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オリッサ州バランギールの空腹 [インド]

先日、「オリッサ州カラハンディというところ」という記事にいろいろ情報を書き足していった中で、オリッサ州バランギール(Balangir)県で起きている大量餓死者のことに少し触れた。ここ2年間のうちに、30歳から45歳までの年齢層の住民が50人も亡くなっており、その原因が慢性的な空腹と栄養失調にあると指摘する記事を、2月24日付のHindustan Times紙が1面トップで取り上げたからだ。同紙はバランギール県にある5つの地区を訪ね、家族を亡くした16世帯で取材を行なった。

Hindustan Times紙の追及はその後も続き、25日付1面ではオリッサ州議会の野党議員がナヴィーン・パトナイク州首相の辞任を求めたことが報じられた。さらに26日付1面では全国人権委員会(National Human Rights Commission)がオリッサ州政府に通達を出し、バランギール県の餓死について詳細なレポートを提出するよう求めたことが報じられている。同紙はさらに3月1日付の社説でも「馬鹿らしい人々の悲劇(Tragedy of the absurd)」として取り上げている。

どうしてHindustan Timesはここまで執拗にキャンペーンを張るのか。それはこの週に発表されたインド政府の2010年度予算と関係がありそうだ。社説には、「2010年のインドには飢餓で命を落とす人もいるというのに、こんな恥ずべき状況を抱えながら我々は経済大国と胸を張れるのか?」と書かれている。この部分が本音なのだろう。社説を訳してみよう。
 この国の政治家や役人にとって、否定は常に最善の自己防衛策であり、アドホックな対応が全ての問題の解決策であるようだ。オリッサ州バランギール県で起きている餓死の報道に対して、同州歳入相は期待通りの反応を示した。彼は、同県で慢性的な空腹を原因とした死亡例をただ否定したのである。州政府の行政官である県徴税官(district collector)も、単に彼の上司の見解を繰り返すだけでなく、犠牲者の1人が死ぬ前に1万ルピーを受け取っていたことまで述べている。誰かこの県行政のトップに、1日2日分の食事を住民に保証するのは彼の中心的責任であると言ってやって欲しい。そして、失業手当給付を持ち出すのは自分の無能振りを覆い隠す恥ずべき試みだということも。

 全国人権委員会(NHRC)がオリッサ州首席事務官に対して同県の死亡事例について報告するよう求めたことで、状況は打開の兆しも見える。しかし、インドの政治制度が通常どのように機能するのかを考えれば、何も変化が起こらないことや、誰も説明責任を果たさないことも十分考えられる。バランギールで起きた餓死は驚くべきことではない。基礎的食料品の配給が届かないことも含めたガバナンスの欠如がこの県では慢性的だからだ。近隣のカラハンディ県、コーラプート県も含め、バランギールはインドで最も貧しく最も発展が遅れた県の1つだと言われている。バランギールの運命は、1947年以降全ての貧困撲滅プログラムの対象になっているにも関わらず、何十年にもわたって状況が何も変わっていないことでも明らかだ。しかし、医療サービスや栄養への適切なアクセスが殆どない人々にとっては貧困は恒常的な状況でもある。マハトマ・ガンジー全国農村雇用保証制度ですら状況を改善できていない。我々の調査によれば、この地域では2008‐09年の賃金支払いの74%が賃金労働者の手をすり抜けて第三者に渡っている。

 プラナブ・ムカジー蔵相は、予算演説の中で、社会セクターへの予算配分を22%増額して1兆2,767億4,000万ルピーにすると発表した。食糧安全保障法も法案審議を控えている。しかし、空腹や死と背中合わせで闘っている人々に最低限の基礎的サービスも提供できないのなら、予算額も法制度も全く意味をなさない。バランギールの死は、我々のガバナンスや我々が国家として自国の国民にもたらす価値、抜け道の多い配給制度、ソーシャルセーフティネットに開けられている大きな抜け穴といったものについて多くのことを語ってくれる。次期会計年度の達成目標である8%経済成長や素晴らしい経済目標は、空腹に耐えて死と向き合っているインド人もいることを考えると恐ろしく馬鹿げたものに聴こえる。この悲劇は今も起きているのだ。

Balangir.jpg

結局、この論陣を張りたかったからオリッサの取材を行ない、集中的に記事を掲載してきたのかなという気がする。ただ、これだけの記事では実は本質の部分が十分描かれていない。空腹に耐えている人々に配給食糧がちゃんと届けられるようになればそれでいいのかというと、そうではない。

他の情報では、この地域は州平均や全国平均と比べて穀物生産高は多いのである。それなのに空腹を耐え忍んでいる住民が多いということは、折角生産された穀物が県内で消費されずどこかに出荷されているということである。ではなぜ自分で自分で消費できないのかというと、穀物を借金の形で取られてしまうからだろう。そして、借金が返済できないようになってしまう原因は、家族や自分のケガや病気で、突然の出費を強いられたり、稼ぎ手が働けなくなったり、いろいろな理由が考えられると思う。

だから、やるならもっと徹底的に現地で取材をして欲しい。


【参考記事】
"Chronic hunger kills 50 in Orissa district" by Priya Ranjan Sahu, February 24, 2010

"Quit, Patnaik: Oppn on Balangir deaths" by Priya Ranjan Sahu, February 25, 2010
http://www.hindustantimes.com/News-Feed/bhubaneshwar/Quit-Patnaik-Oppn-on-Balangir-deaths/Article1-512627.aspx

"Rights body seeks report on Balangir hunger death" by Satya Prakash, February 26, 2010
http://www.hindustantimes.com/rssfeed/newdelhi/Rights-body-seeks-report-on-Balangir-hunger-deaths/Article1-513009.aspx

"Tragedy of the absurd" March 1, 2010
http://www.hindustantimes.com/editorial-views-on/edits/Tragedy-of-the-absurd/Article1-514070.aspx


【3月21日加筆】
Hindustan TimesのPriya Ranjan Sahu記者、今でもバランギールのこの集団餓死問題を追いかけており、時々記事が載っている。3月18日にも、「人権委員会、バランギールの死亡例について調査開始(NHRC begins probe into Balangir deaths)」が掲載されている。ポイントは以下の通り。

1)全国人権委員会(NHRC)の特別調査官が3月16日(火)よりこの問題について調査を開始した。委員会より任命された特別調査官のダモダル・サランギ氏は、16日から4日間現地入りし、死者を出した家族と面会する予定。

2)15日にサランギ氏はバランギールに到着しており、県当局関係者面談して、何故昨年だけで1世帯から5人もの死者が出たのか当局の見解を聞き取りし、公的配給制度(PDS)や医療施設、全国農村雇用保証制度(NREGS)の実施状況や、中央政府の予算がどのように県レベルで執行されているのか確認したという。

3)16日には、サランギ氏はチャブリパリ村(Chabripali)を訪問した。ここは、ジントゥ・バリハ氏とその妻、3歳の息子、1歳の娘とバリハ氏の母親が空腹により昨年9月から10月にかけて連続して亡くなった村である。サランギ氏は、現地NGOであるVishwaneedamが保護しているバリハ氏の9歳の息子とも面談した。

4)サランギ氏の報告書はNHRCに提出される予定。

*記事全文は下記URLにてダウンロード可能です。
 http://in.news.yahoo.com/32/20100318/1053/tnl-nhrc-begins-probe-into-balangir-deat.html
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コメント 1

Sanchai

ponさん、nice!ありがとうございました。

つなしさん、いつもnice!下さりありがとうございました。

あんれにさん、初めてでしょうか。nice!ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします。
by Sanchai (2010-03-01 23:57) 

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