SSブログ

『コミュニティを問いなおす』 [読書日記]

コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書)

コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書)

  • 作者: 広井 良典
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/08/08
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
戦後の日本社会で人々は、会社や家族という「共同体」を築き、生活の基盤としてきた。だが、そうした「関係性」のあり方を可能にした経済成長の時代が終わるとともに、個人の社会的孤立は深刻化している。「個人」がしっかりと独立しつつ、いかにして新たなコミュニティを創造するか―この問いの探究こそが、わが国の未来そして地球社会の今後を展望するうえでの中心的課題となろう。本書は、都市、グローバル化、社会保障、地域再生、ケア、科学、公共政策などの多様な観点から、新たな「つながり」の形を掘り下げる大胆な試みである。
相変わらず、広井先生の本は読解が難しい。先々週のビシャカパトナム、ムニグダ訪問の際に携行した本の1つであるが、結局もう2、3回読み直さないと著者の言わんとすることがちゃんと理解できないような気がして、日本に持って帰ることにした。(ひょっとしたら仕事で必要になるかもしれないし…)

著者には本当に申し訳ない言い方だが、読んでいて「だから自分はこれからどうしたらいいのか」という行動への示唆がなかなか得られず、ただ単に評論しているだけという印象をどうしても受けてしまった。とても全体像を紹介できるほどちゃんとした読み方ができていないので、むしろマーカーで線を引っ張った部分だけを以下に引用することでご容赦いただきたい。繋ぎ合わせれば何か見えて来るだろう。
2005年に出されたOECD(経済協力開発機構)の報告書では、(中略)国際的に見て日本はもっとも「社会的孤立」度の高い国であるとされている。この場合「社会的孤立」とは、家族以外の者との交流やつながりがどのくらいあるかという点に関わるもので、日本社会は、”自分の属するコミュニティないし集団の「ソト」の人との交流が少ない”という点において先進諸国の中で際立っている。(p.17)

 したがって、日本社会における根本的な課題は、「個人と個人がつながる」ような、「都市型のコミュニティ」ないし関係性というものをいかに作っていけるか、という点に集約される。(p.18)

人間の「ライフサイクル」というものを全体として眺めた場合、「子どもの時期」と「高齢期」という2つの時期は、いずれも地域への”土着性”が強いと言う特徴を持っている。これに対して、現役世代の場合は、概して”職域”への帰属意識が大きくなる。(p.19)

戦後から高度成長期をへて最近までの時代とは、一貫して”「地域」との関わりが薄い人々”が増え続けた時代であり、それが現在は、逆に”「地域」との関わりが強い人々”が一貫した増加期に入る、その入口の時期であるととらえることができる。(p.20)

 さらにいえば、日本において現役世代の「地域」への関わりが薄いのは、(中略)都市計画や土地所有等の問題を背景に、大都市の中心部に計画的に整備された集合住宅が少なく、そのため住宅が都市の外縁にスプロール状に無際限に拡がり、結果として極端に通勤距離・時間が長く、職場と居住地が完全に乖離しているという背景があった。こうした点が、戦後日本における地域コミュニティというもののあり方に独特の相貌を与えてきたと思われる。(p.21)

確かにかつてのような統一的・一元的な「コミュニティの中心」はこれからの都市においては困難あるいは不要かもしれない。しかしひとつの統一的な「中心」ではなくとも、(見知らぬ)人々が気軽に訪れ、そこでコミュニケーションが生まれるような拠点的な場所は重要ではないか。(pp.69-70)

”かつて地域において学校が果たしていたような役割を今後は福祉・医療関連施設が担う”という側面が確かに存在する。その意味では、これからの福祉・医療関連施設は、これまでのような単なる「閉じた空間」ではなく、地域に開かれた、文字通り「コミュニティの拠点」的な機能が求められているといえるだろう。(pp.72-73)

「コミュニティ政策ないしコミュニティ再生において特に重要なこと」という問いで上位を占めたのは、「①地域に根差したキーパーソンの存在、②人々の地域コミュニティへの帰属意識、③挨拶など人と人とのコミュニケーションやつながり」であり、これらはいずれも「人」あるいは意識やソフト面に関するものである。(p.81)

福祉政策と都市政策、まちづくり、環境政策、土地政策等との連携や統合の重要性が、新しい意味合いをもって浮かび上がってくることになる。(p.82)

 こうした中で、いわば”「福祉」を場所・土地に返す”こと、つまり福祉というものをその土地の特性(風土的特性や歴史性を含む)や、人と人との関係性の質、コミュニティのあり方、ハード面を含む都市空間のあり方(たとえば商店街や学校、神社・お寺等、先述の「コミュニティの中心」の分布やポテンシャルなど)と一体のものとしてとらえ直していくことが重要となっている。(p.83)

ポスト産業化ないし定常化の時代においては、知的な探求あるいは知識や文化の創造ということが人々にとっての主要な関心の柱のひとつとなり、「大学」のもつ意義が新たな重要性を帯びるようになる。しかも、こうした時代においては、その土地の地理的特性や環境、歴史性等を踏まえたローカルなレベルでの知や、福祉、環境、まちづくり等に関するNPO等の活動が活発になっていくので、それらと呼応しながら「コミュニティの中心としての大学」という視点が大きな意味をもつに至る。(pp.88-89)

一般的なポスト福祉国家の議論としては、(中略)今後は従来のような単純な「大きな政府」としての福祉国家は相対的に縮減していき、それに代わって”共”的な領域――コミュニティや、NPO等の組織、(土地所有や環境などの面での)「コモンズ」等――が重要性を増していくということが論じられる。(中略)こうした議論は、福祉国家をめぐる領域においても、都市計画(ないし住宅、土地政策)等をめぐる領域においても、パラレルといってよいほど類似した形で展開しているといえる。
 私自身の基本的な問題意識を述べれば、私は以上のような方向、特に新しいコミュニティやNPOなど”共”的な領域の重要性の増大という点には大いに共鳴するが、ただし一方で、日本の場合、(政府と言う意味での)「公」の役割がなお脆弱であり、この限りにおいて「公的部門の強化」――これには社会保障など政府の様々な再分配政策や公的規制が含まれる――と言う点がきわめて大きな課題として残されており、その意味ではヨーロッパにおけるポスト福祉国家論的な議論をそのまま日本に適用するのはミスリーディングであると考えている。(pp.159-160)

現在の情勢下において、多くの自治体が公有地をリスク資産的にとらえ、それらを売却・合理化しようとする傾向にあることは確かに十分理解できることであり、そうした方向はある程度行われてよいと考えられるが、同時に、むしろ現在のような時期を地域コミュニティ再構築のひとつのチャンスととらえ、公有地を福祉政策・コミュニティ政策・都市政策の有効なツールとして積極的に活用していくことが重要なのではないか。(pp.183-184)

公有地などを活用して「コミュニティの中心(ないし拠点)」としての機能をもたせると同時に、それを世代間交流、環境保全活動、福祉・医療、生涯学習等の活動場所として生かしていくこと(この場合、企業や共的セクターとも連携)が、コミュニティや地域再生において重要な意味を持ちうるだろう。
 この場合、世代間のバランスや世代間交流、そして世代的継承性という点に注目することが重要であり、なぜならコミュニティというもののひとつの本質は、そうした世代的な継承性にあると考えられるからである。(pp.184-185)

今後の(経済成長という目標の絶対視から抜け出た)成熟化ないし定常化の時代におけるコミュニティやつながりの構築において、(1)ごく日常的なレベルでの、挨拶などを含む「見知らぬ者」どうしのコミュニケーションや行動様式、(2)各地域でのNPO、社会的起業その他の「新しいコミュニティ」づくりに向けた多様な活動、(3)普遍的な価値原理の構築がポイントになる。特に(3)の「普遍的な価値原理(=集団を超えた規範原理)の構築(pp.249-250)

以上、なんとなく雰囲気はわかっていただけただろうか。僕らにできることは、これらを根拠として実際の行動を各々の地域において起こすことだと自分なりに理解している。帰国後の自分の行動の指針にしたい1冊だ。


ちょっとばかり余談―――。
この記事をいったんUPした後、ニューデリー剣印会の稽古に参加してきたのですが、私よりも年上の先生方と稽古をさせてもらいながら、剣道のように歳をとっても稽古ができる武道に関わって来た自分の経験は、世代間交流や世代的継承を仲介しながら新しいコミュニティづくりに貢献していくのに1つの大きな武器となるのではないかと漠然と考えました。(そんな雑念を考えていたのを見事に見透かされ、I先生から見事な「突き」を戴き、K先生にはいつも以上に間髪入れずに追い込まれ、叩きのめされました(苦笑)) 

僕のような者でもきっかけになり、うちの子供達が剣道の稽古をするようにでもなってくれれば、子供達の地域との関わり方もより深いものになっていくような気がします。

nice!(5)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 1

liu-gotoo。

この本は、自分も購入しましたが
まだ読みかけです…
じっくり理解しながら…と思うと結構難しいので。

コミュニティという枠組みをかなり重視されているのは
読んでいるうちに感じました。
そのような枠組みは、個人的にも
今後のキーワードになるのでは?と思ってます。
by liu-gotoo。 (2010-06-06 22:34) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0