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アジア開発銀行経済見通し2017から [ブータン]

住宅供給不足の解消に、今の政策では不十分―ADB報告
Current policies inadequate to address housing crunch: ADB
Kuensel、2017年5月3日、MB Subba記者
http://www.kuenselonline.com/current-policies-inadequate-to-address-housing-crunch-adb/

2017-5-7 ADO2017.jpg【ポイント】
アジア開発銀行(ADB)が最近公表した「アジア開発見通し2017」によると、2016年9月末現在のブータンの住宅投資向け貸付残高は200億ニュルタムで、銀行の総貸付残高の約25%を占めていた。住宅部門は銀行にとって最大の投資先となっているが、ほとんどの融資は高層アパートの建設を進めるデベロッパーを対象としており、デベロッパーはこのアパートの家賃収入により返済を行う仕組みになっている。ブータン政府はこうしたアパートを持ち家化を促進したい考えだが、こうしたアパートの所有者は極めて数が少ない。土地価格が高い上に、不動産投資の返済期間が短いことで、返済計画が立たず、持ち家は低中所得層には手が届きにくい状態になっている。

2015年の人口増加率は1.6%で、ブータンの総人口は76万人に達したと見込まれる。うち38.6%は都市人口が占める。結果として、都市部での住宅不足が起きている。都市でマイホームを購入できないことは、借家住まいの選択を余儀なくされ、都市世帯ではこの賃借料支払いの負担が大きいため、貯蓄余力が生まれず、将来のマイホーム購入の見通しも立たない状況に追い込まれている。

都市部でマイホームを所有する世帯は全体のわずかに17%。政府は全国住宅開発公社(NHDC)を通じた住宅新規建設を進めているが、これにアクセスできるのは一部の公務員だけである。また、全国年金基金(NPPF)は積立年金を担保にした住宅ローンを提供しているが、これもNPPF加入者に限定され、それは主には公務員や軍関係者に限られる。こうした公的機関は一部のグループの住宅問題の解消にしか貢献していないのが現状。

報告書によると、家賃は食費に次いで、都市世帯の大きな支出項目となっている。基礎インフラの整備が不十分で都市部での住宅建設が都市人口の増加について行っていない状況があるため、大家はアパートの修繕には消極的。多少借家の使い勝手が悪くても、他に選択肢がないから、入居者は退去できないと踏んでいるのである。

住宅不足は政策課題として既に取組みは始まっている。その好例が今年から始まるアモチュ土地開発都市化プロジェクトである。ドルック・ホールディングス(DHI)が手掛けるこの事業では、プンツォリンのアモチュ川に隣接する160ヘクタールの土地の住宅開発を進めるもので、ADBが開発資金を支援している。

ADBは昨年中に実施された貸出金利引き下げや最低貸出金利改革等が銀行間の競争を促進するものとして一定の評価をしている。しかし、不動産投資向け貸付の返済期間の見直しがさらに必要だと指摘する。

ブータンは包括的な全国土地・住宅政策を必要としている―――報告書はこう結論付ける。

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アジア開発銀行(ADB)といえば、今ちょうどその第50回の年次総会が横浜で開催されたところで、日本国内でも様々な報道がなされていることと思う。ブータン政府からも、当初は財務大臣が出席する予定だったが、国会会期が5月3日から始まることが急に決まったため、財務大臣、財務次官等の高官は年次総会出席がかなわなくなり、王立通貨庁(RMA)の総裁がヘッドで出席されたと聞く。

当然ながらブータンでもADBの報道は少しだけ増えたが、例えば5月6日付けクエンセルが報じた「ADB、2020年までにアジアでの貸出を50%拡大へ(ADB to expand lending in Asia by 50% by 2020)」なんて、よくよく読んでいくとネパールのカトマンズ・ポストからのコピペであったりする。クエンセルは、ややもすると隣国のメディアからの記事の転載が独自紙面よりもスペースを占めることがよくあるが、特にADBに関するこの記事を転載するなら、ブータンに絡めた独自の分析記事が、当て馬としてあっても良かったのではないかと思う。

そんな中で、クエンセルがよくやったと思うのが本日ご紹介の記事。記事の内容の是非はともかく、こういう記事をタイミング良く載せたことは評価に値する。

これは考え方の問題で、都市開発を見ていてずっと感じていることなのだが、こんな形で住宅不足問題に対策を打てば、余計に都市に流入する人口が増えるのではないかという危惧はしている。僕の都市開発に対する見方は相当冷めており、大都市のインフラをある程度不十分なものにしておけば、地方都市や農村の魅力は相対的には高まり、大都市への人口流入は抑制されると考える。よって、僕個人としては、ティンプーの都市開発には消極的なのです。

ただ、公務員が優遇されている今の持ち家促進制度は確かにおかしい、だからみんなが公務員になりたがるという悪循環に陥っているようには思える。それに、地方都市の魅力拡大という点で、ADBが進めようとしているアモチュ新都市開発も方向性としては正しいと思う。プンツォリン周辺でのブータン人の雇用機会をどう作るのかという別の政策課題は依然としてあるとは思うが。

アジア開発見通し2017は下記URLからダウンロード可能です。189頁から193頁までがブータンに関する記述に割かれているので、原文をご覧になりたい方は是非どうぞ。
https://www.adb.org/publications/asian-development-outlook-2017-middle-income-challenge


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