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「クレヨンしんちゃん」の受難 [インド・トリビア]

Mail Todayという新聞は普段あまり読まないのだが、プネ出張の往路フライトの機中でたまたま読んでみて、記事選定のユニークさに驚かされた。1つ1つは取るに足りないネタであるが、Hindustan TimesやTimes of Indiaのような全国紙では扱われるかどうかもわからないネタをマメに拾っているし、The Hinduのような生真面目さも感じられない軽いネタも多い。しかも、写真やイラストの挿入が多く、文章が太目のフォントで書かれているので、読みやすい。

さて、そんな新聞の中でひときわ僕の興味を引いたのは、12月3日付の同紙3面にあった「クレヨンしんちゃん」のイラストであった。しかも、3枚も(!!)である。記事のタイトルは「Naughty Shin Chan not suitable for Indian kids(行儀の悪いしんちゃんはインドの子供には向かない)」である。なんだかどこかで聞いたことがあるタイトルであるなと思って記事を読み始めたら、やっぱりどこかで聞いたことがある内容であった。
Shin Chan.jpg
アニメの人気キャラクター、しんちゃんと彼の奇妙な振舞いは、これまで当地における子供向けチャンネルの1つであるHungamaで「しんちゃん」(註:「クレヨンしんちゃん」はインドでは「しんちゃん(Shin Chan)」というタイトル)として2006年から放映されてきたが、情報放送省はこの番組の内容が不適切であるとして禁止を決定した。

もともと「しんちゃん」は欧州やラテンアメリカ、東アジアで放映されて好評を得てきたことからHungamaはインドでの放映に踏み切った。この番組はインドの子供視聴者の心をつかんだようで、2006年12月時点での4歳から14歳までの子供の視聴者数が329万1000人に達したという。2008年初頭までに同年齢層の子供達の50~60%がこのアニメを見ているレベルにまで達したと考えられている。

こうして「しんちゃん」が子供達の心をつかんだのに対し、親の立場からはしんちゃんの振舞いが子供達に悪影響を与えるのではないかと懸念されている。特に指摘されているのはしんちゃんの母親(ミサエさん)に対する言動である。日本人で「クレヨンしんちゃん」を一度でも見たことがある人ならご存知だと思うが、しんちゃんはミサエさんがいつもウェートを気にしていることを馬鹿にしている。例えば、こんなシーンがあるという。
(1)ミサエさんは我々から見ても未だ若いし太ってもいないが、それでもしんちゃんはミサエさんのことを「デブで年増のこども誘拐者(bacche churane wali moti budhiya)」と呼ぶ。

(2)ミサエさんがしんちゃんにチョコチップを分けてと頼むと、しんちゃんはお裾分けを拒否する。ミサエさんが「いったい誰からそんなケチになることを習ったんですか!(Itni kanjoosi tumne kahan se sikhi?)」と聞くと、「あんたからだよ!(Tumhi se, mom)」と答えた。
(註:お気付きかもしれませんが、ヒンディー語で「カンジュース」というと、「ドケチ」という意味です。かなりきつい表現らしいので、使う時は気を付けた方がいいです。)
読んでいてバカバカしさを感じる記事である。「クレヨンしんちゃん」が子供に悪影響を与えるという議論は1990年代に日本でだってよく聞かれた。懸念されている点も全く同じである。放映開始すればどんなリスクを負うのかぐらいは放送する側がちゃんと想定しておくべきことである。それを承知で放映に踏み切ったのではないのか。情報放送省の決定というのも日和見的である。放映開始が今から2年以上前なのに、今さら何が放送禁止だと言いたくなる。

しんちゃんの言動全てを擁護するつもりはさらさらない。それほど「クレヨンしんちゃん」を見ていたわけではないし、インドでもHungamaチャンネルはヒンディー語で放映されているのでうちの子供達は会話が理解できないので殆ど見ていない。

それでも僕は言いたくなる。スリムなミサエさんでも体重を気にしているという事実、そしてそのミサエさんを「デブ」と呼ぶしんちゃん―――いいじゃないか、インドのメタボな老若男女はもっと現実を直視すべきだ。ミサエさんだって体重を気にしているんだから、インドの中高所得階層のお母さん方もそういうライフスタイルに変わっていくべきである。そもそも子供番組自体がそういう所得層の子供を視聴ターゲット層にしているわけで、そこで「デブは悪」という価値観を電波で流せば、ところ構わずスナック菓子をバリボリ食べているインドの子供、全身波打つ贅肉をタプタプ躍らせながら緩慢な横綱歩きをする女性を母親として抱くインドの子供に良い影響を与えるかもしれない。過度の肥満で長生きできないお母さんより、スリムで健康で長生きできるお母さんの方が子供には嬉しいに決まっている。

悪影響だけではなく、好影響を与える可能性についても考慮して欲しいものだ。それに、テレビ番組の悪影響と言うが、子供に何らかの学習をさせるメディアとしてテレビが過剰に評価される社会というのはちょっと寂しい気もする。両親や兄弟、近所付き合いといった中から子供達が学ぶということが昔はもっと多かったと思うが、今やインドでも共稼ぎ家庭が多く、中高所得者世帯では子供の数も1人か2人、郊外のマンションに住んでいて隣り近所に誰が住んでいるのかもわからないといった状況が発生しつつある。学校を除けばテレビだけが家庭や地域社会での教育メディアとなりつつあるという状況の中、親の懸念は理解できないでもないが、どうやったらそれを克服して子供達を適切な方向に導いていけるのかを考えたいものだ。ちょっと問題だと親に言われて放送禁止を政府が決めてしまうというのは安直な解決策であるように僕には思える。
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