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『中国とインド』 [読書日記]

インドと中国―世界経済を激変させる超大国

インドと中国―世界経済を激変させる超大国

  • 作者: ロビン・メレディス
  • 出版社/メーカー: ウェッジ
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本
本書の紹介
なぜインドと中国はグローバル経済の高波に乗ることができたのか?アジア二大国家の成長戦略と現状を、気鋭の女性ジャーナリストが活写!
先々週ネルー大学での特別講義にオブザーバーで出席していて、講師の方々の多くが中国をものすごく意識されていたのがとても印象的だった。一方で7月初旬にデリーに来ていた我が社の元北京駐在員が宴会の席上で彼が随行を勤めていた我が社の役員を前にやたらと中国を引き合いに出すので、「でも中国の高齢化は2015年頃から経済成長の足を引っ張り始めるでしょ」とチクリといったところ、むきになって反論してきた。

ことほどさように人々の意識の中に強くある両大国について、これまでの成功要因を解説してジャーナリストの眼で両国の今を伝える力作が本書である。僕がインドに赴任してきた1年前頃には書店店頭に原書が出ていたが、意外と早い時期に訳本が登場している。全体的にはグローバリゼーション絶賛のトーンで書かれているので少々抵抗も感じさせるところはあるが、両国の比較というのは今後も何かと話題になってくるだろうから、こういう本を1冊読んでおくのは悪くないことだ。翻訳も非常にわかりやすく描かれている。
結果として、インドは外国企業が必要とする頭脳は供給するようになっているが、腕力のほうは相変わらずあまり提供していない。インド政府が新しい雇用の恩恵をもっと多くの市民に広げるという約束を守るためには、世界に商品を輸出する工場が必要である。教育レベルの高い英語を話すエリートは、新しいオフィスビルに仕事をみつけることができるが、大半のインド人はホワイトカラーの仕事に就くための訓練を受けていない。何と39%のインド人は読み書きができない。工場で働ける人は大勢いるが、製造の仕事は十分にないので、多くの人々が失業中か、あるいは農業で何とか食いつないでいる。(p.117)
これまで何度かにわたってインドの「人口ボーナス(Demographic Dividend)」に対する懐疑派の意見を紹介してきた。日本の高度経済成長期との比較で言えば、そもそも労働市場に今後参入してくる巨大なベビーブーマーのグループの教育水準が日本の場合や中国の場合と比べてインドは非常に低いのが特徴的である。本書でもこうした点が触れられていないわけではない。全体的には明るい未来を想起させる描き方ではあるが、所々にこのような課題が述べられていたりする。そういう視点だけを拾って引用してみたい。
インドと中国が世界各国と再び関係を結んだ今、グローバルな流れ作業が世界通商の地図をまったく新しく塗り替えている。発展途上国にとって、この変化は大きな上昇気流であり、新しい工場の仕事が何億人という世界の際貧困層を貧窮から引き上げている。この20年間のインドと中国の成長によって、世界中で極度の貧困生活を送っている人たちの割合が、四割から二割に下がったと世界銀行は報告している。大きな賭けである。インド政府の計算によると、インドがこれから20年間、年間経済成長率を8%に維持できれば、3億5000万人が貧困から抜け出せるという。(p.141)
中国にしても、インドにしても、国内に抱える貧困層の貧困状況解消が経済成長によってもたらされるというシナリオは非常によく耳にするものである。農業や教育といった農村部での生活基盤の改善の重要性をよく理解しているような識者であっても「輝けるインド(India is shining.)」と平然と仰ることには違和感も感じるが、高い購買力を持つ中間層がどんどん生まれてこれば彼らが落とす消費支出が経済活動をさらに活発化させて最底辺の人々にまで波及していく可能性はないとは言えない。インドが世界経済と繋がることにより、そうした可能性は高まったとも考えられるが、それでは最底辺の人々が中間層や高所得層にキャッチアップできる機会がどの程度あるのかと聞かれると、殆ど不可能としか思えない。
人口学者の予測によると、2030年、インドは中国を抜いて世界で最も人口が多い国になり、両国とも14億5000万人に達するという。同じく2030年、経済学者の予測によると、インドは日本を抜き、アメリカと中国に次ぐ世界第三の経済大国いなるという。そして2030年、人口の68%が労働年齢となるインドは、世界でも群を抜く労働人口を擁することになる。労働者の収入に依存する退職者と子供に比べて、労働者の割合が非常に高くなる。2030年のインドの労働年齢人口は、06年から2億7000万人増加し、9億8600万人になる。(中略)ところがインドにとって、人口ボーナスが最大の脅威になりかねない。今日、インドの国民は若く、11億の人口の半分が25歳未満、31%は労働年齢に達していない16歳未満である。さらに重要なことに、インドの労働年齢人口(15歳から60歳)は人口全体よりも急速に増えている。インドの若い人口バブル層が労働年齢に到達し始める頃、その生活水準が下がらないようにするためには、現在よりはるかに多くの仕事が必要になる。インドの貧困者向けに、膨大な数の雇用を創出することが不可欠である。文字通り、生きるか死ぬかの問題だ。今のインドには、何千万という新しい労働者はおろか、既存の労働者のためのよい仕事も不足している。子供たちにもっとよい教育を受けさせ、彼らが労働年齢に達したときに就ける職を創出できなければ、インドは人口の時限爆弾に直面する。国は豊かにならずにますます貧しくなり、何億という国民が貧困に苦しむだろう。これはとてつもなく大きな課題である。2050年までに、インドの人口は16億人になると予想される。中国の14億人を上回る数字だ。人口学者によれば、インドの労働者は中国より2億3000万人、アメリカより約5億人も多くなるという。(pp.178-179)
この一節がインドの人口動態上の機会とリスクを最も如実に物語っているように思う。

インドに関心ある人はインドに関してのみ描かれている章だけを拾い読みすることができると思う。タイトルからは両大国の交流がもっと描かれているのかとも期待したが、両国のinteractionといったら2003年に当時のヴァジパイ首相が中国を訪問したことぐらいしかない。両大国が連携して国際社会をリードしていくといったムードがあまり感じられる内容ではなかった。むしろ、追いかけているインド側の首脳の方が中国をかなり強く意識しているということがよくわかる描きぶりであったと思う。

でも、インドの章を読むだけではなく、僕達日本人は中印の台頭が我々の生活に何をもたらすのか、その影響を緩和するのに何をすべきかということを考える上で、第9章「競争力回復の促進剤」も必読だろうと思う。昨今、BRICS経済の躍進に注目してその類の本をやたらと出しているエコノミストが日本にもいるが、その多くは投資対象としてのインド・中国しか見ていない。日本はどうなるかという視点が抜けているように思う。本書の第9章は米国はどうあるべきかについて著者が述べている章になっているが、そこでの主張の多くはそのまま日本にも当てはまるところが多い。

個人的には今はインドへの肩入れの方が大きく、中国への関心は正直あまりないが、自分が今働いている会社を辞めて当面何で食い繋ぐかと考えてみると、米作を見直して中国へブランド米として輸出するというのが1つの可能性かなとも思った。日本のコメは国際競争力に欠けると言われているが、今なら高級ブランド米に巨額の購入資金を投入できる「ゴールドカラー」(本書で出てくる用語)はかなりいると思うし、いずれ中国は人口は多い上に農村社会が衰退して食糧の自給も難しくなってくるだろうから、長期的にもコメ輸出は有望かもしれないと思う。勿論、僕程度の浅知恵で思いつくようなことは、既に誰かが日本で取り組んでいるだろうが…。

最後に少しだけ問題点も指摘しておきたい。こういう訳本を出版する場合、特に脚注や引用文献リストの記載で手抜きが行なわれているのではないかと感じられることがよくある。本書も例外ではなく、脚注で述べられている引用文献の記述が曖昧で直接原本に当たりたいと思ってもなかなか探すことができないという問題点を少し感じた。訳者も校正担当者も、脚注もしっかりチェックしてほしいものだ。
The Elephant and the Dragon: The Rise of India and China and What It Means for All of Us

The Elephant and the Dragon: The Rise of India and China and What It Means for All of Us

  • 作者: Robyn Meredith
  • 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
  • 発売日: 2008/06
  • メディア: ペーパーバック


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