた子供の比率、⑦安全な分娩の実施比率、⑧出生登録の実施状況の4つを挙げた。

2005年の実績を評価すると、インド全体としては、①23%、②29%、③31%、④11%の達成状況である。2010年を目標として考えると、2005年は50%の達成率が目安であるため、いずれの指標も達成状況としては芳しくはない。このため、2045年の目標達成も覚束ないのが現状である。

州別で見ていくと、インパクト指標によると以下の5グループに分かれる。
(ア)全く進捗が見られず、2010年の中期目標達成は既に不可能: アルナチャル・プラデシュ、アッサム、ジャルカンド、トリプラ、ウッタルカンド、西ベンガル
(イ)2010年の中期目標達成はかなり怪しい: ビハール、チャッティスガル、マディア・プラデシュ、ミゾラム、ナガランド、オリッサ、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ
(ウ)もう少しの努力で2045年の長期目標達成も可能: グジャラート、ハリヤナ、ジャム・カシミール、マニプール、メガラヤ
(エ)2045年の長期目標達成にはほぼ目処が立っている: アンドラ・プラデシュ、デリー、ヒマーチャル・プラデシュ、カルナタカ、マハラシュトラ、パンジャブ、シッキム
(オ)2045年の長期目標は現時点で既に達成されている: ケララ、タミル・ナドゥ、ゴア
プログラム進捗指標でみると、15州において状況は「poor」または「very poor」となっている。上記(オ)の3州・直轄地はほぼ達成済みである。但し、指標間での達成状況のばらつきは大きく、③妊産婦死亡率と⑥子供に対する予防接種率はどの州でもあまり芳しくない結果となっている。即ち、健康や家族の福祉サービスの提供体制は人口政策の上位目標と整合的に整備されてはいないことになる。人口と保健医療政策を社会セクタープログラムと統合していく取組みも必ずしも十分とはいえない。

第10章 戦略的オプション(Strategic Options)
以上のレビューを踏まえ、最終章ではインドが今後取り得る政策について提言を行っている。最大の問題は進捗状況に関する州間のばらつきであり、著者は幾つかの共通の特徴を持つ州を3つにグループ化して、各々について重点が異なる政策提言を行っている。このグループ化の基準は、①出生率が既に人口置換水準を下回っているかどうか、②欲しいと思う子供数(wanted fertility)、③欲しいと思う子供数に対して乳幼児死亡の「歩留り」を想定して多めに産まないといけない子供数(unwanted fertility)の3つで、これによって以下の3グループに分けることができる。
(ア)カテゴリー1(アルナチャル・プラデシュ、ビハール、ジャルカンド、マディア・プラデシュ、マニプール、メガラヤ、ミゾラム、ナガランド、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ)
出生率が人口置換水準を上回っており、欲しいと思う子供数も追加で産まないといけない子供数もいずれも多い。これらの州の合計で、2001年から2026年にかけた人口増加数の48%を占めるため、欲しいと思う子供の数を減らし、かつ歩留まりを削減する包括的な政策が必要となる。即ち、住民の生活の質的改善により欲しいと思う子供の数を減らすとともに、家族計画プログラムの取組み強化が必要である。

(イ)カテゴリー2(アッサム、チャッティスガル、デリー、グジャラート、ハリヤナ、ジャム・カシミール、マハラシュトラ、オリッサ、トリプラ、ウッタルカンド、西ベンガル)
欲しいと思う子供数は人口置換水準を下回っているが、追加で産んでおかないといけない子供数が多くて結果的に出生率が人口置換水準を上回っている州。これらの州の合計で、2001年から2026年にかけた人口増加数の37%を占める。これらの州では、歩留りを無くすために入手可能な避妊手段の提供と手段毎の使用方法に関する適切な情報普及が必要となる。

(ウ)カテゴリー3(アンドラ・プラデシュ、ゴア、ヒマーチャル・プラデシュ、カルナタカ、ケララ、パンジャブ、シッキム、タミル・ナドゥ)
出生率が既に人口置換水準を下回っている州であるが、人口増加には慣性が働くために今後も人口増は続き、2001年からの25年間でのインド全体の人口増の15%を占める。これらの州では、この人口増加の慣性(モメンタム)を抑制する政策として、女性の平均出産年齢を引き上げるアプローチ、具体的には妊娠出産の間隔を十分開けることや、結婚年齢を引き上げる施策が求められる。
以上からわかる通り、人口安定化に向けたアプローチとしては、①欲しいと思う子供の数の抑制策、②歩留りを考慮した追加出産を抑制する方策、③人口増加の慣性の抑制策の3つが考えられるが、2000年人口政策は②(歩留りを考慮した追加出産を抑制する方策)のみに集中し、家族計画のニーズ充足を通じてこれを行うことしか考えられていない点を問題として指摘している。このような政策ではカテゴリー1の州の出生率引下げには有効ではなく、これらの州の膨大な家族計画手段に対するニーズに応えることは難しい。必要なのは人間開発に向けた投資と家族計画の提供を組み合わせていくことである。
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降龍十八掌

女の子が間引きされるのに、なんで人口が増えるのでしょうね?
不思議です。
やはり気温が暖かいせいでしょうか?
by 降龍十八掌 (2009-01-08 10:33) 

Sanchai

女の子が間引きされて人口に響いてくるには時差があります。これから影響出てくるでしょう。
by Sanchai (2009-01-08 11:49) 

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