SSブログ

『疾走』 [重松清]

疾走

疾走

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/08
  • メディア: 単行本


出版社/著者からの内容紹介
犯罪へとひた走る14歳の孤独な魂を描いて読む者を圧倒する現代の黙示録。一家離散、いじめ、暴力、セックス、バブル崩壊の爪痕、殺人……。14歳の孤独な魂にとって、この世に安息の地はあるのか……。直木賞作家が圧倒的な筆致で描く現代の黙示録。剥き出しの「人間」どもの営みと、苛烈を生き抜いた少年の奇跡。比類なき感動の結末が待ち受ける現代の黙示録。重松清畢生1100枚!「どうして、にんげんは死ぬの?」舌足げなおまえの声が言う「にんげん」は、漢字の仏間」とも片仮名の「ニンゲン」とも違って、とてもやわらかだった。そのくせ「死ぬ」は輪郭がくっきりとしていて、おとなが言う「死ぬ」のような照れやごまかしなどいっさいなく、まっすぐに、耳なのか胸なのか、とにかくまっすぐに、奥深くまで届く。 想像を絶する孤独のなか、ただ、他人とつながりたい…それだけを胸に煉獄の道のりを懸命に走りつづけた1人の少年。現代日本に出現した奇跡の衝撃作、ついに刊行!

遂にコミセン図書室の重松作品を全て読み切った。1年がかりであった。

あらすじを知っていたわけではないのに、なぜかこの本には食指が伸びず、最後の作品になってしまった理由は、400頁を超える長編であることはともかくとして、二段組みになっていて厚さ以上にボリューム感があることが大きい。さらにこの表紙のデザインには恐ろしさも感じる。

僕が重松作品を評する時、よく「寸止め」という表現を使うことがある。手放しのハッピーエンドもない代わりに、主人公が奈落の底に叩き落されるような暗いエンディングもない。ちょいハッピーでも暗さが完全払拭できない終わり方というのが多い。或いは、アンハッピーなエンディングでなくても安堵感がない終わり方というのも時々ある。そしてエンディングに至るプロセスの中で、攻守交替というか、いじめられっ子がいじめっ子になったり、逆にいじめっ子がいじめられっ子に立場が逆転することや、最初はAという少年(少女)がいじめの対象になっていたかと思うと、なにかをきっかけにBがいじめの対象になってしまうことも起こる。人間関係を静的かつ構造的に捉えるだけではなく、ダイナミックに変化していくものであるということが全編を通して描かれているのである。

そういう形で捉えてみると、『疾走』はこんなふうに表現できる。先ず結末は表面的にはアンハッピーなものだろうが、主人公は射殺されることで心の安寧を得られたという意味ではハッピーエンドと言えなくもない。ただ、結末に至るまでのプロセスで主人公を襲う様々な出来事は、その1つ1つがこれでもかこれでもかと主人公を痛めつけるもので、ここまで主人公を貶めるような作品の描き方は過去に読んだ重松作品の中でも極めて異例だと思う。加えて、これも異例なのは、本書にはやくざとその情婦がかなり重要な役どころで登場することである。必然的に、目を覆いたくなるようなアブノーマルな性的描写もある。本書の印象を一言で表すとすると、「壮絶」というのが適当かと思う。ここまでの激しさは他の作品では感じたことはなかった。

東京・多摩地区は登場することはするが、本書のメインの舞台は瀬戸内の農漁村である。引越しを経験せず中学卒業間近まで田舎で過ごした主人公というのも珍しい。教会の神父が重要な役どころで登場するが、聖書からの引用をこれだけ頻繁に持ち込んでストーリーを組み立てているのを見ると、重松清というのはクリスチャンなのかと思ってみたりもできる。そんな疑問は、これまで読んだ作品の中では抱いたことがなかった。

重松清という作家については、エントリーポイントを間違えると2冊目に手が伸びるかどうかがかなり難しくなるような気がする。今回紹介した『疾走』『愛妻日記』等を1冊目に読んだという人は、どういう気持ちで2冊目を読もうとするのだろうかと考えてしまう。(『愛妻日記』は別の意味で2冊目を読もうと考える人をひきつける作品なのかもしれないが。)

重松作品16冊を読みきってみて、改めて自分の印象に残っている作品が何かを考えてみた。個人的には、『その日のまえに』 と『卒業』、『きみのともだち』等を挙げたいと思う。まあ、ここまで重点的に1人の作家の作品を読み込んだのは学生時代の落合信彦(これ自体がちょっと恥ずかしい…)、ロバート・パーカー作品以来で、未だ市内の図書館を見回せば新たな重松作品にも出逢えるだろうと思うので、引き続き機会があれば読んでみたいと思ってはいる。

『疾走』はDVD化されている。『いとしのヒナゴン』に続いて2作品目だと思うが、見てみたいと思う。

疾走 スタンダード・エディション

疾走 スタンダード・エディション

  • 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
  • 発売日: 2006/05/26
  • メディア: DVD
 
疾走 スペシャル・エディション (初回限定生産)

疾走 スペシャル・エディション (初回限定生産)

  • 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
  • 発売日: 2006/05/26
  • メディア: DVD


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 1

ノリ

こんばんは。「疾走」は気になりつつもいまだに読んでません。
表紙からしてヘヴィそうで私に耐えられるか自信がないからです。

>エントリーポイントを間違えると2冊目に手が伸びるかどうかがかなり難しくなるような気がする。

これ、ものすごく同意!します^^
確かに「愛妻日記」が1冊目だったら・・・(汗)
妹は「疾走」が1冊目だったらしく、その後まったく重松作品には
手を出してません(笑)
by ノリ (2007-05-15 21:58) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 1