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『介護白書』(平成20年版) [読書日記]

介護白書―介護老人保健施設経営の現状と課題〈平成20年版〉

介護白書―介護老人保健施設経営の現状と課題〈平成20年版〉

  • 作者: 社団法人全国老人保健施設協会編著
  • 出版社/メーカー: オフィスTM
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 大型本
内容(「MARC」データベースより)
介護老人保健施設経営の現状と課題を主要テーマに、介護療養型老人保健施設の内容とゆくえ、後期高齢者医療制度の実施のポイントを解説。高齢化の状況、各省庁の高齢者対策についてもまとめる。
ボパールで「山ごもり」と宣言した以上、観光だけではなく、読書もやってます。こちらでの日課は、だいたい半日かけて観光をして、屋外で読書を2時間やり、部屋でラップトップを使ってメモを作るといったところである。


1.問題意識
2009年2月にケララ州トリバンドラムで開催される会議で日本の超高齢者を取り巻く課題について発表をさせていただくことになった(本当は日本にはもっと適任の方が沢山いらっしゃると思うが、何せ主催者は日本から有識者を招聘するための予算措置もしておらず、それ以前に誰が適任かについて全くアイデアがない由)。高齢者を取り巻く問題というと、これまでは主に所得保障、健康保障の観点から、年金制度や貯蓄制度、医療保険といった制度的枠組みの整備状況を中心に据えてインドを見てきたが、80歳以上の超高齢者となると、医療や介護にさらに特化した分析が必要になる。ましてや今回は日本の超高齢者について話すよう課題を与えられているため、いったんインドから離れて日本について集中的に考えたいと思い、先ずは概況をつかむために白書を読んでみることにした。なお、『平成20年版高齢社会白書』は、12月15日に西ベンガル州シャンティニケタンで講義をやった時に既に読んでいる。

なお、日本では「80歳以上」の高齢者を「超高齢者」と呼ぶことは少ない。日本では「75歳以上」の高齢者を「後期高齢者」と呼んでおり、75歳を統計上の区切りとしている。上記専門家会議の主催者の問題意識はむしろ日本で言えば90歳以上の高齢者に該当するような課題ではないかと思われるが、その点は明確にした上で発表は行なう必要がある。

2.要約
編者自身が一種の業界団体であるので、「白書」と銘打っているものの客観性という点での割引は必要かもしれない。また、自分の問題意識に立って必要と思われる情報だけを拾っている点は事前に断わっておきたい。

(1)介護老人保健施設経営の現状と課題
①介護サービス従事者の人材確保の問題、②介護事業の経営状態の問題が挙げられている。編者の問題意識は2009年の介護報酬改定に向けて、介護職員の給与改善、介護事業の経営改善を実現させるには介護報酬引き上げが絶対必要というところにあるため、少し客観性に欠ける書き方であるのが気にはなるが、全ての問題は介護サービス従事者の質と数の確保にかかっているという点は非常によく理解できた。介護保険制度でカバーされる介護費用全体でみると、要介護高齢者数の増大と介護サービス利用量の増大により、2000年度の3.6兆円から2007年度予算としては7.4兆円に倍増している。しかし、介護費の増加に伴う公費負担、被保険者の保険料負担の増を抑制するため、介護報酬は2000年の制度施行後一貫して引き下げられてきており、このことが介護サービス事業者の経営を厳しいものにし、介護サービス従事者の給与面の処遇改善の遅れに繋がってきたという。

処遇改善が遅れれば人材確保は難しい。介護サービス従事者は、仕事にやりがいは感じていても、勤務内容の割に賃金が安いという不満を感じている。介護サービス従事者の1週間の実労働時間は37.6時間と産業全体の35.3時間(2004年)よりも長く、平均夜勤回数も月4.4回もあって仕事としては厳しい。このため、介護従事者の離職率は20.3%(2006年)と全産業平均16.2%よりも高くなっている。

離職者の多さとともに、求人しても確保が難しいという問題もある。元々高齢者人口のわりに施設定員数が少ない首都圏や近畿圏の大都市部のいて、施設を建設した者の介護職員不足のために開所を遅らせたり、一部縮小して開所したりする等の事態が見られるという。また、介護福祉士の養成学校や大学に学生が集まらないという現象も顕著である。介護福祉士を養成する4年制・短期大学の8割で2008年春の入学者が定員割れとなり、ほぼ半数で定員充足率が50%以下という深刻な状態に陥っている。

厚生労働省は、「介護職員の需給見通し」として、後期高齢者の増加とともに介護職員への需要が増加すると仮定して、2014年には140~160万人の介護職員が必要と見込んでいるが、これは2005年の約112万人よりもさらに30~50万人を必要としている計算になるが、「介護職離れ」の現象を見ると、この増員はかなり困難ではないかと考えられる。

(2)後期高齢者医療制度
人口高齢化の進行や医療の高度化等の理由から、国民医療費や老人医療費の増加傾向は続いており、国民医療費に占める老人医療費のウェートも年々高まってきている。老人医療費の増大は、被用者保険から拠出される老人保健拠出金の増大に繋がり、1990年代後半から、被用者保険が徴収する保険料の3~4割が拠出金負担に充てられるようになっている。このままでは被用者保険なのに本来の被保険者の医療費を賄うことすら難しくなると危惧されてきている。

2002年の健康保険法等の改正(被用者保険の本人負担を3割に引き上げる等の改正)は、老人保健制度の対象者を5年かけて75歳に引き上げ、それに応じて公費負担割合を5割に引き上げるとともに、患者負担を完全1割負担とするという内容だったが、新しい高齢者医療制度の創設は見送りとなった。しかし、この改正の内容には与党内からの批判もあり、政府は「新しい高齢者医療制度の創設に関する基本方針」を2003年3月に閣議決定した。これが「後期高齢者医療制度」である。

新しい制度では、65歳以上の人を対象として、75歳以上の後期高齢者と65歳以上74歳以下の前期高齢者のそれぞれの特性に応じた新たな制度を創設することとされ、後期高齢者については、加入者の保険料、国保及び被用者保険からの支援並びに公費により賄う新たな独立制度に加入することととされた。この制度は、2006年6月の通常国会で、老人保健法の一部改正として、「高齢者の医療の確保にかかる法律」の名で法案可決された。

後期高齢者医療制度は2008年4月から実施予定だったが、前年の参議院選挙で与党が大敗したのをきっかけとして国民に不人気な政策は当面凍結との機運が高まったことから、①前期高齢者の患者負担を1割から2割に引き上げる措置を1年間導入延期とする、②後期高齢者医療制度で新たに保険料負担が発生する従来の健康保険被扶養者の保険料負担についても軽減措置が講じられる等の対応がなされた。にも関わらず、導入された新制度は、「名称問題」「被保険者証の未着問題」「保険料の年金天引き」「従来の医療保険制度における保険料よりも後期高齢者医療制度の保険料の方が高くなった」「診療報酬に新たに設けられた「後期高齢者終末期相談支援料」「後期高齢者診察料」等の解釈」といった点が批判の対象となっている。このため、与党内で「後期高齢者医療制度に関するプロジェクトチーム」が作られ、2008年6月に保険料負担の軽減策等について特別対策を取りまとめた。

後期高齢者医療制度は、後期高齢者の医療費を、国・地方自治体と現役世代、後期高齢者の3者で負担を分かち合うことで後期高齢者の医療を支えていこうとする制度で、老人保健制度と比べて現役世代と高齢者の負担ルールを明確化している点が従来の老人医療制度との大きな違いである。編者の論点は制度の仕組みや趣旨が正しく理解されれば、後期高齢者からの反発は弱まるのではないかというところにあるが、今後の課題として、①都道府県広域連合による保険運営という我が国初めての試みが上手くいくのかどうか、②後期高齢者自身の保険料負担は上昇を余儀なくされ、早晩医療費増大の抑制策や新たな財源確保策が必要となる、③前期高齢者と後期高齢者の医療費負担システムを別々のものとして対応していくことの是非(75歳になって新たな医療保険制度に加入するというのは、世界的に見ても初の試み)等である。

(3)介護保険制度の実施状況
日本の介護保険制度は、被保険者数が約7000万人、要介護認定者数は約450万人、介護サービス受給者は約360万人(うち居宅サービスは260万人、施設サービスは82万人)という規模に発展している。高齢者の6人に1人は要介護者であり、8人に1人は介護サービスを利用している。介護サービス利用者の1人当たり介護費用は月額平均16万円で、全体としては年間7兆円の規模となっている。こうした数字の大きさは、介護保険制度が日本の高齢者の生活に必要不可欠なものになっていることを示しており、「日本の介護保険制度は失敗した」という指摘は誤りである。(pp.177-178)

事業の拡大状況を前期高齢者と後期高齢者に分けてみると、前期高齢者のうち要支援者は0.9%、要介護者は3.9%であるのに対し、後期高齢者では、要支援者は4.9%、要介護者は24.7%となっている。後期高齢者になると4人に1人が要介護者であり、年齢が高くなるほど介護が必要な人は増加する。(当然ながら…)

2000年4月に施行された介護保険制度の課題としては、第1に要介護高齢者の増大が挙げられる。施行時点の218万人から、2005年4月には411万人と、5年間で約200万人、2倍に増えた。それだけ介護保険が高齢者の間で定着したとも言えるが、他方で内訳を見ると軽度の要介護者(要支援及び要介護1)の伸びが大きく、要介護者全体のほぼ半数を占めるに至っている。第2に、要介護認定者が増大したことにより介護サービス利用者が急増したが、これに伴い介護保険の財政も拡大し、財政負担の増大と介護保険給付の増大抑制が大きな課題となっている。第3に、介護費用の増大に伴い、保険料負担も、施行当初の2911円から月額4000円にまで増大している。2005年の制度改正では、予防重視型システムへの転換、施設給付の見直し、地域包括ケア体制(地域包括支援センター、地域密着型サービス)導入等が図られたが、被保険者の年齢引き下げは見送られたし、先に述べた介護サービス人材の確保問題家族による介護を評価する介護手当の導入(家族介護に対する現金給付を導入したドイツは、施行後10年間、保険料の引き上げも行なわずに運営されてきている)等は今後の課題として残っている。

3.感想
元々入門書として読んでいるので、なるほどそういうものかということで勉強するには丁度良かったと思う。社会人たる者知ってて当たり前だろうと思われるかもしれないが、保険料というのは大抵給与天引きされているため、制度の施行に対して今までどうしても受け身になってしまっていたところがあり、意外とちゃんと理解していないというところがあるように思う。後期高齢者医療制度なんてまさにその典型だろう。介護保険制度については、インドに赴任してくる前に参加していた勉強会で三鷹市の職員の方に説明をしていただいたりして大まかには知っていたつもりだったが、「家族介護に対する現金給付」といった課題があるということは知らなかったし、世界的にも介護保険制度を導入しているのはドイツ、日本の他には最近導入した韓国ぐらいだということも本書を読んで初めて知った次第。

以上、大雑把に整理すれば、超高齢者に関する日本の経験というのは、①介護保険制度、②老人医療制度の2点をハイライトし、いずれについても制度そのものだけではなく、「地域包括ケア体制」と地域社会福祉協議会、地域NPO等の地域での福祉の担い手について強調すればいいのではないかという、発表の枠組みは何となくできたかなと思う。
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