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最後進地域の遠隔医療 [インド]

17日から18日にかけてコルカタに出かけてきた。こうした旅は情報収集の場でもある。普段読まない新聞や雑誌に目を通す機会もあり、いつもと違うアングルでインドの開発問題を考えることもできる。

今回見つけたのは週刊誌『OPEN』11月20日号に掲載されていた「文字通り、何かの時のお医者さん(Doctor on Call, Literally)」(Alok Singh記者)である。

1)ウッタル・プラデシュ州のワズィルプール・バグワンワラ、バインサ、サハスプールといった村では、村人が病気になると、普通タクシーをチャーターして近くの町まで行く。3kmから30kmぐらいの距離である。こうした村には地元の医療従事者がいる。しかし、支払い能力があるかよほど切羽詰まった状況でもあるなら、町の医者に診てもらいに行く。診察を受けるためだけにお金を借りる人もいる。しかし、こうした状況は過去のものとなりつつある。地元で運営されているテレメディスン(遠隔医療)センターがあれば、デリーの医師の診察を受けることもできるようになる。

2)これらの村では、1年前に米国バークレーに拠点を置く世界最大の医師のグループの資金拠出を受けたNPO「ワールド・ヘルス・パートナーズ(World Health Partners)」がテレメディスンのプログラムを立ち上げた。これらのテレメディスン・センターは「スカイ・センター」と呼ばれ、ウッタル・プラデシュ州のムザファルナガル、ビジュノール、ミールートの3県約100ヵ所のスカイ・センターを繋ぐことで、農村や都市近郊の風景を変えようとしている。大雑把にみて、各テレメディスン・センターは約10ヵ村をカバーする。センターにはブロードバンドのネット接続環境とPC、ウェブカメラ、そして「レメディ(ReMeDi)」と呼ばれるテレメディスン用資機材が配備されている。「レメディ」は遠隔医師(テレドクター)がテレメディスン・センターで外来患者を受け、聴診器(stethoscope)を使い、心電図(ECG)や血圧測定、体温測定等を行なうことを可能にする資機材だ。

Telemedicine.jpg

3)腎臓に結石を抱えていたある患者は、結石除去の後、ミールート県バインサの自分の村で徐々に回復しつつあった。しかし、処置が行なわれて1週間が経ったある日、背中に広がる痛みと頭痛をおぼえた。彼女は村の一般医療従事者(GP)のところを訪れたが、この従事者はアユルヴェーディック医学の学位を持っている医師で、こうした症例を処置した経験がなかった。そこで、マワナの町の医師に紹介状を書く代わりに、この医師はテレメディスン・ネットワークにログインし、デリーの医師から診断内容を聞いた。それにかかる費用は別として、この患者は、村から最も近いマワナの町までの4、5kmを歩くのも難しい状況にあった。

4)バインサと比べると、ビジュノール県のバグワンワラ村にはGPすらいなかった。村から30km離れたビジュノレが最も近い町だ。バグワンワラ村には病理医兼理学療法士だったハルヴェンドラ・ゲロットが運営するスカイ・センターがある。ゲロットが近くにいない時もセンターの作業は中断することはない。ゲロットの妻がテレメディスン・システムにログインして遠隔診療を支援しているからだ。

5)これがウッタル・プラデシュ州のサトウキビ畑から見える風景である。これらのスカイ・センターはお金は生み出さない。プログラムはもっと拡大していく必要があるし、サービス内容も拡充されなければならない。しかし、こうした後進貧困農村地域でのハイテク外来診療は、インドの僻地農村に若手医師を無理やり送り込もうという中央政府の計画よりも実現性が高いように見える。

*原文は下記URLからダウンロード可能です。
http://www.openthemagazine.com/article/real-india/doctor-on-call-literally

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以前、インドの遠隔医療について調べておられる方と話していて、「ウッタル・プラデシュ州(UP州)で遠隔医療というのはさすがに無理でしょう」というような話をさせてもらったことがある。今でもダイヤルアップでないとネット接続ができない通信環境で、大容量のデータの送受信が必要な遠隔医療などできっこないと思ったのだ。しかし、この記事になるような内容の遠隔医療が既に実用化されているとしたら、僕は前言を撤回しなければならない。

但し、UP州も広うございまして、ここで名前の出てきたミールート、ムザファルナガル、ビジュノールの3県は、デリーから比較的近く、遠隔医療が導入しやすい環境にあったのではないかとのうがった見方もできる。通信事情も州内東部と比べたら西部の方が絶対恵まれているであろうし、そもそもが外国のNPOが主導でネットワーク形成が行なわれたのであれば、外国から来た人が比較的アクセスしやすい、即ち首都デリーから比較的距離が短いところでパイロット事業は実施されるだろう。だから、これだけを見て「UP州では遠隔医療もできる」と一般化するのは非常に危険だと思う。

僕の基準はUP州東部のクシナガルで遠隔医療ができるのかというところにある。今のクシナガルの状態では遠隔医療はまだまだ先の話だろう。

ただ、こうした記事を読むと、こうしたネットワークがどのような経過を辿って構築されていったのかについては興味があるところだ。誰が100ヵ所もあるスカイ・センターの開設に奔走したのか、どうやって地元住民に知らしめたのか、住民はオーナーシップを持って関わってくれたのか、一般医療従事者はどのように確保したのか、資機材の操作方法はどのように周知させたのか、逆にデリーにいて遠隔診療に顔を出す医師というのはどのような経緯でこのネットワークに関わるようになったのか…。記事を読むだけではよくわからないことが多い。

それに、遠隔医療が若手医師を農村で修業させるのに比べてもっと有効だという記事の論調にはちょっと賛成しかねるところもある。
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カツ

医薬品の流通在庫の情報収集しているところ、興味深く拝読。
21日の日経では、インド、ニューディリー近郊のメダンダ病院やアポロ病院が医療ツーリズムで紹介されておりました。
インドは医療問題で話題が豊富なことに改めて興味が増したところです。


by カツ (2009-11-22 05:31) 

Sanchai

☆カツさん☆
コメントありがとうございます。いちばん読んでほしいなと思っていた読者の方からコメントをいただけて嬉しいです。
by Sanchai (2009-11-22 06:20) 

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