SSブログ

マイクロファイナンス再考 [読書日記]

The Poor and Their Money (Oxford India Paperbacks)

The Poor and Their Money (Oxford India Paperbacks)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Sd)
  • 発売日: 2001/11/30
  • メディア: ペーパーバック

Book Description
This slim volume provides an easy-to-read description of how poor people in developing countries manage their money. It also describes the recent attempts of pro-poor banks and microfinance institutions to provide services to the poor.

以前知り合ったモロッコのマイクロファイナンス研究者Fouzi Mourji教授(ハッサン2世大学)からお薦めとして紹介してもらった本である。また、他でも言及されているのを聞いたこともある。120ページほどのペーパーバックなので、比較的楽に読めると思う。

著者の基本認識は、貧困層も貯蓄するニーズがあるというものである。貧困層が大量の資金を一度に必要とするような資金ニーズがある場合の戦略として、①必要資金を十分貯めこんでからそれを取り崩して支出に充てる(Saving Up)、②必要資金を前借りして先に支出し、その後返済のために支出を切り詰める(Saving Down)、③自己資金と借入金を組み合わせる(Saving Through)、の3つが考えられるということである。

その上で、本書のポイントは、「優れた金融サービスとは、貧困者が、彼らが貯めた小さなお金を、必要な時には迅速かつ返済可能で透明性の高い方法で大きなまとまったお金に交換できることである。(The good services enable the poor to swap frequently saved small sums of varied value into a lump sum when required in a quick, affordable and transparent manner.)」(p.104) 即ち、著者によれば、問題は「貯蓄か貸付か(Savings or Loans)」ではなく、「貯蓄も貸付も(Savings and Loans)」対応できる顧客ニーズをより理解して柔軟な金融サービスが展開できるか否かにかかっているということである。

"It is much more helpful to think creatively about ways of collecting small sums (be they savings or repayments or insurance premiums) and then of ways of turning them into large sums (be they loans, or withdrawals from savings, or insurance pay-outs).  The poor do not have a 'natural' preference for savings over loans, or vice versa --- they have a need to turn small pay-ins into large take-outs."(p.110)

グラミン銀行ユヌス総裁がノーベル平和賞を受賞して以来、貧困層向け融資が貧困削減に貢献するといった認識があまりに広まり過ぎたような気がする。でも、ちょっと振り返ってみると、僕達が金融機関との取引を始める際には、銀行口座を開設し、すぐに使わない資金を取り合えず口座に置いておくところから始める。借入れが発生するのは、ライフサイクル上は自動車ローンとか、住宅ローンとか、そういうニーズが起きてくる20代後半ぐらいからだった。そう考えると、融資の前にある程度の取引実績があり、銀行顧客は銀行でどのようなサービスが得られるのかをある程度理解することが融資の前提条件として必要なのではないかという気がする。クレジットがエントリーポイントというのはおかしいのではないか。ただ、それは途上国における貧困者の本当のニーズをちゃんと見ていない僕が言っている発言でしかない。クレジットというのはそれを使って何か事業をやるという場合には必要な考え方かもしれないし、日常生活の中で、慶弔関係でまとまった出費が生じた場合にすぐに応じられるのか、子供を学校に通わせるのにまとまったお金が必要になった場合にどうやって工面できるのか、そうしたニーズに応えられる金融サービスであればよいのではないかということになる。 筆者は、こうした考えに基づき、バングラデシュでSafeSaveという金融サービスを1990年代後半に立ち上げている。

本書は、クレジット万能的な風潮に対して、自分の立ち位置を改めて確認するという意味で、格好のテキストであると思う。因みに、著者であるStuart Rutherford教授は、奥様が日本人で、現在名古屋に住んでおられるのだそうな。

最後に、本書の要約がp.114に書かれているので紹介しておく。訳している時間がないので、原文のまま掲載するのでどうかご勘弁を。

Financial Services for the Poor

Good financial services require:

  • Products that suit the poor's capacity to save and their needs for the lump sums so that they can: (i) save (or repay) in small sums, of varied value, as frequently as possible; (ii) access the lump sums (through withdrawals or through loans) when they need them: in the short term for some consumption and emergency needs, in the medium term for investment opportunities and some recurrent life-cycle needs, and in the longer term for other life-cycle and insurance needs like marriage, health-care, education and old age.
  • Product delivery systems that are convenient for the poor and are: (i) local, frequent, quick and affordable; (ii) not burdened with paperwork and other transaction costs; and (iii) transparent in a way that is easy for illiterate people to grasp.
  • Institutions adapted to delivering good products that are: (i) committed to serving the poor; and (ii) cost-effective.
  • A healthy environment for financial services for the poor including: (i) stable macro-economic and financial management by governments; (ii) the rule of law; and (iii) enabling rather than restrictive legislation governing promoters and providers of financial services for the poor. 

nice!(0)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 3

ちびまるこ

ひょんなことから検索中にここへ辿りついた40代の大学教員です。ブログの内容が非常に面白くて随分さかのぼって読んでしまいました。しかも同じ三鷹市の住民のかたであるということも分かってびっくりしました。つい最近まで国連機関に勤務していたこともあって、非常に近い関心と問題意識を持っています。The Poor and Their Money、まだ読んでいなかったので是非読んでみます。

これからもブログを読ませていただけるのを楽しみにしております。
by ちびまるこ (2007-04-12 17:38) 

Sanchai

☆ちびまるこさん、コメントありがとうございます。☆
いやぁ、内容について論評する前にコメントをいただいてしまい、大変恐縮しています。もし差し支えなければどちらの国際機関だったか教えて下さい。
by Sanchai (2007-04-12 20:21) 

ieneko

いつも面白い記事をありがとうございます。久しぶりにコメントさせていただきます。「貧困層も貯蓄するニーズがある。」という視点はオッと思いました。面白い視点だと思います。確かに小額でも貯蓄のニーズはたしかにあると思います。しかしながら、貯蓄できるような貧困層は果たして本当に貧困層なのかな?とも思ってしまいます。

Sanchaiさんがおっしゃるように、マイクロクレジットの貢献をもう一度考える必要があると思います。グラミン銀行でさえ、優良な貧困層をターゲットとして、債務を払いきれなかったような最貧困層を救いきれていません。社会的セイフティーネットとしてのマイクロクレジットの効果の限界を見極めたうえで、補完するような政策も同時に必要とされているように思います。
by ieneko (2007-04-18 00:01) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0