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『インターネット・ガバナンス』 [読書日記]

インターネットガバナンス―理念と現実

インターネットガバナンス―理念と現実

  • 作者: 会津 泉
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
インターネットはだれが管理・運営すべきか、国家か企業か市民か。世界情報社会サミット(WSIS)やICANNの場で、なにが問題として顕在化したのか。その背景はなにか。激突する利害:各国の面子、産業界の思惑、市民社会の自負。アナン国連事務総長、インターネットガバナンス・ワーキンググループ(WGIG)を設置。市民社会の一員として長くこの問題にかかわってきた著者の最前線からの報告と提言。情報社会を担うすべての人の必読の書。

続きは読み終わってから書くと宣言してブログに掲載してから、既に6日が経過している。当然読み終わってはいるものの、先週は本社のある部署からの作業の依頼をこなしていてゆっくりする時間もなく、かなりぶつ切れの読み込みにならざるを得なかった。本題とは関係ないが少し恨み言を述べるが、同じ部署から3人の別々のスタッフがそれぞれ別の作業の指示をしてきて、提出が遅いと催促までされて、挙句の果ては「今日中に」という捨てセリフならぬ捨てメールまでもらった。元々期限を遅れるのは僕の美意識に反するが、とにかく時間がなかったというのが正直なところだ。

さて本題。この本、デリーを訪問された著者の方から直接贈呈された。会社の先輩から紹介されて当地で会ったのだが、会ってお話をされた内容がほぼそのまま本書には書かれている。

話はまた脱線するが、僕は4年前に某大学の社会人コースに修士論文を提出して修士号をいただいている。その時に書いたのが、本書のテーマとも関連する地球規模でのガバナンスの問題である。温室効果ガスや感染症など、もっと最近で言えばサブ・プライム問題や鳥インフルエンザもそうだろうが、国境を越えて域内あるいは地球規模で拡がる問題に対して、今の国と国との政府レベルの枠組みだけでは課題解決に向けた有効な枠組みにならないというようなことを述べた。人口高齢化に向けた取組みのように、各国の置かれた状況によって最適なソリューションが異なるような課題についても、幾つかの選択肢として各国の取組み状況について情報共有し、一緒に考えていくような知的交流の枠組みが求められると思うが、これもそうした地球規模でのガバナンスの一種だろうと思う。ただ問題は、政府レベルだけでの協議だけで根本的な解決にはならないということでもある。温室効果ガスの削減にしても、人口高齢化にしても、政府だけではなく、企業や学界、市民といった異なるレベルでの多層的な取組みが求められるのは言うまでもない。従って、政府代表だけが集まって協議していれば有効な解決策が必ず見出せるというものではない。

その典型がインターネットのドメイン・ネームとIPアドレスの国際管理問題である。インターネットのユーザーとは誰のことだろうか?プロバイダーだろうか、メーカーだろうか、政府だろうか。いやいや、こうしてブログを書いている僕も、読んでいるあなたもユーザーでしょう。そうすると、この問題に対してユーザーのニーズを反映させようということになると、ことは政府間の交渉で決まるというよりも、僕達のような一般ユーザーも含めてその声が交渉の場に伝えられなければならないということになる。「情報社会における市民は、単なる「お客さん」ではなく、積極的に発言し、行動する主体となる」(p.17)ということだ。

インターネットの歴史を少しでもご存知の方は、インターネットの原型は米国で出来上がったということは周知のことだろう。初期の頃はドメイン管理を行なうルートサーバーはロサンゼルスの南カリフォルニア大学の構内に間借りする形で置かれ、それを同大の教授が自主的に行っていたそうだ。発足からして民間主導だったわけだが、その後の急速な拡大によって、国家の安全保障も絡まってくる非常に複雑な問題に発展してきた。従って、ICANN(International Corporation for Assigned Names and Numbers)という民間国際組織が現在行なっているドメイン・ネームとIPアドレスの管理というのは、各国政府の思惑や各国民間企業の利害も絡まり、グローバルなガバナンスの枠組みとはどのようなものであるのか、枠組み構築にあたって想定される問題が何か、非常に具体的な事例を提供してくれる。本書はそうした議論の場に直接関わってきた当事者による執筆であり、とても説得力がある。

もう1つ敢えて述べておきたいことがある。2000年の九州・沖縄サミットの際、森首相(当時)の肝いりで「沖縄ITイニシアチブ」というのを日本政府は打ち出し、積極的に途上国のIT支援を行なうと発表した。「国際的な情報格差(デジタルデバイド)解消のために、今後5年間で合わせて150億ドル程度を目処に非ODA及びODAの公的資金による包括的協力策を用意する」――本書の著者も認めているように、この施策はその金額ゆえに大きな反響を呼んだ。1兆8000億円を途上国のIT分野に限定して供与するというのだから当然のことだろう。でも、著者の試算によれば、2004年までの3年間で3000億円未満、森首相のコミット額の1/6も消化されていないという(p.244)。

僕が未だワシントンに駐在していた2003年頃、カナダ人の上司から、「お前の国は150億ドルも供与を発表しているが、実際に公表されているのを足し合わせても大した額にならない。いったい、どうやって使おうという議論が日本政府の中でなされているのか、公約を守らないのか」と揶揄され、返す言葉もなかった。今でも、あれは一体何だったんだろうかと考えることがある。

途上国のIT支援といっても、通信インフラ整備支援を大規模にやればいいというわけではない。途上国の条件に合う技術の開発を少しお手伝いするだけでも劇的に生活改善に繋がることだってあると思う。要は小口であっても必要なときに迅速に供与できるような資金であってもいい。そうした、小粒でも非常にインパクトのあるプロジェクトをインドではよく耳にすることがある。

今年はその九州・沖縄サミット以来の日本でのG8サミット開催が予定されている。地球温暖化問題に積極的に取り組んでいく日本の姿勢をアピールしたい政府の意向が伝えられているが、何を福田首相がコミットするとしても、「沖縄ITイニシアチブ」のような掛け声倒れに終わらないことを期待したいし、ちゃんと公約が守られるのか、僕達は見守っていく必要があると思う。

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