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『パクリ経済』 [読書日記]

パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する

パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する

  • 作者: カル・ラウスティアラ、クリストファー・スプリグマン
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2015/11/26
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより) 郊外のショッピングモールから街のビストロまで、パクリはあらゆる場所にあふれている。「コピーは創造性を殺す」「法律によるコピー規制がイノベーションには欠かせない」―通常はこう考えられている。しかし、コピーは絶対に悪なのだろうか?本書は、創造性がコピーによってむしろ活性化する場合があることを、ファッション、レストラン、アメフト、コメディアン、フォント、データベース産業など米国で一般的にコピーが合法とされている産業の豊富なケーススタディで明らかにする。なぜそれらの産業は繁栄しているのか?インセンティブとイノベーションの新たな関係を探り、知財ルールの未来を指し示す。

2年前にある研究会に参加した折、出たばかりの本書のことは聞いて知っていた。参考文献にもなりそうな内容だったが、なにせみすず書房の本は単価が高く、中古本でも十分高い。安くなってくるのを待っていたら研究会も終わってしまい、僕自身も海外赴任となってしまった。内容を知らずに2年近くを過ごすのは居心地が悪く、折角だからとこの年末年始の読書リストに本書を加え、図書館で借りて集中して読み込んだ。本文だけで350頁近い大部だが、枠組みは割と単純で、ほとんどが事例の詳述なので、事例に親近感を持てれば、読むのはさほど難しくはない。

特に、この本の中にはアメフトのフォーメーションのイノベーションに関する記述が1つのチャプターとして描かれている。僕のブログのプロフィール画像はルイジアナ州立大学(LSU)のものだが、1980年代半ばにLSUでヘッド―コーチを務めていたビル・アーンスパーガーや、2000年代初頭のLSU黄金時代の基礎を作ったニック・セーバンが実名で登場しており、それだけでも親近感が湧く。本書で言及されているウッシュボーン・フォーメーションは、1980年代後半にオクラホマ大学やネブラスカ大学が多用していたし、それよりもリクルート力で劣るヒューストン大学やテキサス工科大学が弱者の戦術として多用していた「ラン・アンド・シュート」を生で見ていた。そういう昔の経験を振り返りながら、本書を読むのは楽しい経験だった。

繰り返しになるが、本書の論点は割と単純だ。「コピーは深刻な脅威だという広く信じられている考え方とはうらはらに、創造的産業をもっと広い視野でしっかり眺めてみると模倣がしばしばイノベーションと共存していることがわかる。もしも将来コピーが減るのではなく増えるなら――そしてこれまでのところあらゆる事実から見てそうなりそうだ――これらの産業は、イノベーションが繁栄し続ける方法を提示している。そしてこれは、ますますアイデア主導になりつつある経済の未来についての考え方を示唆している」(p.27)で、かなりの部分が描かれていると思う。

そのうえで、あとの記述は、ファッション、料理、コメディ、マジック、フットボール、フォント、金融商品等の具体的な分野で、コピーと創造性が共存できることを例証している。イミテーションとイノベーションの関係が、一般に信じられてるよりもはるかに微妙で、ある種の創造的な試みでは、イミテーションがイノベーションに活気を与えることすらあると論じられている。

コピーを禁じるルールは、競争というもう1つのとても重要な経済、文化的活力を犠牲にして成り立っている(中略)。独占理論の基本的な理屈では、コピーはオリジナルに競争で勝ってしまうので、そもそも創出するインセンティブが打ち砕かれてしまうと考える(もしもコピーがオリジナルに競争で勝てないなら、オリジナルを保護する必要はない)。しかし同時に、私たちの経済システムは基本的に競争の上に成り立っている。競争は価格を下げ、品質を高める強力な力だ。それはまたイノベーションを強力に促す――アメフトや金融イノベーションという文脈で見てきたように、強力なライバルとの競争を強いられた競争者は、知的財産保護とは無関係に、とにかく商売を続けるためだけにイノベーションを起こすのだ。(p.249)

さらに、本書で例証で使われた事例は、産業構造の違いはあるものの、6つの共通の特徴や教訓があることを示しているという。以下255頁の記述を引用する。

◆トレンドと流行はいくつかの創造的産業で大きな役割を果たす。ファッションなどの世界では、トレンドが引き起こす力学はコピーに関する従来の考えを完全にひっくり返すことさえある。

◆一部の産業では、法的措置が無力だったり非実用的だったりする場合でも、社会規範がコピーの抑制は方向付けに重要な役割を果たすことが実証されている。

◆いくつかの産業では、創作者や所有者がその財を、製品ではなくパフォーマンスであると再定義することでコピーの悪影響を鈍らせた――そしてそれにより、コピーによる経済的成功への影響を低減させた。

◆さらに他の創造的産業では、イノベーションのコストを下げるオープンソース方式の持つ力を重視する――そしてそれによりイノベーションを増やしている。

◆先行者優位性は、たとえ後でコピーされても十分な価値を一部の生産者に与えることで、イノベーションが十分に収益をもたらすものとしている。

◆いくつかの事例ではブランドと商標の力が示されている。ブランドはコピー製品の市場シェアを抑えられるが、コピーはブランドを宣伝する役割も果たす。このような効果は、コピーの費用についてまったく違う見方をもたらす。

僕がまさに関わっている世界がオープンソース、オープンイノベーションである。単純コピーではないけれど、それを地元で利用可能な材料を活用し、デザインにもローカルのテーストを加えてカスタマイズを図ることで、ブータンにおいてもけっこう面白いイノベーションが起こせるのではないかと思う。

原書はこちらになります。

The Knockoff Economy: How Imitation Sparks Innovation

The Knockoff Economy: How Imitation Sparks Innovation

  • 作者: Kal Raustiala &‎ Christopher Sprigman
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr
  • 発売日: 2015/04/01
  • メディア: ペーパーバック


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