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カルナタカの児童出稼ぎ労働 [インド]

先々週末に児童労働の勉強会に出てから、この問題と自分がインドで極めようとしている人口高齢化との接点を見出すことができないものかと考えて過ごしている。少しでも関連性がありそうな論文であれば読んでみようと思い、大学院の学籍番号でID登録しているScienceDirectで「児童労働」「インド」をキーワードにして検索をかけてみた。全ての論文を一挙に紹介することは難しいので、取りあえず読み切った論文についてちょっとしたメモでも残しておくことにした。本日ご紹介するのは、英国イースト・アングリア大学のVegard Iversen教授が2002年に『World Development』誌にて発表したものである。

Vegard Iversen
"Autonomy in Child Labor Migrants"
World Development, Vol. 30, No. 5, pp.817-834, 2002
「大都市に出稼ぎに来て劣悪な職場と生活環境の中で生活している子供達が、自発的に出稼ぎに来ているのか、それとも食い扶持に困った両親に無理やり出稼ぎに行けと言われて出されるのか、果たしてどちらの方が多いのだろうか」―――これは、児童労働問題に多少なりとも興味を抱いた最初の時点で僕が抱いた大きな疑問であった。勿論、こうした人口移動のメカニズムは非常にケース・スペシフィックで、どこかの州のどこかの地域で起きたことが簡単に州全体、或いはインド全国において一般化できるものなのかどうかは疑問なしとしないが、僕自身は親の意向がかなり反映されてきたのではないかと思い込んでいたので、本当にそうなのかどうかを検証する事例分析には興味がある。
ChildLabourKarnataka.jpg
事例研究の対象となったのはインド・カルナタカ州のマンディア県(Mandya)である。バンガロールから西に110kmほどのところにあり、同県出身の出稼ぎ児童の殆どがバンガロールに向かう。カルナタカ州はアンドラ・プラデシュ、メガラヤに続き子供の労働参加率が高い州である(州人口の2.6%が児童労働従事者)。同県の児童労働者169人(男子146人、女子23人)を対象として調査を行なったところ、男子の中心年齢は11.6歳、女子は9.63歳と女子の方が若い。出稼ぎ先としては、バンガロール(男子109人、女子20人)が最も多く、続いてムンバイ(男子10人、女子0人)となっている。女子の場合はバンガロールにほぼ集中している。男子は女子ほどではないが同様の傾向がある。

職種としてはホテル・レストランが最も多い(男子86人、女子0人)。続くのは小売店・ベーカリー補助(男子26人、女子0人)、工場(男子13人、女子2人)である。女子の場合は、調査対象23人中20人が家事手伝いである。

出稼ぎ児童の74%は親や親戚のつてを頼り、その紹介によって出稼ぎに行くパターンであることがわかった。残る26%は子供の裁量によって出稼ぎ行為の選択が行なわれていた。職種の偏りからも想像できるが、女子の場合は殆どが親や親戚のつてを頼って働き口が決まっていく。男子の場合は自分の裁量で出稼ぎに出ることが多い。これは、家庭内での暴力から逃れ、家族に行き先を告げずに家を出てしまうというものである。

ちょっとわかりにくいのでもう一度整理してみよう。

1)全体で最も大きな割合を占めたのは男子が家族によるお膳立てに沿って出稼ぎに出て、出稼ぎ先では現地に住む親戚を頼るというもので、全体の43.8%を占める。お膳立てによる出稼ぎのうち57.9%がこれに相当する。

2)次に多いのは、家族のお膳立てにもよらずまったく自分の裁量で出稼ぎを選択するパターンで、全体の14.4%、自分の裁量で出稼ぎに出るパターンの58.8%がまったくあてもなく出稼ぎに出ている。

3)家族のお膳立てによるよらないに関わらずかなり重要なのは、出稼ぎ先に同郷の先輩出稼ぎ人がいるかどうかである。自分の裁量で出稼ぎに出る場合と家族のお膳立てにより出稼ぎに出る場合を合わせると16.2%がこのパターンで出稼ぎが行なわれている。

4)女子の場合は地域での自分の人的ネットワークを通じて出稼ぎを選択するケースはゼロであり、むしろ家族が持つネットワークを通じて働き先が紹介され、決まっていくケースが全てに当てはまる。家族が持つネットワークを通じて事前に働き先のアレンジができているケースだけで13.8%を占めている。

児童の出稼ぎ行動の選択は多分にその児童が置かれた地域の社会経済状況や家庭の状況によって大きく左右されると思うので、繰り返しになるがカルナタカ州南西部の話が州全体、インド全体でそうだとは必ずしも言えないだろう。ただ、児童の出稼ぎ行動の選択の背景に何があるのかを考えてみるには参考になる論文だろうと思う。
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