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『少子化する高齢社会』 [読書日記]

少子化する高齢社会

少子化する高齢社会

  • 作者: 金子 勇
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
世界史的にも稀な出生率の低下で、日本の豊かな社会は崩壊してしまうのか。この一五年間、既婚者出生力支援に限定した政府の少子化対策は、保育偏重のため、未曾有の人口減少時代にほとんど成果をあげられなかった。二一世紀日本社会を停滞から、活力ある「老若男女共生社会」へと再生するには、「少子化する高齢社会」として両者を連結させた「適正人口社会」の発想が基本。高齢者神話を壊した高齢者を支援し、三位一体の人口変化を正確に受け止め、子育てフリーライダーの生みだす社会的ジレンマの解決を目指し、必要十分条件の観点からの今すぐ取り組むべき具体的な政策を提言する。あらゆるジェンダーとジェネレーションのため、そして持続可能な日本社会のための道すじを模索する力作。

某先生曰く、金子教授はprovocative(挑発的)との評である。論旨は極めて明快なのだが、大同小異を容認しがたいといった風情で、今回もICU八代尚宏教授あたりの日経でのご発言に噛みついていらっしゃる。金子教授がおっしゃるほどの明確な確信犯的意図を持って男女共同参画社会基本法は制定されているわけでもなかろうにと思うのだが。
 
但し、金子教授のおっしゃっていることは正論だと思う。
1.少子化の原因は、未婚率の漸増と既婚者の出生力の持続的低下にある。従って、「待機児童ゼロ作戦」のような既婚者の出生力を下支えする政策だけでは少子化対策としては片手落ちで、未婚率の上昇という問題への取組みも必要である。
 
2.未婚既婚を問わず、一定年齢以上の全社会構成員が、次世代育成へ何らかの責任を持つべきである。一方で1人の子育てに3000万円を費やす男女がいて、他方では直接的な子育て費用がゼロの子育てフリーライダーが増殖してきたことで、社会保障全般への不公平感が強まってきている。
 
3.不公平感解消のために、「子育て基金」構想を提案する。これは、子育てに伴う経済的、時間的、肉体的、精神的負担の社会的共有を目指して、0歳から18歳未満までのすべての国民2300万人に月額4万円(年間48万円)を支給するものである。
 
4.今日の高齢社会論の多くが高齢者や長寿化だけをその研究対象にして、少子化が高齢社会の推進力であることを見逃しがちである。加えてそれは、社会認識においてジェンダー論に特化する傾向を強く持っている。そのため、もう1つの社会認識軸である世代論(ジェネレーション論)への配慮が決定的に不足しており、こうした認識の一面性により、世代間協力の典型的な事例である年金制度改革への展望も得られない。
 
5.サクセスフル・エイジング、またはアクティブ・エイジングとは、先ず薬を飲んでいても通院していても自立できる程度の健康に恵まれ、男性が78歳、女性が85歳という平均寿命を超えるような長生きをして、そこで生きがいや満足感、幸福感がもてるような老いの過程のことを指す。健康増進策に加えて、人と人との関係を増やしていく努力が、個人の健康づくりにもっと役に立つ側面がある。そして、多様な社会活動へのチャンスを自治体や高齢社会関連集団が政策的につくることが高齢者の人と人との関係づくりを保証していく。「健康」「お金」「役割」「親密な他者」というのがサクセスフル・エイジングの4点セットである。
 
6.仕事と家庭の「両立ライフ」実践者は、このままでは地域フリーライダーになる。地域フリーライダーとは、自分の老親や子供が地域社会に支援されているにも関わらず、仕事の都合で自らは地域社会で支援する側に立てない人々である。政府が主導してきた男女共同参画社会とは、こうした地域フリーライダーの増殖を支援する考え方である。地域を支えている主力は専業主婦であるが、この専業主婦の「家庭と地域の両立ライフ」を貶める政策を政府は進めてきた。
 
7.男女共同参画社会に代わり、「老若男女共生社会」を提案する。これは、ジェンダーとともにジェネレーションが一致協力して前世代としての高齢者への福祉支援活動を行う一方、次世代育成を「社会全体」で取り組む姿を展望するもので、40歳以上の男女が65歳以上の要介護者を支えあう介護保険と、30歳以上の男女が高校生までを育てている全ての家庭を支援する子育て基金などから構成されている。
 
高齢者に比べて子供に対する社会保障関係支出が少ないのは日本の特徴であるが、社会保障制度を研究している多くの論者が、子供向けの社会保障の拡充を支持しており、中には「子育て基金」に近い構想を提言されている方もいらっしゃる(中垣陽子著『社会保障を問いなおす』)。また、世代間の交流については先日紹介した広井良典著『持続可能な福祉社会』でも強調されているポイントであり、僕自身の最近の持論を支持してくれる貴重な論点である。
 
最後に、本書の最後に、著者は、仕事と家庭の両立ライフ実践者であっても、その子供のためにせめて週に1日くらいは下校時に支援者にまわれるような労働時間の弾力性が欲しいと述べている。この意見は全面的に支持したい。社会貢献は何も仕事だけではない。

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