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外来生物の脅威 [地域愛]

三鷹国際理解講座(2011年3月5日)のご案内
国際理解講座 「地球環境問題」
講演 「なぜ外来種が生みだされるのか?」
講師 五箇公一さん(国立環境研究所 主任研究員)
外来生物は、生物多様性を脅かす要因として、国際的にも重要視されている環境問題の一つです。ヒトとモノの高速移動と、経済のグローバリゼーションによって、外来生物問題はより大きく、より複雑な問題へと発展しています。 生物多様性条約第10回締約国会議COP10でも外来種対策の国際協力が唱われ、日本も外来生物法によって外来生物の侵入と拡大阻止に取り組んでいます。しかし、外来種の勢いは弱まるどころか、さらに強くなってきています。なぜこれほどまでに外来種ははびこるのか。外来種の分布拡大が意味する環境の異変とは何か、具体的な研究事例も交えてお話しいただきます。
先週まで再三しつこくご案内差し上げてきた(財)三鷹国際交流協会(MISHOP)の国際理解講座企画、3月5日(土)午後、三鷹駅前コミュニティセンターにて無事開催された。この講座は毎度のことながら事前申込みの受付状況が芳しくなく、ボランティアの僕達にも参加勧奨をと言われる。今回のような内容なら市内の中学校や高校に誰かが足を運んで協力依頼でもすればもっと集まったのではないかと思うのだが、日中市外で働いている僕自身がそこまでやるのもなんだなと思い、ブログでイベント案内を掲載し、長男に友達誘って一緒に来いと言ってお茶を濁した。(その長男は先週は月曜からインフルエンザでダウンしており、友達を誘うどころか本人も結局来れずに終わってしまったが…。)

断っておくが、僕がもし会社を辞めて地域人になったら、やれることは幾らでも考え、行動するだろう。

結論から言うと、とても面白いお話だった。堅い前置き案内文を読んでいたらとても想像つかないが、実際の五箇さんの講演内容はトークもグッドだしスライドのビジュアル度も良かったし、この内容なら本当に中高生に聞かせたかったなと思う。中学はともかく、市内の高校はこの日まで期末試験が行なわれていたそうだから、そもそも講座出席も難しかったそうな。開催日の決め方も反省材料では?

SH3I0051.jpgヒラタクワガタのミトコンドリアDNA系統樹のお話など、絶対に中高生には受けたと思う。遺伝子の形態から見たヒラタクワガタの系統は、大きく分けて日本列島や中国を含む北の系統と東南アジアの系統の2つに分かれ、これは分岐してから約500万年を経ていることがわかっているという。これは分岐の歴史から言えばヒトとチンパンジーぐらい違うものらしい。また、「サキシマ・タイワンヒラタ」「ホンド・ハチジョウヒラタ」「オキナワ・オキノエラブ・トクノシマヒラタ」「タカラ・アマミ・ダイトウヒラタ」といったように、個々の島においても遺伝的な分化が顕著なのだという。

それでも、東南アジア系と北の系統とは、巨大な前者の♂と後者の♀との間では交配は成立しないが、逆の組合せだとちゃんとしたF1ハイブリッド種が生まれ、しかもF1雑種は親の良いところを継承するのでほぼ例外なく東南アジア系の大きなアゴを特徴としているのだという。(良い子は決してやってはいけませんよ!)

1995年に大阪で初めて定着が確認されて大騒ぎになったセアカゴケグモも、最近はその存在が話題になることは少なくなった。ところが、この十数年の間に九州から関東に侵入が拡大しており、近畿・東海地方では特に目撃例が多いという。物資の輸入量が増え、輸入先が変化してきたことが大きな原因と考えられている。

外来種も、元々生息していた地域では「共進化」といって、その地域の生態系と共に進化してきた。ところが近年、グローバル化の流れで人も物資も国境を越えて激しく大きな動きを繰り広げるようになったため、人や物資に紛れて、元いた地域から突然異国の環境へと連れて来られる。そして、元々の原産地では食物連鎖が成り立っていて、その中で食いつ食われつを展開していたのが、新しい環境では天敵がいなかったりして、餌となる生物だけを食べてどんどん増殖するという事態に陥る。外来種がどこに行っても悪者なのではなく、原産地では生態系のバランスを崩すようなことはなかったという講師のご指摘は、言われてみれば確かにそうだという新たな気付きであった。

グローバル化が進むことによって、「地球上どこへ行っても同じ生物だらけ」という事態が起こりつつあると五箇先生は強調された。35億年もかけて進化してきた地域毎の貴重な「歴史産物」が、侵入生物と遭遇することで、喪失の一途を辿っているという。

また、先述の通り500万年もかけて固有の進化を遂げてきたクワガタムシは、今や日本ではいつでも異なる系統のクワガタ同士が出会う環境ができつつあるという。クワガタムシは、1999年までは輸入が禁止されていた。だから違法な手段で入手された世界のクワガタムシには高いプレミアムがついた。ところが、WTOの農業貿易自由化によって輸入が解禁され、今や我が国は世界から700種、個体総数で100万匹以上という輸入大国になってしまった。その結果何が起きるか。東南アジアではクワガタムシが乱獲される。クワガタムシは樹木を分解して土壌肥沃化に貢献していたが、乱獲によって森林と土壌が劣化していく一方、クワガタムシハンターが農作業を放棄してより収益率の高いクワガタムシハンターに「転職」してしまう。そうすると熱帯雨林は喪失し、地場産業が衰退するという結果に繋がるという。実際、東南アジアではクワガタムシの個体数が激減して問題になっている。僕達のような親の無知が、夏のカブトムシ・クワガタムシ狂想曲に繋がり、東南アジアの生態系に大きな悪影響を与えているということを、僕らはもっと理解し、子供達に伝えなければいけないのかなと思う。

ここで紹介できたのは講演の中のほんの一部に過ぎない。詳細は五箇先生の近著『クワガタムシが語る生物多様性』にもあますことなく述べられているので、是非ご参照願いたい。本当は講座の前に読んでおこうと思った本だったが、市内の図書館にも置いてなくて、市内の目ぼしい書店6店舗を調べたけれどもいずこも在庫がなかった。当日会場では先生のご厚意で著者割引で少し安く本書を購入させていただけたが、その辺も、市内の書店や図書館とうまく連携して上手くイベント宣伝できなかったものかなという気がしてしまう。書店平積みにしてポップでイベント紹介するとか、図書館の新着本コーナーに置いてイベントビラとセットでPRするとか、やり方はあったと思う。次に僕が企画を立案する時には、そこまで気を遣うようにしたい。

クワガタムシが語る生物多様性 (創美社一般書)

クワガタムシが語る生物多様性 (創美社一般書)

  • 作者: 五箇 公一
  • 出版社/メーカー: 創美社
  • 発売日: 2010/09/24
  • メディア: 単行本
出版社からのコメント
森林破壊、生物の乱獲、外来生物の登場などにより、地球から生物多様性が次第に失われつつありますが、これらの要因はすべて人間の経済活動にあります。生物多様性が失なわれれば、人間も生きていくことはできません。外来侵入生物の研究者である著者が、興味のつきない研究エピソードとともに生物多様性の重要性について語った1冊です。
地味な装丁だが、アマゾンの書評等を読んでみると、かなり評価が高い本である。コストパフォーマンスは良いと思う。先生のトークの面白さは書物ではなかなかうまく伝わらないかもしれないが、ご興味ある方は是非ご一読下さい。

*国立環境研究所侵入生物データベースのURLはこちら。
 http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/

最後に、繰返しになりますが、弊ブログでのイベント案内をご覧になって当日会場に来て下さったdukeさん、ありがとうございました。また、ひょっとしたら他にもブログを見て会場に来られていた方がいらしたかもしれませんが、もしそうであればこの場を借りてお礼申し上げます。
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コメント 4

plant

こんにちは。
特に日本のような島国にとっては“これから”の問題ですね。
日本発の「外来種」も調べてみると面白いですよ。
有害なばかりではなく、身近な植物が砂漠化を食い止めるためなどにとても役に立ちそうだったりもします。
by plant (2011-03-07 18:39) 

Sanchai

plantさん、コメント&niceありがとうございます。
そう、記事には書きませんでしたが、昆布やワカメは日本発の外来種として世界中の海を席巻しているそうです。
by Sanchai (2011-03-07 20:35) 

duke

こんにちは!この度はお世話になりましてありがとうございました。
五箇先生のお話、興味深く、たのしかったです!
なんだか、DNAレベルで生き物がいとおしくなる気がしました。
クワガタについてる白いのとか、ダニとか・・・^^;
しっかりと地域の生活の中で共生して歴史を重ねてるんだなと。
私もブログで書きますね~~^^

by duke (2011-03-07 23:00) 

Sanchai

dukeさん、ご出席ありがとうございました。
外来生物が悪いのではない、それを運んだ人間が悪いのだというお話は謙虚に受け止めなければいけないと思いました。

クワガタナカセくんのお話は、イベント開催前から先生のこだわりの部分であったと聞きますが、イベント案内ビラにダニではなくヒラタクワガタを使っていたら、中高生がもう少し足を運んでくれたのではないかと思うと、ちょっと残念ではありました。

それにしても、ユニークな風貌の先生でしたね。私よりも年下というのに驚かされました。
by Sanchai (2011-03-08 06:14) 

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