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農村医制度導入を巡る論争 [インド]

2月9日付で最後に加筆したので、最後まで読んで下さいね!

2月5日(金)付Hindu紙の第1面に、「政府、農村医制度を擁護(Govt. defends 'rural doctors' scheme)」(Aarti Dhar記者)という記事が掲載されていた。年度末が近付くにつれ、来年度から導入される新制度について賛否両論が展開されているのが新聞紙上等を見ているとよくわかる。この記事の内容は新制度を擁護する政府側の発言が取り上げられているが、挿入されている写真は新制度に反対する専門医の反対アピールのものである。Hindu紙は微妙なバランスを取っているが、どちらかというと新制度賛成のような気がする。

いつものように記事の要約から。

1)アザド保健家族福祉相は4日(木)、デリー市内で開催された2日間のワークショップ初日開会式の席上、「ルーラル・ドクター」という別のカテゴリーを創設して医学部教育に新モデルを導入を図ろうとする政府提案を擁護し、医学教育の質的側面で妥協して専門医の重要性を弱めるようなつもりはないということを強調した。デリーをはじめとして他の都市でも起きている医師の強い反対に対して発言したもの。

2)このワークショップは、農村医学の学士資格のための新課程の創設を議論する目的で開催されたもので、この中でアザド大臣は、既に研修を終えた医師の配置責任を弱める意図はなく、イノベーティブな解決策が見出されていない理由を過去から現在に至るまで医療関係者が農村医療の問題を無視してきたからだと責任転嫁するつもりもないことを強調した。

3)例えば、中国では、1950年代から60年代にかけて「裸足の医師(barefoot doctor)」の育成に大きな投資を行なってきた。これが健康指標の大幅な改善に繋がったとアザド大臣は指摘する。同様に、チャッティスガル州もインド全国に先駆けて3年間の農村医育成コースを立ち上げている。農村医療サービス従事者に求められる訓練内容やスキルは農村社会の健康ニーズに基づいて設計されるべきものである。医療の専門家を目指すための裏口を作ることを意図しているわけではない。「こうしたプログラムを実施するためには厳格な注意の下で情報公開も絡め、こうしたコース修了者が学位取得後都市部に戻って診療を開始するような事態が起きないよう保証していかなければなりません。」――アザド大臣はこのように述べ、インド医学評議会(Medical Council of India)に対し、モニタリングを注意して行ない、策定された医師免許発給手続きが適切に行なわれているかどうかを見守るよう求めた。

4)アザド大臣はまた、この新制度の背景として、農村地域の人々が直面する基本的な痛みの性格と、救急診療キットや早期発見、簡易治療、適時の専門医紹介といった近代的手法の適用必要性を考えると、高度な技能を持った人材よりも、短期間の訓練を受けた人材による診療を提供することの方が必要性が高いとも述べた。

5)提案されている新制度では、農村部出身の人材は3年間の課程に入り、基礎的な痛み等に対する解剖、診断、診療の基礎知識を学んだあと、全国145,000ヵ所にあるプライマリーヘルスセンターやサブセンターで働くことになる。

*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。
 http://www.thehindu.com/2010/02/05/stories/2010020556530100.htm

OppositionToRuralDoctors.jpg

以前、「Teachers' Day」に授業を休んで教員の待遇改善のためにデモに参加していたという教員の話を書いたことがあったが、どうもそれに近い嫌悪感を覚える写真だった。こういう専門医が専門性指向を強めて大都市での勤務を希望するから、農村に医師がなかなかいないという状況が起きているのであった、こうした専門医が自分の施術のスキルアップのために積極的に農村勤務をこなしていれば、今のような状況にはならなかったのではないかと思う。職務放棄のような気がして鼻白む。

この日、Hindu紙にはもう1つ記事が載った。「農村医創設への動きに抗議の声(Protests over move to create new cadre of rural doctors)」という記事で、この中で抗議グループの人々は、現在医師の失業率が高いことを挙げ、待遇を改善すれば今仕事にあぶれている医師は喜んで農村に行くと主張している。本当にそうだろうか。農村医学コースの最初の卒業生が実際に農村医療に従事するようになる頃には、雇用状況も変わってきて、待遇改善しても農村になど行かないと思う医師がかなりいるようになるのではないかという気がする。

*こちらの記事の全文か下記URLからダウンロード可能です。
 http://www.thehindu.com/2010/02/05/stories/2010020557450400.htm


【2月9日加筆】
…と、ここまで書いてきたのだが、8日(月)、滞在先のチェンナイでチェンナイ小児病院のスレッシュ病院長とお話しする機会があったので、率直に公立病院の医師の目から見て今回の農村医制度をどう思うのか聞いてみた。案の定反対の立場だったが、それは州の置かれた状況によって違うとも付け加えられた。つまり、チャッティスガル州は必要かもしれないが、タミル・ナドゥ州では必要ないというご意見だった。

その最大の論点は、医師(MBBS)と看護師の間を埋める学位がインドにはあり、農村のプライマリーヘルスセンターやサブヘルスセンターには看護師は既にいるのだから、看護師を訓練して1つ上の資格を取らせればよいと仰っていた。逆に、農村医の学位を設けると、一定期間農村勤務した後必ず都市での就業機会を希望する医師が現れるので、キャリアパスを2本に分ける今回の政府の決定が既にあるキャリアパスを歪める可能性は強いと仰っていた。

逆に、チェンナイのような大都市で学位を取った医師が農村に戻って就職する可能性はどれくらいあるのかとも訪ねてみた。おそらく20%ぐらいだろうとのことだった。それくらいでも自分の生まれ育った農村部に戻る医師がいるというのはある意味成功なのかもしれないなとも思った。

何にせよ一方的な見方はよくないなと改めて反省させられた。

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