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十分なベッドもなく… [インド]

Not enough beds
Nidhi Jamwal記者(ムンバイ)

インド中部のマディアプラデシュ、チャッティスガル、ジャルカンド州では、民間病院の病床数が州民829人につき1床しかない。これはインドでも最悪の病床住民比率(hospital bed-to-person ratio)である。民間ヘルスケア施設を対象に初めて行われた調査でわかったもの。インド全国平均では、民間病院の病床住民比率は1対422である。これが公的病院になると比率はもっと悪く、1対2,239となるという。世界保健機関(WHO)は最低でも人口1,000人に対して1床というガイドラインを示している。

この調査は、病床数、医療サービスの負担可能度(affordability)、病院へのアクセスの3項目に絞って行なわれたもので、その結果として、次のようなことが明らかになっている。
◆民間病院の患者の35%が1ヵ月10,000ルピー未満の所得しかない低所得者層に属する。
◆これらの患者の85%は医療保険に加入していない。
◆42%の患者は近隣の農村部から民間施設に通っている。

DownToEarth1.jpg「インドでは民間部門がヘルスケア・サービス市場を席巻しています」――ホスマック・インディア社(Hosmac India Pvt Ltd)のシニアコンサルタントであるウトカルシュ・シャー(Utkarsh Shah)氏はこう述べる。ホスマック社は10州の30の病院を対象に上記の調査を行なった。病床患者比率が低いことはインドのヘルスケア・サービスのお寒い現状を物語っている。しかし、この調査は必ずしもこのお寒いヘルスケアの全体像を示していないという。ムンバイのNPOであるCEHAT(Centre for Enquiry into Health and Allied Themes)のパドマ・デオスタリ(Padma Deosthali)氏によれば、「健康とは病院サービスが充実すればそれで改善されるというものではありません。プライマリー・ヘルスサービスから予防的措置、地域医療まで含みます。人々が民間施設を利用せざるを得ないのは、公的ヘルスケア・サービスがそれだけ劣悪であるからに過ぎません。」

ホスマック社のヴィヴェク・デサイ(Vivek Desai)部長は、公的セクターが拡充されて貧困層がそこで治療を受けられるようにならなければならないと述べる。「中所得層や富裕層にとっては、医療保険加入が必須です。ヘルスケアの費用は右肩上がりですから。」

「ムンバイの患者は郊外や村からやって来ます。公立病院では外来患者を扱う能力に限界があり、その状況は悲惨の一言に尽きます。私はムンバイで最大のサー・ジェイジェイ病院の床で眠っている患者を目撃したこともあります。民間病院は費用は高いですが、患者はそちらの方がよく看護してもらえることを承知しています」――こう述べるのはムンバイにあるホーリー・ファミリー病院・医学研究センターのアンシラ・トリアグレル(Ansila Triagler)氏である。

しかし、民間セクターのヘルスケアの質もまた懸案事項の1つである。十分な医療従事者が配置されていないからである。先述のデサイ部長によれば、「7年前、スーラト(マハラシュトラ州)で心臓外科病院が開院しましたが、この病院は最初の3ヶ月の間、冠動脈ステント(angioplasty、血栓をなくすために血管にバルーンを挿入し脹らませる血管の手術)ができる医師を確保することができませんでした。」

インド中部が課題
CEHATが行なった2002年の調査によれば、ムンバイの東アンデリ地区の世帯の44%が、この地域に公立病院が存在しないことを理由に民間病院に通わざるを得なかったという。この地域の殆どの住民がもし地区内に公立病院が設立されたらそちらに行くと答えている。

ムンバイのような都市であればこれ以上病院は必要ないし、今後はレファラル病院(最終移送先病院)として機能させればよいとホスマック社の調査レポートは述べている。デサイ部長によれば、民間ヘルスケアへの投資はニーズや需要に依存するよりも、むしろ財務的実現可能性によるところが大きいという。このために、ムンバイでは高度に専門化が進んだ病院が非常に多い一方で、同じマハラシュトラ州東部にあるナグプールでは専門病院が1件もない。

病床患者比率をチェックする最初のステップは、無計画な病院立地をやめることである。ムンバイのNPOであるHOPEのジャグルティ・バティア(Jagruti Bhatia)氏によれば、病院が設立される前に、地域の疾病の傾向や人口構成、患者がどのあたりから来るかという傾向、 既存のヘルスケア施設との競合の可能性等について検討がなされるべきだという。デオスタリ氏の主張する解決策は、たとえ医療費の支払いができなくても患者はヘルスケア施設で拒否されないということを法律で保障することであるという。「基礎的医療支援は先ずは自宅や自宅近辺で行なわれなければなりませんから、安全な水供給や、栄養補給、衛生状況改善等は必須です。」

さらに、ホスマック社の調査レポートはこう述べる。より短期的にすぐに取組みべきことは、インド中部の状況改善を先ず最初に検討することである。
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久し振りにインドの雑誌から気になった記事を拾って和訳してみる練習をしてみた。最近、インドの医療施設の病床患者比率とか、病床数に対する配置医療従事者数とか、或いは患者数に対する配置医療従事者数とかに関する政府のガイドラインというのがあるかどうかというのが職場でも話題になり、ちょっと調べてみようかと思っていたところである。医療従事者といっても、医師の他に、日本だったら看護師、保健師、助産師、介護士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士等の様々な職種があるが、これがインドではどのような職種分けになっていて、それぞれにガイドラインのようなものが存在しているのかどうかも調査の対象である。

DownToEarth2.jpg今回紹介した記事は、隔週刊のDown To Earth誌の2009年8月1-15日号(右写真)の28頁に掲載されていたものであるが、ここでなんとなくわかったことは、病院配置に関するガイドラインはWHOが全世界的に基準として設けているものはあるが、インド独自のガイドラインというのはひょっとしたらないのかもしれないということである。さらには、インドでは公立病院が全体的にまだまだ不足しており、施設の拡充自体も大きな課題であり、地域的にはインド中部の優先度が高いということも。

但し、「民間病院」というとコストリカバリー以上に高いカネを取って儲けている医療施設とか、高額医療器材を導入してその利用と維持管理に費用がかかるために高めの医療費の設定をしている専門病院ばかりのような印象をこの記事は与えてしまっているが、実際はそうでもないのではないかというところは気になった。例えばNGOが設立した病院もカテゴリーとしては「民間病院」に分類されるだろうが、貧困層が外来患者の大多数を構成しているようなところでは、患者側のaffordabilityを考えて医療費を極力抑える料金体系にしているところが多い。こうなると台所は火の車という状況にもなりかねない。

いずれにせよ、この記事のポイントはホスマック社の調査レポートにある。ちょっと同社のウェブページを探ってみたけれどすぐには見つからなかったが、興味はあるのでもう少し調べてみたいと思う。
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