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首相が語るこの国の現状 [ブータン]

国民総幸福の現状――首相報告、全国調査の結果を焦点に
The status of GNH in the country
Kuensel、2016年7月6日、Kinga Dema記者
http://www.kuenselonline.com/the-status-of-gnh-in-the-country/

(以下、要約)

7月5日(火)、トブゲイ首相は国会会期末に際して、国を取り巻く情勢に関して「State of the Nation」演説を行い、この中で6月末に最終報告書案がまとまった2015年国民総幸福量(GNH)全国調査の結果を報告した。この調査はCentre for Bhutan Studies and GNH Research(CBS)が昨年実施したものである。

報告において、首相は、保健、教育、生活水準、農村開発、女性、雇用等に関する具体的な調査結果を紹介。保健については、医療サービスの無償供与は健康水準の引き上げに貢献しているものの、自殺者の増加を懸念材料として指摘。教育では、初等教育純就学率、高等中等教育の修了者率を成果として挙げつつも、特に農村部での教員不足を課題として指摘している。携帯電話やテレビ、冷蔵庫等の消費財の所有率、安全な飲料水・下水道サービスへのアクセス、農村電化等では著しい進展が見られた一方で、首相は生活コストも高まりつつあることに言及。

農村住民が都市住民に比べて貧困率が高く、幸福感を感じていないことも調査結果は示している。行政サービスについても、多くの住民は、教育、保健分野でのサービス提供、汚職腐敗対策、雇用創出等に関する政府の公共サービスには満足していないと指摘する。

首相は、2015年GNH全国調査の結果公表がこのタイミングになったことを高く評価。現政権の折り返し地点に当たり、今後この調査結果をベースに政策実施を進めると述べた。

2016-7-6 Kuensel.jpg

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7月9日付のThe Bhutanese紙には、首相が触れた幾つかの数値について項目別でリストアップされている。

【保健医療】
◆91.2%は「幸せ」、43.4%は「きわめて幸せ」
◆サムドゥップジョンカル、ハ、チラン、サムツェ、ゲルフで新病院建設、
 ティンプーにはジェツン・ペマ母子病院を建設
◆発育不良の割合は33.5%(2010)から21.2%(2015)に低下
◆814人の高齢者が国王より毎月の俸給を支給される。高齢者養護ホームの建設

【教育】
◆2,567人の生徒が国王から制服、文具を支給され、就学助成を受ける
◆2016/17年度の教育予算は20.05%を占める
◆セントラル・スクールに29億7600万ニュルタムを配分
◆第12次5ヵ年計画で、セントラル・スクール120校を建設
◆2,668人の教員が4,447人の脆弱な生徒に対する特別ケアを提供(2015)
◆教員能力向上支援基金は、800万ニュルタム(2015)から1億1700万ニュルタム(2016)に増額
◆タシヤンツェ、ゲルポジン、ヨンフラの3大学が2017年の開学を予定。
 ジグミ・シンゲ・ワンチュク法科大学の新設

【農業と土地】
◆累計で11万455人の人々に国王から13万6474エーカーの土地が与えられた
◆2013年以降、建設された灌漑施設の総延長は500kmに達し、灌漑面積は14,620エーカーに及ぶ
◆昨年1年間で、73万1000本の種と8万4000本の苗木が配布され、1,506棟のグリーンハウスが作られる
◆462台の耕耘機が国内に配置された
◆この3年間で、総延長1,236kmにおよぶ電気柵が設置され、7,698エーカーの農地が保護された
◆穀物生産は16万3830トン(2013)から16万6299トン(2015)に増加
◆野菜生産は4万6747トン(2013)から4万9519トン(2015)に増加
◆ミルク生産は3万920トン(2013)から3万9844トン(2015)に増加し、同様に鶏卵や牛肉生産も増加

【生活水準】
◆携帯電話所有世帯は、87%(2010)から98%(2015)に増加
◆テレビ所有世帯は、51%(2010)から75%(2015)に増加
◆乗用車所有世帯は24%で、2015/16年度だけで5,755台を輸入
◆安全な飲料水にアクセスできる世帯は97.7%
◆電気にアクセス可能な世帯は99%
◆プンツォリンにて500事業者を収容できるオフィスビル72棟を建設

【経済】
◆GDP成長率は今年8.4%と予測
◆2013年から16年までの国内歳入は予想を80億ニュルタム上回る
◆インドルピーの通貨価値は改善
◆2015/16年度の雇用創出は5,018件
◆外貨準備総額は11億1600万ニュルタム
◆対外借入総額は1400億ニュルタム、うち1050億ニュルタムは水力発電所建設に伴う借入
◆プナサンチュ第1、プナサンチュ第2、マンデチュ、コロンチュ、ニカチュ水力発電所建設が完了すれば、
 3,658MWの電力開発につながる
◆2015年にブータンを訪れた旅行客は14万1898人。43億ニュルタム分の経済効果をもたらした
◆中小企業1万6548社のうち、去年1年で1,355社が設立された
◆鉱山採掘権や賃貸料率の改定で、鉱業収入は1億2900万ニュルタム増加

【農村開発】
◆4,269世帯が空き家に。うち73%は東部6県に集中
◆77のGC道路(Gewog Centre Road)が今年舗装される予定
◆過去3年間で、総延長1,540kmの農道が建設され、829kmの農道維持管理が行われた
◆70郡において農村ショップが設置され、今年度中に80郡でも設置予定
◆176郡に郡銀行が既に設立され、今月末までに残りの29件も新設される予定
◆BoIC(Business Opportunity and Information Centre)より、2,075農家、269の中小企業家が借入れ
◆穀物・家畜保険制度の導入可能性につき調査

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全部が全部2015年GNH全国調査から引っ張ってきた項目では必ずしもないが、この国に現状を把握するスナップショットとしては有用かも。

おや?と思ったのは農村開発の項目で、東部で耕作放棄地が増えているのではないかと暗示するような情報が挙げられている。若者の流出で農家の高齢化が進み、農業経営が維持できない世帯が増えているのかなという気がする。

GNH全国調査は5年に1回行われていて、2015年調査では、前回2010年に比べて国民の幸福度は上がっていると言われている。しかし、農村部の居住者の幸福度は最も低いというのも指摘されていて、農業やるぐらいなら失業しててもいいという人が多いという状況もあるらしい。県別でみた場合、ダガナ、トンサ、シェムガン、タシヤンツェあたりの幸福度が低い。

こうやって、都市・農村別、県別、男女別、年齢別といった切り口で、主観的な幸福度を見ている調査は要注目だ。今後どのような開発プロジェクトを新たに始めるにしても、自分が活動する地域の幸福度はどうか、プロジェクトが対象としているターゲットグループの幸福度は他と比べてどう違うのか、ベースラインデータとして持っておいて、次回の調査時に比較してみるのも面白いかもしれない。

タグ:GNH
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