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市民講座「少子高齢化と日本経済」(第29回) [少子高齢化]

市民講座「少子高齢化と日本経済」(第29回)                                      「ヨーロッパにおける少子高齢化時代の働き方」                                                        講師:権丈英子・亜細亜大学経済学部助教授

3月3日(土)に行われた講義。欧州の労働環境について学ぶことで、日本の労働環境について客観的な評価をすることができるというのが企画立案者の意図だと思う。比較するのは面白かったが、欧州と同じことが日本でできるだろうかと考えた場合、暗い気持ちになってしまった。

権丈先生はオランダにお住まいになられたことがある方だそうで、欧州といってもオランダを強く意識されていたように思う。

本日の学びのポイント                                                                                                                       1.欧州の多くの国々は日本よりもずっと早くから高齢社会を迎えていたが、高齢化率の一本調子の上昇を抑え込んでいる。こうした国々の施策を見ることで、日本の超高齢化を抑制する方策も考え得る。

2.高齢化の抑制には出生率の低迷を反転させて若年人口の増加率をある程度の水準で維持させる必要がある。その鍵は女性が働きやすい環境にあるかどうかである。OECD諸国の比較によれば、女子労働力率(20-44歳)と合計特殊出生率には正の相関関係がある。しかも、この相関係数は、1980年代半ばまでマイナスであり、すなわち女性が多く働くと出生率が低下するという関係にあった。ところが、それ以降はプラスに転じ、女性が働けることはむしろ出生率の上昇に繋がるようになった。

3.この相関関係を国別で見ていくと、負の相関があった1970年代は北欧と南欧とでは南欧の方が出生率が高く、女子労働力率が低かった。これが1990年代以降は、南欧の出生率は北欧以上に低下し、女子労働力率は北欧ほど高くなかった。日本は南欧と同じような動きをしている。(それ以上に激しい出生率の低下と女子労働力率の低迷を経験しているのが韓国である。)

4.相関係数の逆転は女性が働きやすい環境整備が行われたからであろうと推察される。北欧やオランダでは、週労働時間50時間以上の労働者の割合が英米や日本と較べて著しく低いことに特徴があり、ワーク・ライフ・バランスの概念がより浸透しているように思われる。パートタイム労働者の割合をみると、オランダでは女性のパートタイム労働者の割合が60%にも達し、OECD加盟国中最も高い国である。(ここまで書いて気付いたが、権丈先生、北欧のデータをグラフから落としており、講義前半の北欧賛美が一体何だったんだと疑問に思えてきた。)

5.日本とオランダのパートタイム労働者の置かれた環境を比較すると、日本では一般労働者に較べてパート労働者の時間当たり賃金は生涯殆ど上昇せず、しかも男性の一般労働者の賃金上昇が非常に急激であるため、賃金格差が正規労働とパート労働の間で大きく、かつ男女間も非常に大きい。他方、オランダの場合は、正規労働とパート労働の間の賃金格差は殆どなく、年齢とともに上昇する。女性の場合は伸びが小さいが、それでも正規とパートの格差は日本ほどは大きくない。即ち、オランダではパートとフルタイムの均等待遇が確立されている。

所感                                                                                             1.先ほども述べたが、前半は北欧を賛美していた筈の講義が、途中から北欧が抜け落ちてオランダが中心となった。また、北欧賛美の理由の1つはワーク・ライフ・バランスのように仕事とプライベートのメリハリが効いているからだと考えられるが、その割には途中から労務環境の話に収束してしまった。僕がワシントンでいろいろな国の方々と一緒に仕事した時の印象では、北欧諸国は夏休みが長くて8月は殆どビジネスパートナーをつかまえることができなかった。ただ、同様にドイツのビジネスパートナーも8月はよく休んでいたし、他のスタッフも長い夏休みを当たり前のように取っていたし、権丈先生が紹介されていた2月25日の毎日新聞の社説にあるような、ルター派とカルヴァン派でレジャー精神に有意な差があるとは僕にはどうしても思えない。但し、こうした長い休みを取る習慣が日本にはないのは間違いないところである。

2.こうした長期休暇やパート労働への理解は、欧米社会全体の設計と大きく関係するところであり、欧米でできているから日本でもやるべきとは一概には言い切れない。講義を通じて欧州ではパート労働や派遣労働者の権利に関する法整備がかなり進んでいるという印象を受けたが、なぜそうした法案がこれらの国々では通るのか、政治家や企業経営者側の抵抗はなかったのかといったことを考える必要もあると思う。そういうワーク・スタイルを受け容れられる土壌が既に欧州にはあったということなのではないかと思う。

3.翻って日本を考えた場合、自分の会社での経験を鑑みると、「ワーク・ライフ・バランス」の実現は個人の努力だけでは実現困難であると言わざるを得ない。いつまでも職場で残業をやっていたら、恋愛する時間も趣味する時間もなく、ろくな人生にはならないことは誰もがわかっている。だから僕は部下には先に帰れと言う。でも、下らない仕事が依然として存在するのは、マネージャーとしての僕や僕のチームのレベルでの努力だけではいかんともし難く、むしろそういう仕事を求めてくる経営者の考え方に大きな問題があると思う。また、そういう仕事のやり方が、企業よりも政府官僚の間で一般的であることも問題だと思う。僕が一緒に仕事したことがある北欧やドイツの官僚は、本当によく休んでいた。そういうワーク・スタイルが法整備の担い手となる官僚の間で受け容れられていないのであれば、それが社会全体で一般化することなどできよう筈がない。

4.どうしたらいいのか僕なりに考えたりもしたのだが、「従業員にやさしい企業」を評価してランキングを発表する第三者機関でもできたら、少しはステークホルダーとしての労働者を意識した経営が行われるようになるのではないかと思う。そういう側面での取り組みも、企業の社会的責任として重要である。そんなランキングができたら、僕の会社は相当低い評価しか得られないだろうな。

5.最後に、権丈先生が毎日新聞2月25日のコラムよりも、先日ブログで書いた2月26日の日経新聞朝刊の石田衣良へのインタビューの方が僕にとってはインパクトが強い。


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