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ビジネスのGNH [ブータン]

P_20180104_154859.jpgTshoki Zangmo, Karma Wangdi and Jigme Phuntsho
Proposed GNH of Business
Centre for Bhutan Studies & GNH
2017年11月

URL: http://www.bhutanstudies.org.bt/proposed-gnh-of-business/

充電生活が続いている。僕は某大学院の非常勤講師も務めているので、期末のこの時期は履修生の提出して来る期末レポートの採点もやりつつ、今後の講義で参考になりそうな文献を集中的に読み込む時間に充てているが、同時に、ブータンでの今後の自分の仕事に役立ちそうな文献や資料も、かなり集中して読み込んでいる。まだブログではご紹介していないが、読了した書籍は8冊にものぼる。東京の我が家は手狭で、読書に集中できる環境にはない。なので、読み込みはもっぱら早朝4時からの2時間集中。PCに向かわぬ時はファミレスも使い、日中であれば喫茶店や図書館を利用し、読み込みに集中する。

今日ご紹介する1冊は、昨年11月上旬に開催された第7回GNH国際会議の冒頭で公開された「企業のGNH貢献度評価ツール」。僕はその時会場にいたので、一応概要説明は聞いているのだが、ちゃんと読み込んでなかったので、この年末年始休みを利用してしっかり読んでおくことにした。さっそく余談になってしまうが、読了直後、仕事で都内にある某環境系シンクタンクを訪ねる機会があった。この文献をブータン研究所(CBS)のHPからダウンロードして既に読んでおられた研究者の方がいらした。記憶の新しいうちに議論ができた。

この試作版評価ツールは、GNH全国調査でも用いられるGNHの9のドメイン(領域)をそのまま援用している。うち、「心理的厚生」「健康」「時間の利用」「教育」「生活水準」を従業員の幸福度に影響を与えるものとして、従業員に直接質問してデータを収集し、残る「良い企業統治」「文化的多様性」「コミュニティの活力」「生態系の多様性」はすべてのステークホルダーの幸福度に影響を与える組織条件として、対象企業1社につき1通の質問票でデータ収集が行われるものとなっている。それぞれのドメインにはそれを構成するいくつかの指標がある。「①従業員の幸福度に影響を与えるもの」としては29指標、「②すべてのステークホルダーの幸福度に影響を与える組織条件」としては20指標が挙げられている。

指標間の重み付けには多少のメリハリがあってもいいような気もするが、試作版では、上記①と②を1対1で評価し、各々を100%とした場合、前者では各ドメインに20%、後者の場合は25%が配分されている。その上で、各ドメインを構成する指標間で平等な重み付けが行われている。例えば、①の方では「心理的厚生」は8指標もあるから、その中の1つである「職に対する満足度」というのは全体の2.5%の重みしかない。一方で、「教育」は構成する指標が3つしかないため、例えば「学習に与えられる奨学制度の有無」というのが全体の6.67%もの重みがある。同様に、②の方でも、「文化的多様性」は全体の25%を占めるが、構成する指標が3つしかないので、「文化振興への取組み」に8.33%もの重みが付けられているのに対して、「良い企業統治」は指標が6つもあるため、「職場環境の整備への取組み」には全体の4.17%の重みしか付けられていない。構成としては割と単純だ。

その上で、「①従業員の幸福度に影響を与えるもの」と「②すべてのステークホルダーの幸福度に影響を与える組織条件」のスコアを単純に足し合わせ、それが0から1までの間でどこに位置するかで対象企業を評価していく。直感的に、➀のスコアが良い企業は②のスコアも良いのではないかと考えられる。このレポートの中では、両者の相関関係をテストしていないので、あくまでも僕の仮説に過ぎないが。

同様に、指標間の重み付けにも、各論になってくると首を傾げるところがある。「教育」にこんなに重みを持たせなくてもいいんじゃないかと思う反面、「生態系の多様性」の重みがこの程度で良かったのかどうかというのには疑問も残る。それに、指標のレベルでも相関関係があるように思える箇所がある。

などと各論になると突っ込みたくなるところもあるのだが、僕自身がこんなツールを自分で考案できるわけがないので、それを敢えて取り組んで取りあえずは形にしたCBSの努力は多としたい。

幾つか読んでみて初めてわかったことがある。このツールはブータン国内企業のうち、従業員が20人以上いる企業で適用されるというのは知っていたが、対象企業の選定や評価スコアの確定にあたって、関係省庁や政府機関等から成るタスクフォースの形成が提案されているのは知らなかった。勿論、実査の聞き取り調査はCBSにより遂行されるというのが試作版の提案趣旨となっている。さらにもう1つは、この診断結果は3年に1回見直しをかけることが想定されているというのも、読んでみて初めてわかった。まあ、これはそうかなという気がする。

これまでに何度か述べてきた通り、僕がGNH国際会議の場でピッチした提案というのは、この診断ツールをブータン国内企業だけでなく、グローバル企業の上場審査でも用いて、クリアできればブータンの証券取引所でも上場できるという仕組みを作ることであった。なので、特別タスクフォースの設置や定期的な再評価の部分をどう扱うかは、今後自分の提案をブラッシュアップしていく上では注意が必要かもしれない。でも、こんなちゃんとした診断ツールを作っておきながら、対象となる企業がさほど多くないというのではもったいない。ツールのブラッシュアップにおいては、外国企業の診断にも使えるものにしてみて欲しいという期待は当然ある。

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