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『Common Wealth』(その1) [読書日記]


Common Wealth: Economics for a Crowded Planet

Common Wealth: Economics for a Crowded Planet

  • 作者: Jeffrey D. Sachs
  • 出版社/メーカー: Penguin USA
  • 発売日: 2008/03/13
  • メディア: ハードカバー
ジェフリー・サックス教授の近著である。全部で345頁ある洋書で、興味のあるところだけを拾い読みしたに今のところは過ぎない。一時帰国に向けてこの2週間、自宅でゆっくり読書などやってる時間もなかったし、一時帰国時にも持って帰らない。ハードカバーの洋書はとかくかさばるので。それに、この本はいずれ翻訳も出版されるだろう。その時に改めてまた紹介するとして、少しだけコメント。

こういう世界的にも著名なエコノミストが『共通の富-混雑する惑星のための経済学』という著書を発表すること自体、今の世の中にどれだけの問題があるのかを如実に物語るものだと思う。人口が増え続ければ地球はもっと混雑し、限られた食糧や天然資源を巡って争奪戦が置き、あまりに多い人口が引き起こす自然への負荷が至るところで環境破壊を引き起こす。水資源を巡る争いも深刻になる。排出される温室効果ガスで地球はどんどん温暖化する。人口が増え続けるということは、増え続ける国々では若年層人口が多いという富士山型の人口ピラミッドが形成されているが、こうした若年層人口の親の世代が子供達を十分養えるだけの所得を得られていないとか、或いはエイズなどに感染して働き盛りで命を落とすような事態になれば、子供達は路頭に迷い、ストリートチルドレンや児童労働、極端な場合は少年兵になっていく。これらは平和への驚異でもある。

サックス教授の近著は、こうした世界が直面する課題に関する啓蒙の書であり、そして処方箋を描いている。
僕がこれまでに重点的に読んだのは第3部の「人口学的な課題」であるのでそこについて少しだけ述べておく。

サックス教授によれば、世界人口に関するエコノミストの見解は、①楽観主義(Population Optimists)、②悲観主義(Population Pessimists)、③人口転換論者(Advocates of Demographic Transition)の3つに分かれるという。①の楽観主義はSimon KuznetsやMichael Kremerに代表され、人口増加に伴う資源制約は技術革新により克服可能と主張する。②の悲観主義は、増えすぎる人口は資源を枯渇させ、エコシステムを破壊すると警告し、技術革新に懐疑的な見方をする。そして、③の立場はその中間であり、サックス教授もこの立場である。

サックス教授は本書の中で、上記③の立場を取り、自発的な出生数低下を促す政策の必要性をかなり強調している。例えば、出生数5人に対して1人が死亡する社会を想定すると、出生数5人のうち2人が男児、2人が女児であるから、1世代後にはこの女子2人がさらに各々2人女児(及び男児2人)を産み、人口が倍増する計算になる。従って、出生率を引き下げるための方策が考えられない限り、人口圧力は2050年に向けて今後も強まると見ている。

自発的な出生数低下を促すには9つの要素があるという。
(1)子供の生存率を高める
(2)女子に対する教育の普及
(3)女性のエンパワーメント
(4)リプロダクティブヘルスサービスへのアクセス改善
(5)「緑の革命」(農業生産性の革命的改善)
(6)都市化の進行
(7)人工中絶の合法化
(8)高齢者の安全保障
(9)公的部門のリーダーシップ

人口圧力の軽減策を論じられている本を読むと、人口減少社会の懸念が叫ばれているような日本とは隔世の感があるが、これからの人口増加は殆どが開発途上国において起こると見られている。そして、強制ではなく自発的に各家庭で出産数を絞り込んでいけるような環境を作らないと、地球の混雑はなかなか解消されないだろう。この問題はいずれ自分達にも跳ね返ってきて、その費用を負担させられるのである。

日本にはいろいろな問題があるのになんで他国に対してODAなどやらなければいけないのか―――そういう批判は確かにあると思うが、今この問題解決に向けて立ち上がり、負担を厭わないようにならないと、いずれその何倍もの形でその費用を次の世代の子供達が背負わされていくことになると思う。必ずしもODAでなければいけないというつもりはないが、何も行動を起こさないでいてもいいのだろうか。読みながらそんなことを考えさせられた。

もう少し読んでみて、また感想を述べるかもしれませんが、本日はこのへんで。
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kobakoba

何だか ”人間という動物” だけが無節操に繁殖して 他の動植物の環境を破壊し それが人間に跳ね返ってくるのだと思います 自然界の一員にすぎないのに 言葉と技術を持った ”動物” が傲慢になって 我が身を壊しているような感じがしますね
by kobakoba (2008-06-08 07:51) 

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