SSブログ

「成長と開発」委員会報告書 [インド]

DSC00009.JPG

27日(火)、デリーにおいて、「成長と開発」委員会(Commission on Growth and Development)の報告書南アジア地域公開記念イベントが行われた。インド国際経済関係研究評議会(ICRIER)の主催で行われたこのイベントは、チダンバラム蔵相のチェアの下、同委員会の共同委員長であるマイケル・スペンス教授が基調報告をされ、インド、パキスタン、バングラデシュの有識者がこのレポートにコメントをするというものだった。

この委員会は2年前に世界銀行や英国、オーストラリア、オランダ、スウェーデン政府、及びヒューレット財団等の支援により設立されたもので、共同委員長はスペンス教授とロバート・ソロー教授という2人のノーベル経済学賞受賞者、19人の委員の中には、インド国家計画委員会のモンテック・シン・アルワリア委員長も含まれている。

委員会設立に当たっての問題意識として、貧困削減や開発を進めるためには経済成長が不可欠であるが、この経済成長を持続させ、しかもより多くの国民が裨益する成長とするためには途上国政府にどのような政策が求められるのか、過去に長期にわたって高度成長を達成した13ヶ国の経験から洗い出してみようというものであった。この場合の持続的な経済成長とは、10年20年といった単位で7%以上の経済成長率を維持した国を指し、当然13ヶ国の中には日本も含まれる。

こうした国々に共通して言えるのは、グローバル経済との繋がり強化を図ったこと、GDP比25%以上という高い貯蓄率を記録していたこと、公的セクターのGDPに占める割合が5~7%程度であること(即ち民間セクターが大きな割合を占めること)、政治のリーダーシップが強かったこと、健康や幼児期の栄養摂取、質の高い教育といった面での投資を行ってきたこと等である。また、成長持続にあたって、成長の恩恵をより多くの人々が受けられること(Inclusiveness)と経済構造の移行と競争環境の創出、柔軟性の高い労働市場、計画的な都市化、農業セクターとのバランスへの配慮等が行われたとしている。さらに、経済成長を先行させて環境配慮は後から行うというのは戦略として不適切であるとの教訓も得られたという。他方で議論が分かれる点も挙げられる。例えば、産業政策の有効性や外国為替制度、国際収支のうち資本勘定の自由化のプロセス、外資規制、外貨準備高の適正水準、中央銀行の独立性等については、対象13ヶ国で共通する示唆は得にくかったとスペンス教授は報告された。

成長の持続に向けた今後の大きな課題としては、所得格差の拡大、中国、インドの2大国の成長が周辺中小国に及ぼす影響、そして当然のことながら鉱物資源や穀物価格の高騰も持続的成長を不安定化させる可能性がある。また、スペンス教授は世界的な人口高齢化も持続的成長への大きな課題の1つとして言及されており、依然出生率が高くて人口増加率が高い国から高齢化国への人の移動が考えられる唯一の緩和策だと述べておられたのも印象的だった。

丁度日本の高度成長期を担った団塊世代の特徴について書かれた三浦展著『団塊世代の戦後史』(文春文庫)とジェフリー・サックス教授の近著『Common Wealth: Economics for a Crowded Planet』を並行して読んでいたところだったので、自発的な出生率の低下とそれに伴うベビーブーマー、そして彼らの都市への流入を繋げて考えていたところであったが、委員会の報告書は、都市による成長牽引には言及はあったが、人口ボーナスには明示的には言及されていなかった。

インドについては、8%を超える経済成長が、25年間は続くと予想されていた。これだけでもインド人参加者はかなりハッピーだっただろう。因みにこのイベントに関する翌日の新聞報道はあまり多くはなかったけれど、The Indian Express紙のインターネット版が取り上げていたのでその記事を引用したい。
経済拡大の恩恵が全ての人々にまで届かないなら、取り残された人々はいかなる成長戦略も支持しないだろう
―ノーベル経済学賞学者主導のシンクタンクが述べる

ニューデリー発、5月27日
安価な労働力が途上国を高度成長軌道に引き上げる――政府やビジネス界を代表する21人の著名な実務者から成るシンクタンクである「成長と開発」委員会は、労働市場を適切に機能させることによって、経済学的にも政治学的にも成長に向けた着実な歩みとなると述べた。『成長報告書:持続的成長と全ての人が裨益する開発への戦略(The Growth Report: Strategies for Sustained Growth and Inclusive Development )』 と題した委員会の最終報告書はこの日公開され、その中で同委員会は、インドとベトナムは、先に持続的成長を成し遂げた13の「奇跡の経済」グループに加わるかもしれないと述べ、経済成長の恩恵が全ての人々に届くことを保障することが必要であると明言した。これに失敗すると、こうしたグループはいかなる成長戦略も指示しないであろうとレポートは警告している。

同委員会は、ノーベル賞受賞者で経済学者であるマイケル・スペンス教授ともう1人の受賞者であるロバート・ソロー教授が座長を務め、インド計画委員会のモンテック・シン・アルワリア副委員長も委員に名を連ねている。同委員会は、レポートの中で、実に多くの途上国において、人口の大きな割合が経済成長の恩恵を受けておらず、また将来にわたっても受けると期待していないという点を指摘している。「彼らが永遠に雇用機会から遮断されるようなことがあれば、経済はそうした人々の労働力を利用することもできず、成長戦略は支持を失うだろう。」

成長戦略の1つとして資本規制を行うことについて、レポートは「投機的短期資金流入を積極的に抑制していく政策はマクロ変動が激しい時期においては有効である」と述べているが、そうした規制は漏れも多く不完全であるとも認めている。(中略)従って、委員会はこうした規制を効率的に実施すべきだと付け加えた。

インフレとマクロ経済安定化といった重要な論点については、レポートは「インフレ率を引き下げることは産出量を減少させて雇用機会を失うという点で非常に高くつく政策である」として、どれくらい高ければインフレ率が非常に高いといえるのかとの疑問を投げかけている。「物価が安定的に推移してインフレ率は一桁であるべきとのコンセンサスがあるが、非常に低い水準にまで引き下げることによってどのような恩恵が得られるのかについてはよくわからない」と結んでいる。
やっぱりインドが今一番気にしているのは、成長の恩恵が全ての国民に届くのかどうか、流入してきている短期資本の速過ぎる動きに対して規制をかけるべきかどうか、そしてインフレ率をどの水準で抑制するのかという3点に集約されるのかなと思った。

それにしても初めて近くで見たチダンバラム蔵相、英語がとてもゆっくりで丁寧な話し方をされるのが印象的な方でした。
nice!(1)  コメント(5)  トラックバック(1) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 5

kobakoba

インドは2割の富裕層と8割の貧民階級という極端な格差社会ときいています 中国も同じようなものでしょう 日本は官僚を中心とした共産党政権もマッサオ というくらいの統制社会で 1億総中産階級という世界でもまれにみる ”公平感のある国” であった時代があります バブルの崩壊と共に崩壊してしまいましたが インド 中国などどのようにして 中産階級の増加を進めていくのでしょうか 非常に難しいと思われますね
by kobakoba (2008-05-30 13:05) 

ベトナム大好き

>インドとベトナムは、先に持続的成長を成し遂げた13の「奇跡の経済」グループに加わるかもしれないと述べ、経済成長の恩恵が全ての人々に届くことを保障することが必要であると明言した。これに失敗すると、こうしたグループはいかなる成長戦略も指示しないであろうとレポートは警告している

大変参考になります。
ベトナムは官僚社会であり、お金は官僚に集まってくるシステムになっています。日本を見ても分かりますが、これは中々帰ることが出来ないでしょう。
私はベトナム経済についてのブログを書いています。
お時間のあるときに見てみてください。
もし構わなければ相互リンクをお願いします。

by ベトナム大好き (2008-05-31 00:50) 

Sanchai

kobakobaさん、コメントとナイスありがとうございます。インドの格差社会が中国と同じなのかという点について少し疑問があったので、ジニ係数を調べてみました。

中国  0.447(2001年)
インド 0.325(1999-2000年)
日本 0.249(1994年)
[出所]http://www.scribd.com/doc/328232/United-Nations-Gini-Coefficient

どこで聞いたか覚えていないのですが、インドの最新のジニ係数はもう少し高くなってきているかもしれません。日本も上のデータは古いのですが、多分今は0.3は上回っていると思います。

この数字は1に近いほど所得の不平等度が高いということになるので、インドは中国ほどではないということになります。

インドがどうやって中産階級の増加を進めていくのかはかなり難しい課題だと思います。ただ、人口比率ではそんなに伸びなくても、絶対数としてはかなりの増加には繋がるかもしれません。
by Sanchai (2008-05-31 23:12) 

Sanchai

ベトナム大好きさん、コメントありがとうございます。ブログ拝見しました。リンクは張っていただいて構いませんが、なにせベトナムについて少しでも言及したのは今回が初めてですのでお役に立てるのかどうか…。
by Sanchai (2008-05-31 23:13) 

ベトナム大好き

早々の返信有難うございます。
早速リンクさせていただきます。
これからも訪問させていただきます。
有難うございました。
もし、リンクしていただけますと嬉しいです。
宜しくお願いします。
by ベトナム大好き (2008-05-31 23:50) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 1