スティグリッツ入門(其の2) [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)
「非対称情報下の市場経済」の研究によりノーベル経済学賞を受賞し、現在も精力的に世界政治経済システムに警鐘を鳴らし続けているJ・E・スティグリッツ。早稲田大学で多くの聴衆を魅了した、彼の歯に衣着せぬ情熱的な講義を収録すると共に、その裏側にある理論的背景を丁寧に解説する。グローバリゼーションが人々の反感を呼び、不平等が生じ続けているのはなぜか。IMFが推奨する自由化政策の矛盾と、アメリカ型資本主義の問題点を明らかにし、相互依存が深まる世界における国際機関の改革を訴える。―新しい政治経済システムを構築するための貴重な論考である。
人事異動が決まった以上はあまり意味をなさない仕事上の読書というのがある。スティグリッツの思想を理解することは、これから半年ほど今の職場に残って仕事をやるとしたらかなり重い仕事だったため、何冊か関連しそうな文献を買い集めて自宅の今に積み上げていた。今となっては必要性も薄れたとは思うのだが、目の前に詰まれた未了の山はさばきたくなるのが心情である。そんなわけで取り合えず読んでみた。
なぜスティグリッツが早稲田で特別講義を行なったのかというと、本書の編者の1人である藪下史郎教授がエール大留学時にトービン、スティグリッツ両教授に師事したという繋がりがあったからのようである。従って、本書の構成は、まさにスティグリッツ教授の講演録に始まり、藪下教授のお弟子さんとおぼしき荒木助教授が講演内容の解説をつけ、最後に藪下教授がスティグリッツ教授の経済学の本質ともいうべき「非対称情報の経済学」と政府の役割の重視、グローバリゼーション下における国際間取引ルールという国際公共財供給の必要性等について解説を行なっている。
スティグリッツ教授の講演内容は、彼の近著『世界に格差をばら撒いたグローバリズムを糾す(Making Globalization Work)』と重なる逸話が多く、特に新しいものがあるようには思われなかった。この講演は2004年4月に開催されたもので、その頃から温めていた問題意識が近著には反映されているのだなというのがよくわかる。
元々スティグリッツ教授の本を読むに当っての僕自身の視点は、①彼が社会保証制度、医療制度改革についてどのような視点を持っているのか、②一時に比べれば最近はあまり触れられることが少なくなってきたようにも思える「国際公共財」について、彼が現在どのような見解を持っているのか、の2点だった。講演では後者についてはそれらしき言及があるが、①についてはあまり明確には伝わってこなかった。藪下教授の解説の中には当然これらについても言及があるが、各々の論点について、詳細は以下の参考文献を読むよう述べているに過ぎない。
社会保障制度、医療制度改革について
Economics of the Public Sector
- 作者: Joseph E. Stiglitz
- 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc (Np)
- 発売日: 2000/02
- メディア: ハードカバー
国際公共財について
Global Public Goods: International Cooperation in the 21st Century
- 作者:
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Sd)
- 発売日: 1999/06/03
- メディア: ペーパーバック
Providing Global Public Goods: Managing Globalization
- 作者:
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Sd)
- 発売日: 2003/03/01
- メディア: ハードカバー
社会保障制度改革については、次の文献にでもあたってみようかと思っていたところである。2000年発刊だからちょっと古いが、スティグリッツ教授と共著者として名前が挙がっているRobert Holzmannは、人口高齢化と社会保障制度改革を論じる際にかなり頻繁に引用されるエコノミストである。
New Ideas About Old Age Security: Toward Sustainable Pension Systems in the 21st Century
- 作者:
- 出版社/メーカー: World Bank
- 発売日: 2000/10
- メディア: ペーパーバック
さて、本日冒頭で紹介した新書であるが、入門編としては非常にわかりやすいと思う。藪下教授の解説はかなり丁寧で、少々くどさも感じるところもあったが、一般読者を対象とするにはやさしい書きぶりだった。
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