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ハイデラバード剣道遠征(その4) [インド]

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《先生に対する敬意の表し方はちゃんと意識ができている生徒さん達だと思う。》

4回にわたってお届けしたハイデラバード「インド剣道」体験記、ひとまず今回でおしまいにしたいと思う。

「ガラパゴス化」―――技術やサービスなどが日本市場で独自の進化を遂げて世界標準から掛け離れてしまう現象のことをこう呼ぶ。日本の携帯電話の特異性を表現する為に作られた新語である(ウィキペディアから)。KIFで行なわれている剣道を僕は「インド剣道」と呼ぶことにしたい。日本、ひいては世界剣道の流れとは隔離され、インド人が剣道を独自解釈して発展させてしまった今の「インド剣道」のあり方も、「ガラパゴス化」と呼ぶのに値すると思う。

今まで世界標準の剣道との接点があまりにも少なすぎたのだから、そうなること自体は仕方がない。ただ、世界標準の剣道と接する機会をもっと作ることができれば、「インド剣道」は僕らのやっている「剣道」に少しは歩み寄ることができると思う。シディク・マフムーディ先生も、KIFの生徒の皆さんも、稽古に取り組む姿勢自体は真摯で、ふざけた様子はない。何よりも、サンプルを見て防具や道着を自分達でこしらえるほどの努力まで彼らはしている。

また、少なくとも彼らの間では「中心を取る」ことの意味自体は理解されていた。ただその方法論が元立ちの竹刀を払うことぐらいでしかないのと、竹刀を壊すことを恐れず機を見て瞬時に飛びこむような練習を積んでいないことが問題なのだ。間違った剣道解釈を正し、方法論を示してあげられれば、たとえ短期間であっても彼らの剣道は一気に上達するような気がする。

――「ガラパゴス化」したインド剣道に対して、僕らはどう向き合ったらいいのか?

受け狙いで商売のネタにしようとしている輩が多いから慎重に付き合え―――そんな警告を僕はインド赴任直後に受けたことがある。単に稽古の相手が欲しかった僕を勝手に「先生」と呼び、いろいろなところで僕の名前を吹聴したシディク先生のやり方には確かに問題もある。今回の僕の訪問も、彼は僕の個人名は出さなかったものの、それに近いニュアンスのことを全剣連の先生にメールで伝えるようなことをやってしまっている。はっきり言って迷惑だ。三段程度の者が訪ねたからといって大騒ぎする話ではない。

そもそも、現段階の「インド剣道」が、全日本剣道連盟にアプローチすること自体が突飛過ぎると僕は思う。五段や六段の先生がわざわざハイデラバードまで出かけて行って稽古を付けることなどは10年早い。それをやるなら、「先生」なぞとはとても言えない初段から三段ぐらいの剣士が、これまで述べてきたようなKIFの実態を予め踏まえた上で、彼らの稽古に参加させてもらう中で少しずつ相手に吸収していってもらうようなアプローチの方が良い。自己肯定に捉えられるかもしれないが、昨年いらしたという「ノザキ先生」や今回の僕のような人間がちょいと覗いて一緒に汗を流してくるぐらいの感じでも丁度良いのだ。ハイデラバード在住の日本人が、遠い昔に辞めてしまった剣道の稽古を久々に再開し、運動不足を補うぐらいのつもりで稽古をやるには丁度良いぐらいのレベルだろうと思う。但し、繰り返しになるがこの程度のことで「先生が来た」と大騒ぎされないよう釘は刺しておくべきかもしれない。

第2に、ハイデラバードに出向くのが別に日本人じゃなくてもいいのではないかというのも思った。IT産業が盛んな町だけに、むしろ米国で剣道の稽古をしているような人々の方がハイデラバードと接点が多いだろう。僕が米国駐在時代に一緒に稽古していた多くの人々がシステムのプログラミング等のお仕事をされていたと記憶している。別に指導者じゃなくてもいいので、せめて「ハイデラバードに出張する機会でもあれば竹刀と防具は持って行って下さい」とでもお願いしてみようかと思っている。

第3に、わざわざハイデラバードに高段者の方々が行かなくとも、シディク先生とあと数名のインド人剣士をデリー剣印会の稽古に受け入れ、世界標準の稽古を徹底的に体験させる方が費用対効果は高いかもしれない。こちらから出かけて行くと、肝心のシディク先生は見学する側に回って、自分で防具を付けて稽古に参加しないだろう。彼自身が指導法を模索中で、日本人の稽古の仕方をじっくり見たいという気持ちは当然あるだろうし、弟子たちの前で相手に圧倒されたら、彼自身の立場もなくなる。であれば、シディク先生をデリーに来させて弟子たちのいないところで「徹底指導」を行なうことで、彼の面目は保ちつつ、世界標準へのすり合わせも進められるだろう。

剣印会はニューデリー日本人学校の体育館で稽古を行なっているため、インド人の部外者を構内に入れるのには問題もあるのかもしれないが、「正しい剣道」のインドでの普及を目指し、なんとかならないものかと思う。

第4に、こうした世界標準の剣道との交流機会の拡充だけではどうにもならない問題が、小手の手の内の皮が破れた場合の補修や竹刀の調達である。この点については僕が日本に帰ってからもお手伝いしてあげたいと思っている。但し、かかった費用は請求させてもらうつもりだが。

その一方で、彼らにも少し考えてもらうようにもしたいと思う。例えば、最近知ったのだが、北東部のトリプラ州に「竹・キビ開発研究所(Bamboo & Cane Development Institute、BCDI)」という、竹細工や家具の研究開発を行なっている研究機関がある。こういう研究所に竹刀の竹のサンプルを送り、研究開発を依頼でもすれば、スペア分も含めてインド国内での大量生産が可能になるかもしれない。それくらいの努力は彼ら自身でした方がいい。

温かい目で見守っていきましょう。10年もすれば日印の経済交流ももっと深まり、六段の有段者が常駐できるような国になり、国際剣連加盟も可能になってくるかもしれません。
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duke

どんな剣道なのでしょう~。姿勢ひとつ見習うにも、Sachaiさんの存在は大きそうですね!!素晴らしいです^^
夏の練習が暑かったのと防具がくさかったのを思い出しましたが・・^^;(←レベル低い^^;)
by duke (2010-05-23 12:07) 

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