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ルーラル・テレセンター概観(その2) [インド]

前回はルーラル・テレセンター(キオスク)に関する分類と期待されるインパクト、直面する課題について概観した。そこでは一般的にテレセンターが抱える問題点について整理ができたと思うが、未だ触れられていない大きな論点が1つある。

又聞きであるが、以前カナダの国営シンクタンクIDRCが、テレセンターの運営主体として考えられる、企業家、NGO、政府のうち、より持続性の高い運営がなされているのはどこかという研究を行なったことがある。結果は、①企業家(民間企業)、②NGO、③政府の順序であったという。実態としては最近はこうした3形態が明確に区分されることは少なくなってきており、CSCは政府主導であるが民間事業者を入れてPPPという形態で運営されているし、コミュニティ主導であっても地元企業家とNGO・民間財団が提携して運営を行なっているケースが多い。

そこで登場してきた論点の1つは、「テレセンターはローカルビジネスとして小規模で運営される方が持続性が高い」という仮説の是非論である。

インドで刊行されている季刊誌『Telecentre Magazine』2008年6月号の特集記事に、Kenneth KenistonとKentaro Toyama(バンガロールのMicrosoft Research社の研究チーム)の論点整理「Telecentre Run As Small, Local Businesses Make A Good Model To Ensure Sustainability!(テレセンターは小規模なローカルビジネスとして運営される方が持続性を保証する良いモデルを提示できる)」というのがあった。また、それに賛成する立場としてインド工科大学マドラス校(IITM)のアショク・ジュンジュンワラ教授(Prof. Ashok Jhunjhunwala)、反対の立場としてコマット・テクノロジー(Comat Technologies)社のスリラム・ラガワン社長(Sriram Raghavan)が寄稿している。

ジュンジュンワラ教授は、前回も登場したn-Logueの創始者であり、低費用のワイヤレス通信技術corDECTの開発者でもある。余談になるが僕は一度だけ教授ご本人にお目にかかったことがある。2004年の慶応大学湘南藤沢キャンパスでのことである。インドだけではなく、世界のテレセンター運動の祖父として誰もが尊敬する人物として紹介されていた。n-LogueはcorDECTを用いて比較的小規模なエリアを対象としてテレセンター整備を行なう事業である。
n-logue.jpg
n-Logueのテレセンターの様子

ラガワン社長もマスコミにはよく顔が登場する。これまた前回も紹介したカルナタカ州のBhoomiプロジェクトであるが、こちらは州政府主導で州全体をカバーするEガバナンス事業として世界的にも注目されている。そして、カルナタカ州政府は、タルカ(Taluka)と呼ばれる、県の下の行政区画に1カ所設置を目安としているテレセンターの運営をComatに一括委託し、Comatはこれを営利活動も組み合わせて持続性の高いビジネスモデルとして成果を上げている。

Telecentre Magazineの特集記事で展開された論争は、言い方を換えると、「テレセンターは地元の企業家によって運営される方がいいのか、或いは大企業から給料を受け取る被用者によって運営される方がいいのか、はたまたそれ以外のモデルの方がいいのか」というものである。

ジュンジュンワラ教授が支持する「地元の企業家による運営」の論拠は、地元の企業家はその地域のことをよく知っており、テレセンターの成否が運営主体の勤勉さと才覚にかかっているがゆえに、地元企業家であればテレセンター事業を成功させようという強い動機があるという点にある。同教授は、テレセンターの事業者が所有者でもある場合、さらに動機は強まると主張する。地元企業家に創意工夫の余地を最大限与えて地元にサービス提供しようという農村ビジネスの発想である。

一方、ラガワン社長が支持する「大企業による運営」の論拠は、企業は、政府のようなパートナー組織と接続するための機器の設置に長けており、サービスの質的保証もできるという点にある。また、インドでは農村部の住民グループは孤立しており、何世代も経て拡大してきた都市と農村の情報格差を短期間で解消するには、テレセンターの整備は一気に行なわれなければならないと同社長は主張している。ジュンジュンワラ教授が主張している「事業者=所有者」のメリットについては、ラガワン教授は、企業の地道な努力と保有する資源の方が、テレセンターの育成に必要な長い時間をかけた熟成に耐えることができるのだと反論している。

両者を比較してみると、ラガワン社長の論点の方には政府寄りの姿勢、政府の意向が見え隠れしている。やりたい奴がやればいいというのに近いジュンジュンワラ教授の論点は農村における起業の一形態としてのテレセンターという非常にミクロな発想だが、大企業による整備はむしろ供給主導(supply-driven)な発想で、Talukaに1箇所程度ということであれば遠隔地に住む住民にとってはまだまだテレセンターは気軽にアクセスできるところにあるわけではないし、1人の住民がそうそう頻繁に訪れる場所でもない。行政手続を行なえる場所を訪れるのなんて、せいぜい1年に1回あるかないかだろうし、そういう人をできるだけ多くカバーするならTaluka程度の受益者人口を最低限確保しておく必要があると思う。

そう考えていくと、両者は二者択一というより、同一地域で双方が展開されていたとしても共存は可能なのではないかと思える。問題となってくるのはむしろ両者の接続性(connectivity)なのではないかという気がする。Keniston-Toyamaは、「フランチャイズ型テレセンター(franchised telecentre)」という概念を提示している。日本のコンビニのように店名は「セブンイレブン」とか「ファミマ」にしながらも、各店舗の運営には店長(=オーナー)の自由裁量の余地を与えるというものである。必要なロジスティックスのサポートや研修機会の提供等、事業主が単独では負担しづらい費用は企業が面倒を見て、事業主が運営に集中できる環境を作るというものである。

両者の方法論には大きな差があるが、テレセンターの基本的な意義の部分では共通認識があるようだし、テレセンターの利用料金水準を住民にとって負担しやすい水準にまで下げる努力、テレセンター設置を促す規制枠組みの創設、農村部での通信インフラ整備がさらに必要であるという点でも両者の意見に相違は見られない。地元の状況に十分に応じた適正サービスが既に開拓されているわけではなく、教育や金融サービス等、まだまだ未開拓の領域がかなりあるという点でも見解は一致している。

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実際に村に行く機会も限られている中で、こういう話題を取り上げるのは気が引けるが、「テレセンター」という見たこともないものがインドでは結構注目されているのはなぜかというのは僕がインドに来て実際に見てみたかった大きな理由の1つであり、村に行く前にある程度の「頭作りはしておく必要はあると思った。討ち死にしているテレセンターもあると聞く。いつ村に行けるのかは仕事の関係もあるのでよくわからないが、もう少し情報集めておきたい。
(ただ今、バンコクで自主学習中…)
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