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グジャラート州における女性への暴力 [インド]

22日(月)、かねてから東京の本社より応対を頼まれていたお客様を職場で応対した。弁護士ないしはその卵という方々であり、インドにおける女性に対するドメスティック・バイオレンス(DV)について調査してインド政府に提言するのだという。本社に応対を頼まれたとはいうものの、正直なところDVの実態については生前堕胎や老婦・寡婦の低い地位の問題以外は全く知らず、僕が話せることも限られている。そこで僕が考えた。DVに関する論文でも読んでおこうかと。

さっそくアシスタントに頼んで論文の検索をしてもらった。もう少しスキャンして厳選してほしかったが、10編近くもハードコピーを渡された。応対予定日までは約2週間、十分時間があると思っていたが、あれよあれよと日は経ち、気がついたら前日になっていた。論文はあまりにも読めていない。というか、この先自分の研究に直接的に役に立つ論文でもないので身が入らなかった。もう残り時間もないので、一夜漬けで論文の要約と図表だけを押さえることにした。今日はその中から最も示唆に富んだ論文をブログで紹介する。

Leela Visaria
"Violence against Women: A Field Study"
Economic and Political Weekly, May 13, 2000, pp.1742-1751
この論文は、グジャラート州農村部で行なわれたDVに関する聴き取り調査の結果をまとめたものである。このサンプル調査は、DVの深刻さと地方特有の性格を明らかにしている。

1.対象
この調査で聴き取り調査の対象となったのは346人の女性である。女性の平均年齢は28.0歳、夫の平均年齢は32.3歳と約4歳年上である。平均就学年数はわずか4年、夫の就学年数は平均7.1年である。結婚生活は平均10.4年に及ぶ。対象者の中には、複数世代で同居するものが40.2%、指定カースト出身者が14.2%、ムスリム12.4%等が含まれている。

2.肉体的精神的暴力を訴えた女性の内訳
女性の年齢層で見ると、15-24歳で暴力を経験した女性の割合は78.3%、この比率は25-34歳では60.8%にまで低下し、35歳を過ぎると再び65.9%にまで上昇する。また、結婚してから5年未満の女性で75.0%と高く、6-10年で63.8%に低下した後、11-14年で再び69.0%にまで上昇し、15年以上経つと60.5%まで低下している。出身社会集団による比較を見ると、低カースト77.2%、指定カースト71.2%等が高く、高カースト(44.9%)とムスリム(55.8%)で比較的低い。また、複数世代同居家庭では53.2%程度である暴力を経験した女性の割合は、核家族になると73.4%にまで跳ね上がる。

女性と結婚相手の男性の教育水準の影響も大きい。女性の場合は、文盲だと75.7%、小学校低学年迄だと76.5%の女性が暴力に遭ったと訴えているが、これが中等教育修了とその後の高等教育の経験者の間ではそれぞれ40.7%、43.3%にまで低下する。結婚相手の男性の場合も、夫が文盲である場合の妻への暴力は81.4%、小学校低学年迄でも77.1%と高いが、中等教育、高等教育経験者になればなるほど妻への暴力は減少する。

3.暴力の理由
全サンプルを通じて最も大きな理由として挙げられているのは「食事が時間までにできていないこと」でサンプル数の66.1%がこの点を指摘している。続くのは、「食事が不味いこと」(51.1%)、「経済的制約」(48.0%)、「子供の面倒が十分見られていないこと」(48.0%)等である。「食事が時間までにできていないこと」を暴力の理由に挙げている回答者は非常に多いものの、高カーストに比べて低カースト、指定カーストの方の間でこの理由を挙げる回答者が多かった。逆にムスリムの回答者の場合は、「子供の面倒が十分見られていないこと」(66.7%)を理由に暴力を振るわれているようである。

回答者の年齢層別で見ると、年齢層が高くなるにつれて「食事が時間までにできていないこと」が暴力の理由になる頻度が高くなる傾向にある。また、比率はそれほど高くないが、「家が片付いていないこと」ば暴力の理由になるのは若い年齢層の女性に見られる。同様に、結婚年数が長くなればなるほど「食事が時間までにできていないこと」は暴力の理由になりかねない。女性と夫の最終学歴別で見てみると、女性も場合も夫の場合も、教育水準が高くなればなるほど「食事の準備」が暴力の理由になるケースは少なくなっていく。

4.暴力の形態
サンプル全体を通じての傾向として、「言葉による暴力」(80.2%)、「妻に対する身体的暴力」(63.4%)等が高い割合を示している。「言葉による暴力」は、高カーストでは少なく、低カースト、指定カースト、ムスリムのいずれにおいても高い。高カーストの場合は、「妻に対する叱責」の50%というのが最も高い。「言葉による暴力」「と「妻に対する身体的暴力」は、妻と夫の教育水準が低ければ低いほど頻度が高くなる。また、いずれも結婚後5年以上経過すると高くなってくる傾向がある。

身体的暴力の形態をさらに詳しく見ると、「ひっぱたく(Slapping)」が最も頻度が高い(100%)。これに続くのは「ものを投げつける」(63.3%)、「棒で叩く」(58.3%)等であるが、ひっぱたくケースが圧倒的であることがよくわかる。

5.女性の対応
女性が家庭内で問題が生じた時に誰に相談するのかを尋ねたところ、他人に暴力について報告すると答えたのはわずか59.2%しかいなかった。残る40.8%に報告しなかった理由を尋ねたところ、最も多い回答は「他人に家庭内のいざこざを話すことなどできない」(56.7%)で、続いて「夫がつらい思いをするから」(18.3%)が続いている。逆に他人に報告したケースで誰に相談したかを細かく見ていくと、「ご近所」(56.3%)が最も多く、これに続くのは「義理の姉妹」(20.7%)、「義父母、義兄弟」(14.9%)、「実の姉妹」(14.9%)等であった。

6.結論
以上から幾つかの示唆が得られる。第1に、女性や女児に対する教育の普及を図ることである。第2には、家庭内における男性の役割にも配慮が求められる。男子に対する教育機会の拡充も併せて必要である。

第3には、コミュニティ内で女性の参加できるグループの形成を図ることが言われている。因果関係ははっきりしていないが、女性の自助グループ(SHG)の活動が活発なインド南部諸州に比べ、こうした活動があまり活発でない北インドの各州では女性への暴力をコミュニティ内で抑止するメカニズムがあまり機能していないように思う。女性が家庭内で受けた暴力について相談する相手が近所の住民であるということは、そうした悩み事がフランクに話せる相手がコミュニティの中にいなければいけないことになる。話を聞いてあげられる人が近くにいるというだけでも大きな支えとなり得るのかもしれない。

但し、言うは易し行なうは難しというところもある。グジャラートの場合は、それができないから今のような状況に直面しているのであって、今のような状況を打開するにはこうした方がいいと言われても困る、具体的にどのようにしたらそれが実現できるのかが問われているのである。
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toshi

グジャラード州は、地震が多くて禁酒法がとられているところだと聞きました。インドにもいろいろな問題があるのですね。
by toshi (2008-09-24 16:01) 

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