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『博士の愛した数式』 [読書日記]

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
日本人会室でお借りしていた本を返却しようと慌てて読んだ1冊だが、『最悪』のような逆境に陥って初めて垣間見る人間の本性を表した作品とは違い、ゆったりとした時間の流れを感じさせる作品で、心が落ち着く気がした。文章も淡々として物語は静かに進行し、大きなクライマックスシーンがあるわけでもないが、読み終わることには幸せに満ちた気持ちになれる作品である。女性作家の著書というのは僕はあまり読んでいないので一概には言えないが、こういう作品は男性作家ではちょっと書けないのではないかと思う。

不思議なもので、こういう作品を読むと、中学高校時代に苦手としていた数学が見方を変えたら結構面白いかもという気がしてしまった。数年前に巷で「インド式計算」なるものが流行った。とてつもない大きな数字でも四則演算を短時間でこなせるコツを「暗記」させるという趣旨で書かれた本が沢山出回ったが、何故そうなるのかの解説は必ずしも十分ではなく、そもそもそんなルールを暗記することができないから頭の体操にもならないとして一発で挫折した経験がある。本書で出て来る博士だったら、「へ~」と思わせる計算法の中に、普遍的な法則性を見出して、いくらでも応用が利く説明で語ってくれそうな気がする。武の道でも文の道でも同じで、道が拓けるのは良い師との出会いであると思う。気付くのはあくまで自分だろうが、気付きを促してくれるのは良い師である。我が子供達にも良い人生の師との出会いが訪れると嬉しい。

インドとの関係で言えば、本書の中で、数字は人類が生まれる前から存在していたが、「ゼロ(O)」の概念だけは人類が創ったものだと博士が述べるくだりがあって興味深かった。

それと、80分間しか記憶が維持できない博士が、その前の記憶をメモとして記録して上着に貼り付けている描写が出てきた時、やっぱり記憶が続かない人がやる対処法というのは古今東西を問わず似ているところがあるのだなというのも感じた。アーミル・カーン主演で2008年12月末に公開され、『3 Idiots』に破られるまで興行成績第1位だったボリウッド映画『Ghajini(ガジニ)』の場合、主人公のサンジェイ・シンガニアの記憶は15分間しか維持できないという設定になっていた。そこでサンジェイがやったことは、家中にメモを貼りまくり、自分の肉体にも自分がやるべきこと(ガジニ一味への復讐)とそのために集めた情報を刺青として刻み込んだ。

最近、僕の記憶も続かなくなった。数日前に会ったばかりの人の名前を忘れる失態は何度も経験している。自分もトシかなと苦笑いしきりであるが、さすがに自分の体に刻んだり付箋を服に貼り付けたりはできないから、手書きでメモを取ること、ブログに記録を留めることを意識している。
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