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チャイナ・リスク [読書日記]

黄文雄著『チャイナ・リスク』                                            海竜社、2005年3月


内容(「MARC」データベースより)
日本人よ、現実と幻想を見極めよ! 軍拡に突き進み、GDPは日本の3分の1以下。資源枯渇にあえぎ、情報捏造は当たり前。医療衛生状況は最悪、教育レベルは最低。知らないではすまされない中国の大問題84を赤裸々に語る。


この本、中国嫌いの人にはその根拠にもなり得るので歓迎されるだろうし、対中関係を重視する人にとっては嫌悪すべき論調になっているように思う。読者がどのような立場に立つのかによって、読後感は大きく異なると思う。僕の感想?このブログを議論の場にはしたくないので対中関係に関する僕の立場はここでは明言しないことにする。その上で申し上げるとすれば、この本、光文社の新書を読んでいるような感じで、読んだ直後にはなんとなくわかったような気になるが、よくよく考えると300頁を超える大作の割には、各節において突っ込んだ分析がされておらず、これをそのまま論拠として反中嫌中論者が用いるのは少々危険が伴うのではないかと思う。

黄氏の著作は15年以上前に一度だけ読んだことがあるが、中国がダメな理由を列挙し、「だから中国への投資も、援助も、貿易もすべきではない」との論陣を張っている。しかし、そうした中国をどうしていくのがよいのかという"So what?"という部分への著者なりの提言がないのである。中国相手に何もしないのが最善の選択肢というようにも聞こえる。

例えば、「増え続ける青少年の幼稚病と凶悪犯罪」という節では、問題の所在について指摘はしているが、「だから中国はダメなのだ」と言っているようにしか聞こえないのだ。

元々僕がこの本に手を出したのは、中国の人口問題に対する著者の考察を知りたかったからだ。だが、「問題が山積みのまま解決できない人口問題」の節にある小見出しだけ追いかけてみると、「人口増加を憂いた清の乾隆帝」で始まり、「問題が大きい男女比率」という細節で終わっている。1つめの細節なんて、なんで清の時代の人口増加や毛沢東の政策を取り上げる必要があったのか、まったく意味がない記述である。男女比率の問題の指摘はとてもよいと思う。深圳の青年層では、女性の人口は男性の倍であるが、中年層では139対100で男性の方が多いという。一人っ子政策の結果、各地方には伝統的観念もあって、たいてい男性の方が女性よりも多い。この傾向は特に農村で顕著であるという。中国の新生児の男女比率は、116.86対100で、既に双方の均衡は失われているという(pp.283-284)。こうした情報は、それはそれで非常に貴重なものだと思う。しかし、男女比率がこれだけバランスを崩すと、10年後20年後に何が起きるのかについて著者なりの考察も行われていないのがとても残念である。中国では、今後、高齢者人口の爆発が確実に起きるのである。

結局、今の中国の何が問題であるのかの指摘は十分されていると思うが、だからどうすればよいのかについてはヒントすら与えてくれていない。付き合わなければいいというのが台湾出身の著者の論点なのかもしれないが、好き嫌いを超えて隣人としての付き合いはせねばならないのが中国なのではないかと思っている者にとっては本書は後味が非常に悪い。

さらに、この本をより国際関係を勉強する者に近づけるためには、用語の古くささについても見直しておく必要がある。p.235の「人類発展係数」なんて、「人間開発指数(Human Development Index)」の方が一般的だし、p.302の「国際労働者組織」ってのは、労働組合の国際ネットワークのことではなく、国連の「国際労働機関」、即ちILO(International Labor Organization)のことだろう。

また、著者は、p.195において中国人がやたらとクラクションを鳴らすと言っているが、クラクションをやたらと鳴らすのは中国人だけではない。エジプト人だって、インド人だって、フィリピン人だって、僕が経験した開発途上国ではほぼ例外なくクラクションが頻繁に鳴っていた。日本だって昔はそうだったのではないかと思う。著者の出身地・台湾だってそうだったのではないか。だから、こんな些細なことを取り上げて中国人は特にうるさいというのは言い過ぎではないかと思う。

そんなわけで、僕の知りたかったことはあまりわからず、以前紹介した「王様の速読法」を使って1時間ほどで目を通してしまったのだが、熟読はしなくてよかったと思う。


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