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旱魃の影響は? [インド]

最近、読者の方から、インドの旱魃がコメ生産に与えた影響や如何にとのご質問をいただいた。門外漢の僕があまりこの点についてしっかりお答えする材料を即座に提供することは難しいのだが、時を前後して新聞紙面をこんな報道が賑わしていたのでご参考までに紹介する。代表として取り上げるのは9月25日付Times of India紙バンガロール版第9面にあった記事である。

コメはより希少に
Rice may get dearer
【ニューデリー発】シャラド・パワル農業相は、旱魃の影響はコメの価格に見られることになると警告した。610万ヘクタールの作付面積減少がコメの小売価格にいずれ反映されてくるという。(中略)一方、農相は供給不足の可能性については否定した。「幸いなことに、昨年の生産高は良好だったため、政府の備蓄は十分にある。しかし、今年の生産増加に向けては今から準備していかねばならない。」パワル農相のこの発言は「ラビ期の農業振興に関するカンファレンス」で行なわれたもの。農相は来るべきラビ期の播種では油糧種子(oilseeds)や豆類(pulses)を増やし、穀類の減少を補う計画があることも明らかにした。
 この先お祭りの季節が続くことや砂糖生産の急減に対する対応策として、パワル農相は、インドが輸入する精糖への関税をゼロにして国内砂糖価格を抑制すると述べた。世界最大の砂糖消費国における生産減少は、この1年のうちに砂糖価格を倍増させ、キロ当たり36ルピーにまで高騰している。(後略)

この記事ではっきりするのは、カリフ期(一般には雨期と呼ばれているモンスーンの時期)の雨量が例年より少なくて、コメ生産にははっきりと影響が出ているということ。これからカリフ期作物の収穫は始まるが、そこではコメの収穫高は減少して価格が上昇すると予想されている。但し、春に収穫期を迎えるラビ期の作付はこれからなので、パワル農相はことあるごとに「ラビに目を向けよ」と触れて回っている。

コメ生産には影響が出ているのだが、先週調査で訪れたカルナタカ州の農村を見ると、「水があまり利用できそうになかったから即座に作付を切り替えた」という声をよく聞いた。

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それで何の種を播いたのかと聞くと、グランドナッツ(落花生)(▲写真参照)やメイズ(トウモロコシ)、バジュラ(シコクビエ)、サンフラワー(ヒマワリ)等、水の消費量が少なくて済む作物だという。バジュラはインドの主食の1つであるロティの原料になる穀物だが、後は全て商品作物。これらを市場で売って売上収入でコメを買えばよいとのことだった。勿論、コメに関しては貧しい農家に対しては政府の備蓄米の放出もされている。但し、こちらの方は安くて不味いらしい。

2年前に同じ農村を回った際、案内してくれた現地NGOのスタッフはSRI(System of Rice Intensification)という栽培法を導入したことを盛んにアピールしていた。SRIは日本の条植えのように苗と苗の間隔を広めにとって単株当たりの稲穂の数を増加させ、単位面積当たりの収穫高も増加させるという魅力的な方法だ。しかも、水の投入量は従来型の稲作と比べて少なくて済む。

しかし、2年前にSRIを実験導入していた田んぼは、今はトウモロコシが植わっていた。SRIの実験結果は2007年度は良好だったが、その後は2008年度も雨量が少なくてとてもコメは作れないと判断して他の作付で補い、今年も雨が遅いと判断してトウモロコシにしたのだという。今年は最初からコメを諦めていたのかと尋ねたところ、8月中旬に「さて、今年はどうしようか」と考えて貯水池の水量等を見てみたところ、今年も水の確保は難しいかなと思い、最初からトウモロコシにしたという。また、昨年の場合はいったんは稲を植えたらしいが、1週間ほどで見切りをつけ、トウモロコシに切り替えたのだそうだ。

そういうのを聞くと、農民というのは機を見るに敏で、いつもいつも天候に翻弄されているわけではなさそうだということができないだろうか。確かに今年もコメの生産量は少ないかもしれない。しかし、その間に何もせずにただボーっと見ているだけではなく、ちゃんと状況にアジャストしている。コメの生産は減っても、他の穀物や豆類の生産はさほど影響が出ていないかもしれない。

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栽培方法もそれなりの工夫はしている。上の写真はバジュラの穂であるが、周囲にはグランドナッツが植わっている。バジュラとグランドナッツを並行して植えているのである。こうすれば、どちらかがこけてもどちらかが残り、全滅のリスクは負わなくて済む。

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最後はちょっと余談。このバジュラを挽いて粉にして水を含めてこねるとロティの原料になる。地元のおばちゃんに1枚焼いてもらって食べた。出来たてのロティは美味しかった。因みにこのおばちゃんの使っている窯は現地で住民の生活向上に取り組んでいるNGOが導入した改良かまどの一種である。
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ラッサナ

こんにちわ。

はじめまして。

SRIについては、世界各地で実践されていますね。
各地によって実践方法は少しずつ違うのですが、共通していることは、種子の直播ではなく移植(田植え)、水田に対する細かな水の入れ方です。

ですので、SRI実施の前提は、水田に対して適時適量の水を配分できる施設とルール、住民の意識が必要となります。

さらに、田植えや水管理などで、労働集約型の営農方式が必要となりますので、労務費のコスト投下に対して、農民が満足いくだけの収量を得られるという達成感を得られるかが、ポイントとなります。

ご指摘のとおり、農民は作期ごとに(政府に指示されなくとも)合理的な判断で作付け計画を行うことができる、というのが、私の偽らざる実感です。

by ラッサナ (2009-09-27 15:10) 

duke

トロティ、おいしそうですね。
こういうとき、お金って払うんでしょうか。
by duke (2009-09-27 15:25) 

Sanchai

☆ラッサナさん☆
「はじめまして」はないでしょう。コメントありがとうございます。本文で書き忘れましたが、農民はSRIの効果はちゃんと理解しているようで、初年度の実験農家の成功を見た別の農家が、水へのアクセスが比較的良い農地でSRIを実践している事例はこの地域でも見られるようです。

☆dukeさん☆
nice&コメントありがとうございます。そう言えば、お金払いませんでしたね。「改良かまどの調子はどう?」なんて感じで聞きに行ったので、「オーケー、オーケー」ってな調子でサービスして下さったのでしょう。いずれにせよ現地の言葉(カンナダ語といって、ヒンディー語とは全く違います)わかんなかったので、お金の交渉はできなかったんですけどね。

☆みかんママさん☆
niceをありがとうございました!
by Sanchai (2009-09-27 21:33) 

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