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『医療再生はこの病院・地域に学べ』 [読書日記]

医療再生はこの病院・地域に学べ! (新書y)

医療再生はこの病院・地域に学べ! (新書y)

  • 作者: 平井愛山
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2009/05/02
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
これが地域医療再生の道標だ!ついに音を立てて崩壊をはじめた日本の医療。だが、地域の努力と医師の工夫で、見事に医療を再生させた事例が存在する。「あの病院に入ると死ぬ」と噂されていた自治体病院が、再生に至った先進的なシステムとは?周産期死亡率ワースト一位だった宮崎市が、数年でトップへと改善した秘訣とは?マンパワー不足、資金不足等を乗り越えた成功例を紹介。瀕死の地域医療に対する緊急提言を聞け。

医療崩壊が様々な形で取り沙汰されるようになってからどれくらい経つだろうか。問題点の指摘を行なうタイプの本はこれまでにも何冊も見てきたが、政府の失政の部分の是正はともかくとして、財政がひっ迫している状況で、行政ができることはそもそも限られていると思う。お役所的な体質をいくら槍玉にして行政サービスの質的改善を図ろうにも、先立つものがなければ難しいものは難しいのだ。

だから、単に問題点の指摘だけじゃなく、ちょっとぐらい日本の医療の将来について希望が見出せるような取組みが紹介されていて、ちょっとだけでも元気が出るような本が読みたいと思って飢えていた。それがようやく見つかった気がする。この本は読んでいてちょっとだけ元気をもらえる本だ。こういう取組みが広く知られて、僕らのような地域住民の立場でこの問題に関わっていくことだってできるのだというのを多くの人に知って欲しい。だから強調したい。この本はお薦めであると。

本書の各章で紹介されている事例は以下の通りである。中には既にその取組みが1冊の単行本として広く紹介されているものもあるし、その中には僕が自分のブログで紹介したものもある。また、海堂尊の著作『極北クレイマー』のモデルとなった病院と医師とおぼしき事例も含まれている。

 第1章 わかしお医療ネットワーク(千葉県東金市)
 第2章 日本型ER(京都市)
 第3章 地域完結型周産期医療システム(宮崎市)
 第4章 江別市立病院総合内科(北海道江別市)
 第5章 医療・福祉・保健を一体化した「遠野方式」在宅医療(岩手県遠野市)
 第6章 村上スキーム(北海道夕張市)
 第7章 クリニック間連携によるチーム医療(東京都世田谷区)
 第8章 県立柏原病院の小児科を守る会(兵庫県丹波市)

本書では問題の分析は非常に軽めにコンパクトに済ませられているが、要するに日本では元々医療費の抑制を目的として医師の増員が抑えられ、現場での医師不足が常態化してきたところに、2004年の新臨床医研修制度が追い打ちをかけた。研修医が自由に研修先を選べるようになると、魅力ある市中の研修病院に人気が集中し、旧態依然として制約が多い大学の医局に残る若手医師が激減した。このため大学は地域の自治体病院に派遣していた医師を引き揚げ始めた。これが元々あった医師不足を加速度的に深刻化させ、残された医師が疲弊していった。患者側のモラルも低下している。コンビニ診療が当たり前になり、キレやすい患者や患者の付添い人も増えた。感謝すらされず、過労で医療事故のリスクすら高まっているところだから、不慮の死も医師の過誤と簡単に捉えられてしまうような雰囲気だ。そうなると、医師はやってられない。引き揚げとは別に自ら立ち去る医師も増えて、地域医療は全国各地で崩壊に向かっている。

ここで取り上げられた事例は、大きく分ければ、①院内での取組み(総合内科の創設)、②地域内でのネットワーク強化(クリニック間連携、医療・福祉・保健の連携、薬局・一次・二次・三次医療機関間の連携等によって地域全体で患者を診る体制作り)、③患者教育・住民教育(地域医療の問題への理解を深め、安易な受診を控える意識改革とそれに必要な情報武装)といった3つの異なる、或いは相互補完的なアプローチが紹介されている。相互補完的と述べたのは、単に病院の実施体制の再構築を行なうだけではなく、そこから予防的観点から在宅診療や患者教育、地域のレファレル体制の整備等に踏み込んでいる事例が幾つか見られたからだ。また、地域住民の側にも、コンビニ受診の自粛やかかりつけ医の確保、医師への感謝といった意識変革を自ら進める、或いは病院側から働きかけるといった取組みが幾つも見られるのが印象的だった。

先々週、そして先週と、ホテル長期滞在中の会社の若手関係者の中で急な高熱を訴える者が2人続き、うち1人は二度にわたって24時間救急外来の世話になるという出来事があった。職場に多少でも医療の知識のある者がいれば少しは助かったのだが、直接の監督係だった僕と僕の部下は、どうしていいかわからずに窮地に立たされ、都合3回の事例全てを病院の救急外来に連れて行くという対応をした。言わばデリーで「コンビニ外来」をやったというわけだ。本書を読みつつその経験を振り返ってみると、本当にそうするしかなかったのか反省の余地がかなりあるように思える。

第1に、僕ら自身が普段から疾病や薬事の知識を得る努力を十分行っていなかったのではないか。うちの職場には健康相談員のような人がいないから、いざとなったら自分達が頼りなのだが、多少の病気ぐらい市販の薬を飲んで寝てれば治るとしてやり過ごしてきた。しかし、他人がそうなった時に同じ精神状態ではとてもいられないというのを痛感させられた。僕らにも多少の知識は要る。

第2に、自分達の知識ではどうにもならないと判断した場合に最初に相談できる「かかりつけ医」を持っていないこと。時間外に救急外来に送り込むより以前に、先ずは相談できるホームドクターを、職場の近くに確保しておいて、何かの時には先ず相談をしてみるということが必要だろう。そして、このホームドクターが「病院に行け」と判断した時、初めて病院に患者を連れて行くという体制の整備ができればいい。

そういう意味で、住民・患者の側に出来ることとして、僕らの参考になるアイデアもいただくことができた。
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