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「正しい政策」がないならどうすべきか [ブータン]

公務員向け薬物検査、2018年1月より義務化へ
Mandatory drug test for civil servants from Jan 1, 2018
Kuensel、2017年8月30日、Yangchen C Rinzin記者
http://www.kuenselonline.com/mandatory-drug-test-for-civil-servants-from-jan-1-2018/

【ポイント】
王立人事院(RCSC)は、現職公務員及びこれから採用予定の公務員を対象に、薬物検査実施を2018年1月より義務化する通達を、8月23日付で発出した。2010年公務員法にある公務員服務規程第38、39項、及び公務員服務倫理規程第3条に基づく措置。また、2012年ブータン公務員規則3.2.25項にも、公務員は勤務時間中の薬物摂取の禁止と、勤務時間外での過度の飲酒の制限を謳った規定がある。

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ご紹介した記事の内容はヘッドラインを見ればわかってしまうのだが、これを読んだら、僕たちにお酒を過度に進める公務員には「NO」と言ってもいいんだというように思える。こういう検査は抜き打ちでやることに意味があるのだと思うが、これから採用される公務員にどういうタイミングで薬物検査を実施するのか、あらかじめいつ実施されるかわかってしまったら、あまりやっても意味がないような気がしてしまう。

それに、この記事は読んでいるとスポーツのドーピング検査と同じようなイメージを受ける。図らずも体調不良のために何かの薬を服用していたら、検査で引っかかってしまう類のものであるように思える。アルコールだったら飲まないでいれば検査で引っかかることはないかもしれないが、何しろこの検査の対象となる薬物とは何なのかの定義が記事の中ではされていないので、どれだけ有効なのかはよくわからない。

「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学

「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学

  • 作者: ジョナサン ウルフ
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
伝統的な哲学は、正義の理論や共通善の説明を作り上げ、それが多くの政策課題についてもつ含意を示すというやり方で、政策の問いを考えてきた。しかし本書は、現実世界で直面する政策課題から出発し、哲学だけでなく、歴史学、社会学、科学的証拠を使い、なぜいまそれが問題になっているのかを解明し理解することを目指す。動物実験、ギャンブル、ドラッグ、安全性、犯罪と刑罰、健康、障碍、自由市場。直面する政策課題に哲学はどう答えるのか。哲学と政策の問いをつなぐ一つの方法。

ブータンの薬物問題をどうとらえたらいいのだろうか―――そんなことを考えている。そのために先日は原田隆之著『入門犯罪心理学』を読んだし、今回ご紹介するジョナサン・ウルフ著『「正しい政策」がないならどうすべきか』も読んでみた。但し、今回は第3章「ドラッグ」だけ。本書の紹介にもあるように、実は健康や障がいについても本当は読んでみたかったのだが、1冊まるまる購入するほど予算の余裕もなかったため、7月に日本に帰ってきていた頃、近所の市立図書館で蔵書を探して、該当する章だけコピーして、再赴任の際に持って行った。今回は二度目の読書。1回目にはよくわからなかったことも、2回目の読み込みの前に『入門犯罪心理学』を読んでみたことで、前回よりも少しだけわかったような気がした。

本書の主張は、「個人の行動の自由に干渉できる唯一の正当性は、他人に対する危害の防止だけである」という原理に対して、実際の社会の問題に対する政策は、この原理に従っていないことが指摘されている。本書によれば、その典型例がドラッグで、「現在違法扱いになっているドラッグのいくつかは、現在合法扱いになっているいくつかの有害物質、とりわけアルコールやタバコよりも、使用者本人と第三者に対するっ危害がはるかに少ない」(p.86)にも関わらず、違法扱いとされていると指摘している。ブータンでも一般的な大麻についても、最も危険なのは、それを服用するためには、一般的に他の有害物質も一緒に服用する必要があるという点であると述べている。即ちタバコの煙だ。

喫煙はブータンでも禁止とされているので、大麻吸引との間でも政策に整合性はあるように思えるが、アルコールの場合はどうだろうか。本書にはこんかことも書かれている。「最近の研究では、アルコールは、ヘロインとコカイン(およびそれから派生した薬物)を除く、ほとんどすべてのドラッグよりも害が大きいと考えられている」(p.110)という。そのうえで、薬物政策全体の社会的目的が危害の削減にあるべきだという考えに立ち戻ると、アルコールを容認する現行制度が既に大きな危害をもたらしていて、しかも大麻がアルコールよりも害が少ないことも我々が認めるなら、大麻を合法化することで、社会における危害は全体としては増えるのではなく減るということになる。あるいは、大麻が違法ならアルコールはもっと違法性を強めないといけないということなのかもしれない。

そう考えれば、飲酒に対するブータン政府の毅然とした態度は宜しいのではないでしょうか。僕らも、日本人的な酒の飲み方は控える必要があるかもしれない。

それと、本章にはこんなことも書かれている。
イギリスにおける薬物使用に関する統計をみると、政府の数字によれば、全成人の34%がこれまでに一度でも違法薬物を使用したことがある。そして、11%は調査された時点までの1年の間に、7.1%は1カ月の間に使用していた。15歳から24歳の間の人々については、これまでの人生で45%、1年以内では27%、1カ月以内では17%の人が、薬物を使用していた。すべての年齢層について、最もよく使用される薬物は大麻だった。(p.96)
―――いつぞやの記事で、ブータンの禁止薬物中毒者は11000人と書いたことがある。中高生の5人に1人が大麻使用というようなことも書いた。それだけを捉えたらブータンヤバいということになるけれど、この英国の数値を見ると、ブータンだけが特別酷いというわけではないような気もした。また、喫煙・飲酒と大麻吸引等をまとめて統計取っているブータンのやり方も、一見すると違和感があったものの、最も本人と周囲の人々に影響を与えるのがアルコールとタバコだと考えれば、こういうデータのとり方もありなのだなと見方を改めた。
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