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壊れる職場 [読書日記]

職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理

職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理

  • 作者: 荒井 千暁
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 新書
 
今は極めて精神的に不安定な時だから、自衛策ということもあり、こんな本を読み始めている。筆者の前著は立ち読みで目を通し、いい本だなと思った記憶があるが、今回筑摩新書から発売になった近著もまた、とても読みやすく、現代の企業社会の病理を突いていると思う。不眠・脳の疲労・自律神経系の乱れ・思考が混乱し集中できない――本書を読んで、僕はもう鬱の典型的症状が出ているのだなと思った。心身のバランスを崩しながらそれでも働く人は、昔からある職場の阻害因子を下敷きに、近年企業で導入が進んでいる成果主義によって歪みが増幅され、翻弄されていく。前著に比べて、成果主義の功罪と正面から向き合った書きぶりになっている。
 
「昼間はそうした雑事に追われ、自分の仕事は夜にやるという状態になっていったが、その頃の彼の顔つきにはあきらかに変化があった。どういう顔貌かと言われても表現が難しいが、心ここにあらずというようにも見えたし、何か安堵しているようにもみえた。やってはみるが、目標達成には至らないとの予見があったのではないか。」(pp.79-80)
 
また、本書では、筆者自身の経験も綴られている。「長時間労働を自ら受け入れていった結果、就労と私生活の区分ができなくなり、飛行機が墜落するがごとく燃え尽きていったのです。(中略)最後は後任の医師が着任するまであと3ヶ月、あと1ヶ月と勘定しながらの日々でした。」(p.163)
 
「人というものは仕事が強いられている、いないにかかわらず過剰な長時間労働をしていれば、ただそれだけで崩れる」(p.163)
 
「チームリーダーとしての要である管理職の「像」はぼやけたまま、成果主義を中核とした部下の評価や育成、そして煩雑なマネジメントに追い回されながら現場の指揮を取るのが現代型管理職の任務といってよいでしょう。組織体はスリム化やフラット化への方向を辿りつつも躍進しているというなかにあって、音もなく膨張した業務に囲まれた職場で気がついてみたら、管理職たちがあちらこちらで立ち往生しているのです。こうした姿は部下たちにも影響し、「将来、管理職になりたいか」という問いに対して、実に54%もの一般社員が「ノー」と意思表示をしています。」(p.168)
 
我が社では、部課制に変えてチーム制を導入しているが、その際に課長代理のような中間管理職がチーム長に代わった場合、労働組合は彼らを組合員として扱うのかどうかが問題になった。そこで出てきた方針は、一般組合員に比べてチーム長の処遇改善への取組みは優先順位を落とすというものだった。僕はそれを聞いて組合を脱退した。今思えば、成果主義もあいまって負担が集中するのがチーム長だとすれば、組合が本気で取り組むべきだったのはこうした中間管理職やその一歩手前のクラスの組合員の処遇改善だったのではないかという気もする。
 
また、筆者は働いて鬱病になるパターンを2つに分類している(p.186)。1つは、思考の混乱を経て起こるケースで、仕事のできるタイプの人に多く、業務が一極集中することによって生ずる孤立状態を経て鬱が生じるという。僕が仕事できるタイプだとは言わないが、真面目には取り組むタイプではあると思う。お陰でこういう破目に陥っている。もう1つのタイプは、自分には覚えのない理不尽さを経験して起こるケースで、多くはモラルを欠いた職場から生まれているという。これも実は今の僕の会社には当てはまると思う。身に覚えのない理不尽さというのは、僕の職場においては、社長の天の声が取り巻き連中によって様々に解釈され、拡声器まで付けられて現場に落ちてきて、それに翻弄されて納得もしないまま今の仕事をさせられているという状況について感じるところである。
 
そして、前著ほどではないにせよ、筆者は結論の部分でトップ(前著の場合は上司だった)の姿勢に言及している。「社長という人物が従業員やモノをどう見ているか(中略)、ひとことでいえば従業員にメッセージを伝え、共鳴音を出させる力があるかないか」(p.204)がだという。現場の惨状をありのままに社長に伝えていない職場の幹部や取り巻き連中にも問題はあると思うが、やっぱりトップのあり方ではないか。我が社の社長は対外的にかくあるべしという勇ましいビジョンは語って下さるが、従業員に対する労わりの言葉をかけられたのをあまり聞いたことがない。ごくたまに若手社員との対話の機会を設けては下さるが、持ち時間1人1分で何をしゃべれというのか。皆言いたいことのほんの一部分しか言えないのではないか。
 
会社も上司も守ってくれるわけじゃないのだから、せめて自分の心と体は自分で守らなければと痛切に感じる。この本を読むと特にそれが感じられる。

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ハンディクラフト

つい先ほどNHKのテレビでうつ病で会社を休んで治療して、また出社してもまた鬱になり懲り返されておられる方や、大きな企業には結構鬱で出社できない人が多く 上司の方のそういう方に対処し方を放映していました。
関心を持ってみていました。頑張れという言葉は絶対駄目とも言っていました。  酷使されている人がいかに多いか。
  私達がゆったり生活していていいのだろうかと思ってしまいます。
by ハンディクラフト (2007-02-16 21:34) 

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