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『職人力』 [読書日記]

職人力

職人力

  • 作者: 小関 智弘
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本

出版社/著者からの内容紹介
熟練技能は進化する!日経BP Biz Tech図書賞『職人学』第2弾。熟練技能が単なる手技(てわざ)ではなく、問題解決能力だということは、世間一般からはなかなか理解されないところである。今回もわたしはそのことを強調したくて、いくつかの実例を紹介した。「現代の名工」に選ばれた木型工の「方案(ほうあん)」の話や、肉厚パイプを折り曲げてエルボの新製法を開発した町工場の話からも、そのことがご理解いただけるかと思う。熟練技能は固定化したものではなく、常に現場で進化しているということも、強調したいことのひとつであった。大田区の町工場で、加工のむずかしいチタン材を伝統的な技能であるへらで絞って、肉厚0.04ミリの日本一薄くて軽いカップをつくったのもその実例である。<「あとがき」より>
(下線は私が引きました。)

この本、定価1600円というのが信じられないほど読んで面白かった。講談社といったら意外と大衆受けするような題材ばっかり扱う出版社だという印象があって、個人的にはあまり好きではなかったが、よくその講談社が、こんな単調な装丁でこれだけ面白い本を出版したなと思い、ある意味感動した。おそらく、そのうちにこの本は講談社文庫に生まれ変わってもっとハンディかつ低価格になるのではないかと予想する。そしたらもっと費用対効果の高い本になるような気がする。

別の言い方をすれば、こういった本は働くというのがどういうことなのかを我が子に知らせるのに丁度良い本だと思った。僕のようなホワイトカラー労働者が子供達にお父さんが何をやっているのか、仕事をするというのはどういうことなのかを身をもって示すのは非常に難しいことだが、本書に登場する工場の「職人」達は、合理化が進んで工作機械がどんどん労働に置き換わっていったとしても、絶対に人の手を介さなければ仕上げられない製品や生産工程があるのだということを如実に語ってくれている。親が言ってもまともに聞いてくれなさそうな我が子に、「これを読め」と言って薦めるのに丁度良い。

上の紹介の下線部をご覧いただければわかる通り、技能とは問題解決のプロセスなのだということ、これを形式知として読んだり見たりすればわかるという知識に纏めていっても、問題解決のプロセスを座学のみで学ぶことなどできないのだということが著者が言いたかったことなのだろう。「現場力」とか「現場主義」という言葉があるが、こうした問題解決は生産活動の現場で起きたものを試行錯誤を経て解決していくプロセスであり、これは聞いたからといって簡単に複製できるものではないと思う。

それを最初に述べた上で、幾つか面白かった引用を紹介したい。

「町工場の多い町のなかで育った。お父さんも、大森界隈の町工場の人たちのために力を尽した人であった。そういう仲間たちだったから、木村さんの挑戦にこころよく応じて、機械を貸し知恵を貸し、それもできない人たちが「がんばってよ」と声援してくれたのであった。(中略)自転車でひとまわりすればそういう協力をしてくれる仲間がいるから“自転車ネットワーク”とか“路地裏ネットワーク”と、誰いうとなく言われ、私はそれを“アメーバ形のネットワーク”と呼んできた。(中略)誰かが石を投げると、誰かがこんなことができないかと問題を提起すると、そこにいくつかの工場や職人たちが寄り集まって知恵を貸す。それが解決すれば、よかったなあで、そのネットワークは消える。で、また別の誰かが石を投げると、また寄り集まる。集まる人も、技術や機械設備も同じではないが、そんな無名の、形も決まってはいないネットワークが、どこかで生まれては消え、消えては生まれして、町のものづくりが力をつけた。それが工場街の英知として蓄えられてきたからこそ、「困ったら、大田の高いビルから設計図を紙飛行機に折って飛ばせばいい。三日もすれば、製品になって戻ってくる」と言われるようになったのである。」(pp.154-155)

「安い労働力を求めて、やれ中国だ次はベトナムだ、その次はどこですか。アフリカにでも行こうって言うんですか。キリがないですよ。そんなことより、東大阪全体の技術力をあげることです。そのためには若い人を育てることです。」(p.194)

「技術は簡単に真似られる。しかし技能は真似られない。真似ながら獲得し、真似ながら育つものではあるが、技能は人の手や知恵を通してしか育つことができない故に、簡単には真似られない。超高速回転に耐え得るスピンドルの組み立てをする赤松さんの技能は、そのような職人の技能である。真似られない故に、メーカーはその組み立てを、赤松さんに“ご指名”で依頼する。スピンドルに赤松さんの銘は打たないが、その“ご指名”こそが赤松さんの銘である。職人が品物で勝負するとは、そういうことである。」(pp.195-196)


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