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『物乞う仏陀』 [読書日記]

物乞う仏陀

物乞う仏陀

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/10/13
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
アジアの最深部に生きる娼婦、マフィア、子どもの物乞い、障害者らと実際に触れ合い語り合った衝撃のノンフィクション。アジアの暗部を描きつつも、人の生きる姿そのものを教えてくれる、清々しい読後感に包まれる稀有の書。
暫く仕事でロシアに行っていたので、ブログの記事更新ができなかった。この記事を借りてお詫び申し上げたいと思う。

その間、滞在先で読もうと何冊かの本を持って出かけたのであるが、その中の1冊がこれである。毎年年末頃になると特集されるダカーポのBook of the Year 2005で、ダカーポ編集部が選ぶベスト5のうち、ノンフィクション部門にノミネートされていた。

途上国の開発を考えるようなことを生業としていて、かつて僕のセクションで働いていたスタッフに、「アジアを旅していて本当に途上国は貧しいのか疑問に思う」と言われたことがある。何を見てんだよと突っ込みを入れたくなる発言だった。だいたい、日本人が旅を目的に旅していて、娼婦や物乞い、麻薬の売人を目にするような場所に出入りすること自体がさほど多くはない。なんとかぎりぎり一家が食べていけるだけの生活をしていたのに、アジアには地雷の暴発や稼ぎ手の父親の急逝で突然障害者になったり、突然食べていけなくなる極貧生活に転落してしまったり、よく見れば見えてくる貧困の形があるように思う。要は見えていないだけであるような気がする。国や宗教、社会的思想上、障害者を外に出したがらない民族もあるかもしれない。せいぜい1週間程度の旅行をしているだけでは貧困は見えてこない。単に実入りが少ないだけではなく、何かの拍子に欠乏の危機に瀕するような脆弱な生活基盤であることも貧困状況であると思う。

本書は、著者がカンボジア、ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマー、スリランカ、ネパール、インドの市場等で物乞いを生業としている人々を取材する中から、僕達がなかなか見ることができないアジアの貧困を浮き彫りにしようというレポートである。僕の知人には社会福祉関係者や途上国で障害者支援に取り組むNGOで活躍されている方、地雷除去キャンペーンのような活動をされている方もいらっしゃるのだが、こうした、地雷や交通事故、過労(インフォーマルは労働環境で働き詰めになることによって生じる)等が原因となって、働き手が全うな仕事で働けなくなったり、一家の大黒柱を失って母親や子供が働きにでなければいけなくなる、そして雇用機会がなかなか得られない中で、物乞いや売春、麻薬密売等もひとつの職業として成り立っていく様子がとても具体的に描かれていると思う。

特に衝撃的だったのは、インドのストリートチルドレンの話である。5歳までは母親役と組まされて乞食として働くが、5歳を過ぎると少女は売春へ、少年は麻薬の売人になったり、或いは手足を切断されて人々の哀れみの対象として街に出て物乞いを始めるという形で、一種のシステムが出来上がっているという話である。不自然な形で手足を切断されていたり、目や耳、唇等が抉り取られていたりする乞食が多いので、調べてみたらわざとやられたらしいという実態が見えてくる。

かといって、全体のトーンはそれほど陰鬱とした感じはしない。地を這うような取材に基づき、彼らは障害を卑屈に捉えずに毎日を逞しく生きている様をよく描いていると思う。地雷によって四肢が不自由になっても、若者であれば1日の仕事が終われば酒を飲み、買春もする。買春が明るいというつもりはないけれども、限られた状況、恵まれない状況の中で、彼らは本当に逞しくしたたかに生きているのだというのがわかる。

但し、それではこの本を読んで何か彼らのために僕達ができることがないかというと、これもなかなか難しい。ラオスでは車椅子の現地生産を日本のNGOが支援しているそうであるが、そうした取組みを寄付のような形で支援していくのは勿論良いことだろうとは思うが、途上国政府が公式には認めたがらないこうした物乞い、障害者の状況を改善させるような試みを、政府間援助でできるかというと、これもちょっと考えにくい。

ただ、本書を読んでみて、こういうアジアの最深部の実態は、多くの人々に知っていただけたらよいと思う。できるだけ多くの人に本書を薦めたい。

著者のHP「コウタイズム」のURLはこちらから。

著者のブログ「石井光太-旅の物語、物語の旅-」のURLはこちらから。
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