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称賛される行動派市民 [インド]

インドの週刊誌『India Today』は、毎年、草の根レベルでの変化を実現させてきた市民を紹介する特集記事を企画する。年に1回かというとそうでもない気がする。直近では2010年7月26日号の特集「行動主義のヒーローたち(Action Heroes: The Citizenz Who Can And Do)」がそれに相当する。巻頭緒言「変化をもたらす人であるということ(Being The Change)」(Kaveree Bamzai解説員)から、こういう特集記事を組んだポイントを拾ってみることにする。

*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。
 http://indiatoday.intoday.in/site/Issue?issueId=168

IndiaToday2010-7-26.jpg①インドには、全国64万の村を全て対象とした中央政府のプログラムが100以上ある。カンプール(ウッタルプラデシュ州)の地区コミッショナーが当時調べたところによると、インド政府の第10次5ヵ年計画文書において、ブロックレベルで実施される政府プログラムは167種類あった。ブロック開発官がこれだけの数のプログラムの適切な実施に対して効果的なチェックを行なうことなど不可能だとその地区コミッショナーは感じた。同文書には、このプログラムの数を20~40に減らし、1省庁が扱う優先プログラム数は3か4に抑え、全国プログラムとしての予算規模は年間10億ルピーを下回らないことを求めたが、これはなかなか実現していない。

②作家でかつ評論家でもあるグルチャラン・ダスはこう述べる。インドの問題は右寄りか左寄りかというような問題ではなく、パフォーマンスに関するものである。我々は問題の所在は知っているが、解決策を持っていない。何が問題かではなく、問題をどのように解決するかが問題である。

③特集記事で紹介されている市民活動家の事例は、生活の質の改善や無駄な支出の排除を考える上では小さな代替案に過ぎないかもしれない。決してスーパーヒーローではない。彼らは制度内に属する人々である。しかし、彼らのベストプラクティスは多くの場合オーソドックスとは言えないものである。

紹介されているのは35人のヒーロー的活動を展開する一般市民。全員紹介することは難しいが、とりあえず次の3人についてご紹介しておきたい。いずれも、直接の面識はないが、知り合いの知り合いぐらいで辿り着くことができる人々である。

Dr. Regi M. George & Mrs. Lalitha George
タミルナドゥ州のシテリー(Sitheri)丘陵に住む先住民向けに保健医療サービスを提供する活動を行なっているご夫婦。元々この地域は最寄りの病院まで100kmも離れており、新生児5人につき1人は確実に死ぬという厳しい土地だった。夫妻はダルマープリ(Dharmapuri)県シトリンギ(Sitlingi)に先住民保健イニシアチブ(Tribal Health Initiative(THI))というNGOを1993年に設立した。最初は夫婦2人で診療活動を行なったが、今やスタッフ40人を抱え、手術室やCTスキャン、X線検査室も備えた立派な病院に発展した。先住民の高齢者向けに年30ルピーの掛金で医療保険制度も導入。この医療保険は一般の加入者も50~60ルピーの掛金で加入可能である。17年間の活動を経て、THIは現在、地域先住民の生計の問題にも取り組むようになり、有機農業の研修や手工芸、配管工、溶接工の職業訓練等も行なっている。

Mr. Rigzin Samphel
ウッタルプラデシュ州バライチ(Bahraich)県の県行政長官(District Magistrate)。IASオフィサー(インドの超高級官僚)で35歳の彼は、洪水の影響を受けやすい地域向けにピラミッドのような形状の手押し井戸を、地元の住民やNGOとともに考案し、全国農村雇用保証制度(NREGA)を利用してその普及を図っている。洪水の影響を受けやすいのは200カ村にも及ぶが、こうした村にはこのモンスーン期までに800の井戸が建設される見込みである。元々はラダックの王家の出であるが、彼は2002年に配属されたブンデルカンド地方のジャロウン(Jalaun)県のDMとしても、NREGAの賃金を銀行口座に直接振り込むシステムを構築し、制度の実施の効率化を実現させている。こうした活躍が認められ、2008年には英週刊誌The Economist誌上で「世界で最も働いている官僚(hardest working bureaucrats in the world)」の1人に選ばれた。彼はNREGAの最優秀実施担当官として農村開発省から表彰を受けたこともある。

Dr. Prebhu Das
医師免許取得後、1995年にケララ州パラッカード(Palakkad)県に医務官として赴任し、アガリ(Agali)のコミュニティヘルスセンター(CHC)で勤務している。当初は1日の外来件数が20人程度だったが、1999年には632人にまで増加、入院患者数も平均2人から30人に増えた。2007年には、州政府に働きかけてコッタターラー(Kottathara)に州立先住民専門病院(Government Tribal Speciality Hospital(GTSH))の設立に尽力した。GTSHは病床数54、1日の外来数280人に達する。ダス医師はそこで、9人の医師の監督も務める。彼の活動は単に病院内にとどまるわけではない。アタパディ丘陵地域開発協会(Attapadi Hill Area Development Society(AHADS))に働きかけ、バワニ川に橋を架けるのにも尽力した。妊娠している先住民の女性がGTSHに通院しやすくするためである。アガリ(Agali)、プドゥール(Pudur)、ショーラヤール(Sholayar)の3つのブロック(郡)の女性はダス医師の処置を受けている。元々自宅分娩が60%を占めていたこの地域で、今や90%が施設分娩に変わり、妊産婦死亡率は限りなくゼロに近付いた。過去15年で3,000人の分娩を手掛けた。
(註)この記事をインド在住の知人に知らせたところ、ダス医師はその後GTSHの医務監督官を退任されたそうだ。何か彼のキャリア上で新しい展開があったのかもしれない。

こんなに広い国だけに、紹介された35人だけではなくもっと多くの草の根レベルのスーパーヒーローがいらっしゃるのではないかと思う。また特集記事で紹介された35人を詳しく見ていくと、先住民や低カースト層を対象に何らかの活動を行なっているという人、保健医療分野で従事しているという人が多いように思うが、彼らの活動の経過を追いかけていくと、意外と既存の政府プログラムや他のNGOの活動に働きかけてうまく活用されているような気がする(そういう人を取り上げた特集だから当たり前か)。僕が知るスーパーヒーローとしてはウッタルプラデシュ州クシナガルにあるアーナンダ病院のグプタ医師がすぐに思い浮かぶのだが、彼の活動が既存の政府プログラムともっとうまく結び付けば、こういう雑誌でも取り上げてもらえるほどになるのかなという気がした。ダス医師のように辞められても困るが(苦笑)。


Kendo5.jpg

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風斗 碧

初めまして。暑中お見舞い申し上げます。

 さて、ネットで読める剣道漫画 、昭和剣道小史 『月のような・第2回』 を配信致しました。
ご一読頂けましたら嬉しいです。
by 風斗 碧 (2010-08-09 11:21) 

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