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『インドの時代』 [インド]

インドの時代 豊かさと苦悩の幕開け

インドの時代 豊かさと苦悩の幕開け

  • 作者: 中島 岳志
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/07/22
  • メディア: 単行本

内容(「MARC」データベースより)
これが現代インドのリアルだ! 怒濤の経済成長を続けるインドでせめぎ合う、政治と宗教、消費文化と精神世界。先入観や一時的なブームに流されず、戸惑い逡巡する「21世紀の大国」の内面に鋭く迫る。

実は僕の次の勤務地としての第一希望はインドである。そして、アーユルヴェーダに関心のある妻の希望も同様である。インドで働く希望はもう既に10年来のものであり、そのために1999年頃にはヒンディー語も1年近く習った。かなり忘れてしまって今話せと言われても自信はないが、実戦でさらされればそれなりに思い出すと思う。

先週末に気持ちを落ち込ませるような事態に陥ったこともあるが、そうした時にはちょっと息抜きも必要かと思い、本日ご紹介するインドの本でも読んでみようかと思った。インドの本を読むのはホント久し振りである。これを読んで気持ちだけでもインドに飛べればと思った次第だ。

本書は、昨今のインド・ブームに便乗して「これからはインドの時代」と喧伝しているような安っぽい本とは一線を画している。また、よく開発学者や経済学者が取り上げるようなインド農村部に貧困を直接的な対象として描いているわけでもない。むしろ、著者のフォーカスは都市部に住み1990年代の経済自由化によって徐々に拡大してきた中間層の日常生活や心の問題に絞られている。グローバル化が進み消費主義が浸透した現代社会に生きることに「戸惑い」や「苦悩」を抱いている人々である。筆者があとがきで述べているように、彼らは、現代社会の急速な変化に乗り遅れまいと全速力で疾走しつつ、それでは満たされない心の問題を抱えているという。そして、そのような悩みは、我々日本人が日本の社会で抱いてきた苦悩と同様にものだと筆者は言う(pp.217-218)。

ハンバーガーやフレンチフライの味に舌が慣れてお母さんのインド料理が食べれなくなった子供達や、デリー郊外の新興住宅地ではコミュニティ意識が全く希薄で近所付き合いもほとんどないといった話は意外だなという気もしたが、こうしたところにグローバル化の影響が出てくるのだなと感じさせる。高い経済成長率を記録し、中間層が厚みを増してくると、確かに経済大国としての存在感は急速に高まっていくものであるが、往々にして古き良きコミュニティの結束は薄れていく。日本も経験した道である。

高度成長の中、中間層は目一杯のスピードで走っているが、ふと振り返った時、ヒンディーらしさというものを忘れつつあることに気付き、苦悩する。読んで意外だったことの1つは都市中間層の自殺率の高さである。また、先々週あたりのNHKのドキュメンタリーでも紹介されていたが、インドの受験熱も相当なものであるようだが、家族や村の期待を一身に背負ってIIT当りを受験しようとする青少年が、もし受験に失敗でもしようものなら、そのダメージは相当大きいと見られている。

都市中間層の人々は癒しを求めて、アーユルヴェーダや新興宗教に手を染めていく。そして筆者が非常に懸念しているのが、近年のヒンドゥー・ナショナリズム運動であるという。

そう考えると、タイトルと内容はちょっと合っていないような気がする。筆者が描きたかったのはあくまでも都市中間層の苦悩とそこから勢力を伸ばすヒンドゥー・ナショナリズムであろうが、「インドの時代」というともっと世俗的なインド論かと想像されてしまうだろう。

挿入写真がふんだんに使われており、読みやすい章は読みやすい。第3章以降はちょっと難しい記述になるが、それ以前の各章はインドの現代社会、特に都市の中間層の様子を垣間見るには格好のレポートだと思う。マッサージだとか、ヒンディー映画の話題もチラッと出てきており、それなりにエンターテインメント性も狙っておられるのかなとも思う。シャー・ルク・カーンがまだ健在だというのを知るとちょっと嬉しい。"Yes, Boss"を見て軽いキャラだなと思っていたが、本書に出てくる”Swades”はかなり優れた作品であるようだ。

                                  ▲シャー・ルク・カーン(Shah Rukh Khan)といえば僕にとっては1997年の"Dil to Pagal Hai"です。というか、シャー・ルクというよりも、マードゥリー・ディクシット(Madhuri Dixit)のファンでしたが…。


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