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「ハルとナツ―届かなかった手紙」 [テレビ]

 先週NHKで5夜連続放送されていたNHK80周年記念ドラマ『ハルとナツ 届かなかった手紙』をご覧になった方は多いのではないかと思う。僕は案の定仕事が遅くて第2話から第4話までを見損ねてしまったのだが、第1話と最後の第5話はしっかり見た。(第5話の時は、たまたま偶然、本当に偶然に頭痛で会社を早退してしまったので、ゆっくりと見ることができた。)

あらすじは、およそ以下の通りである。


70年ぶりに日本に帰った高倉ハルが、孫と共に、生き別れとなった妹ナツを探し出す。しかし、大手製菓会社社長となっていたナツは、「自分は家族に捨てられた」と冷たく言う。ハルとナツは、北海道に住む高倉忠次の子として生まれた。1934年、凶作続きで生活に困窮した一家6人は、ブラジル移民を決意。だが7歳だったナツは乗船直前、病気(トラホーム)のため日本に残される。ブラジルでは、「農奴」に近い暮らしがハルたちを待ち受けていた。ようやく落ちつた頃には、日米開戦となる。ハルの兄は日本の予科練に入り、特攻隊員となって戦死する。忠次は日本の敗戦が信じられず、苦難のまま生涯を閉じる。一方、北海道で天涯孤独の身となったナツは、牛飼いに拾われ、戦後は菓子作りで成功する。(毎日新聞、9月5日より引用)


脚本を手がけた橋田壽賀子によれば、「ブラジル移民の資料を読んで、これは棄民政策だと感じた。でも捨てられた日本人が一番日本を愛していたのだと思った」のだそうだ。

僕は初回と最終回しか見ていないが、ブラジル移民の歴史は、2年半前に訪れたサンパウロの日系移民資料館で随分と勉強させていただき、かつその時に、ドラマの高倉忠次のエピソードのように、日本が戦争に勝った負けたで当時の日系人社会が「勝ち組(日本の敗戦を認めない者)」と「負け組(日本の敗戦を認める者)」とで真っ二つに割れ、 それが後々まで尾を引いたという話がとても印象に残った。晩年の忠次が死ぬ直前、入植地の日系人会会長の中山と酒を酌み交わしながら、日本は戦争そのものには負けたかもしれないが、戦後の急速な復興と経済成長を聞かされると、日本は勝ったとも言えるのではないかと訴えるシーンがあったが、そこまで引きずるほどに日本の敗戦というのは大きな出来事だったということがよくわかる。

 最終回のお話の中で印象的だったもう1つのシーンは、長男の嫁(ブラジル人)をどうしても認められなかったハルが、大切な菊が市況の暴落で売り物にならなくなって廃棄せざるを得なくなり、菊を抱きながら悔し涙を流す嫁を初めて嫁として認め、抱きしめるシーンだった。海外に住むからこそ日本人としてのアイデンティティを大事にしたい、だから息子の嫁は日本人でなければいけないという頑ななハルの心が初めてブラジルという異文化に対して開かれるという感動的なシーンだったと思う。米倉涼子の長身に若干の違和感を覚えつつも、思わず目頭が熱くなった。

こうしたエピソードを見ていくと、日本人移住者が、新天地を求めて海外に飛び出して行っても、いつかは日本に帰りたいと願い、常に遠方から祖国を思い続けてきたということが痛いほどよくわかる。それが、日系人も二世、三世と世代が移り変わるにつれて、いつか日本に帰る日を思い続けるのではなく、いかにブラジルの社会を受け入れ、そして自ら溶け込んでいけるのかに関心が移っていき、初代の日本人移民もそれを受け入れるようになっていったのだということをドラマの中から感じ取ることができた。

翻って日本のナツ。橋田は、「ハルは貧しさの中で親を思い、家族が肩を寄せ合って生きる人生を送った。ナツを通じては、日本人が豊かさの中で見失ったものを書いた。今、外国を旅行していると、日本人であることに恥ずかしさを感じることがある。そんな中で、一途な日本人像を書きたくなった」と述べている。僕は、最終回の最後の方で、ナツの会社が息子達の事業多角化の失敗で経営破綻に陥り、知人が相談役を務める同業他社に吸収合併される道筋をつけ、ナツはハルの住むブラジルへと移住して一緒に暮らすことになるというシーンがあったが、なんとなくこの終わり方には違和感も感じた。橋田あるいはNHK特有の問題提起なのかもしれないが、つまりは今の日本社会はブラジル日系人社会と比べても家族の繋がりが薄いということなのだろうか。日本社会には何の魅力もないということなのだろうか。ちょっと安易なエンディングだなと思う。(途中の3話を見ていないからこんなことが言えるのかもしれないが、ナツは破綻した家族の絆を取り戻す努力もしないで、自分だけ姉の住む地に移住してしまえばそれで良かったのだろうかと考えさせられた。)

それと、全5話を6時間でカバーした放映時間であったが、1つ1つの重みのあるエピソードが割とさらっとしか描かれず、もう少し長編のドラマにすることができなかったのかなとも思った。これだけの大作、制作費も馬鹿にならないのだろうが、壇ノ浦の後の義経の没落をダラダラと12月初旬まで引っ張る大河ドラマのあり方を見ていると、いっそのこと大河ドラマを年2つに分けて、その枠で26回シリーズにできないものだろうかとも思ったりもした。

参考:ハルとナツNHK公式サイト


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