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『平成三十年』(下) [読書日記]

平成三十年〈下〉 天下分け目の「改革合戦」

平成三十年〈下〉 天下分け目の「改革合戦」

  • 作者: 堺屋 太一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2002/06/14
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
日本は発展途上国に戻るのか、先端国として蘇るのか? ついに変革か継承かの戦いが始まった。100の新製品のヒントが埋まっている、正確な予測が深刻な選択を迫る近未来小説。『朝日新聞』連載を大幅に加筆して単行本化。
カトマンズ家族旅行中に上巻を読み終えたので、これは早めに下巻も読まねばと思い、10日(金)の祭日を利用して一気に読み切った。登場人物を戦国時代に活躍した歴史上の人物になぞらえているので、何となくそんな形で政局が展開するのかなと思って読み進めると本当に「本能寺の変」を思わせる記述まで登場した。この辺まで来てしまうと著者も悪のりが過ぎると思ったが、改革を本当に実現させるための最も大きな障害は政治と官僚だというのをある意味象徴していたのかもしれない。民間企業で大きな成功を収め、莫大な資金力を持って政界入りした改革推進論者の政治家がたとえ政局を勝ち抜いて首相の座に就くところまで行けたとしても、最後の戦いは官僚の抵抗で、官僚組織のトップともいえる官房副長官に抜擢した進歩的考え方を持つ官僚であっても最後には寝首をかかれる事態にもなりかねないというのを象徴的に描いているようにも思えた。

下巻には著者のあとがきが付されている。その中で、著者は本書の中で「あって欲しくない未来」を描いたと述べている。著者にとって最もあって欲しくない日本とは、「何もしなかった日本」だという。そして、「改革」「改革」といわれていながら、現実の世の中は根本のところが変わっていないとして、平成30年には本書で描かれた日本の姿を目にすることになる可能性は高いとも述べている。

「何もしなかった日本」では、「国際的な工業品輸出競争の激化、資源不足と環境問題の深刻化、世界的な需要のソフト化など、日本の企業にとっては不利な条件が多い。特に少子高齢化による従業員平均年齢の上昇は、製造業の国際競争力を失わせた。賃金の上昇ばかりか、社会保険の負担も増大する」(p.37)という。そして、「国際競争力の低下で円安と国際収支の赤字化が進み、不況と物価の上昇とが同居するスタグフレーションに陥る可能性が高い」(p.396)という。現に貿易収支の赤字化や深まる不況といった最近日本から聞こえてくる報道を見ていると、この傾向は構造的なもので、今後そんなに大きく反転するとは考えにくいように思える。

これから平成30年に向けて、日本では確実に以下の3つが進行すると著者は述べる。
第一は少子高齢化だ。平成30年には「団塊の世代」は60歳後半の高齢者となり、その子供たちの「団塊ジュニア」も40歳代に入る。

第二は地方の過疎化。もしその時までに日本が首都機能の移転をしていなければ、中山間地は凄まじい衰退に陥っているだろう。東京で営まれる官僚機構は、現在も将来も、東京一極集中の仕組みを保つだろう。

第三は、知価社会化、様々な新産業と新製品が出現し、創業と閉業が増加しているに違いない。本編にも新しいビジネス・モデルを10以上も入れ込んだが、そのうちいくつかは現実となっているだろう。それに伴って日本でも、改革は行われるだろう。だが、それが「盲腸の手術」に終わる可能性は高い。
 (p.398)

元々本書を読もうと思った僕の問題意識は少子高齢化が今以上に進むと日本はどうなるのか、地方はどうなるのか、都市の郊外はどうなっていくのか、団地はどうなっていくのかというイメージを持っておきたかったということがあった。現在こうした地域コミュニティが直面している問題はある程度は理解しているつもりであるが、この先どうなっていってしまうのかが気になった。そして、上下巻を通じてそれらについてある程度ニーズは満たされたように思う。これから平成30年を迎えるまでの10年足らずの間に自分自身に何ができるのかも含めて…。

小説として見た時には物足りなさもあったし、出世人・木下が何故これほど評価を受けたのか、普段の言動に異能を感じるところがあまりなかったので、彼が何故評価を受けて短期間のうちにとんとん拍子で昇進してしまうのかは理解に苦しむ。それに後半の政局は、あまり念入りに描かなくてもいいのにと思ってしまった。そうした点は割り引いたとしても、考えさせる本であったことは間違いない。
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