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『自治体格差が国を滅ぼす』 [読書日記]

自治体格差が国を滅ぼす (集英社新書 422B) (集英社新書 422B)

自治体格差が国を滅ぼす (集英社新書 422B) (集英社新書 422B)

  • 作者: 田村 秀
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/12/14
  • メディア: 新書
内容紹介
個人や企業間で格差の拡大が叫ばれて久しいが、格差は自治体・地域の間でも確実に広がりつつある。財政破綻した「負け組」自治体が住民サービスの質を下げる一方で、中学卒業までの医療費が無料など、住民が受益を謳歌している「勝ち組」自治体もある。自治体・地域の間の格差はなぜ生まれ、拡大し続けているのか。解決する方法はあるのか。本書では代表的な九つの自治体を取り上げ、その実態をつぶさに検証することで格差拡大の原因を分析し、是正に向けた具体的な方策を提言する。
すみませんでした。「ただ今読書中」として掲載しておきながら、読了後数日間放ったらかしにしていました。

読みやすい本であるし、三重県亀山市とか、北海道夕張市とか、徳島県上勝町とか、個々の自治体の成功事例・失敗事例をコンパクトに知りたいという人には格好の入門図書であろうと思う。個人的には上勝町の「いろどり」事業の成功事例には興味があって、それがコンパクトに描かれているので面白かったといえば面白かったのだが、読みやすいと感じた最大の理由が、こうした個別事例の描き方にあるのではないかという気もした。その事例に対してあまり思い入れがなければ、そこは単なる事実の羅列に過ぎず、飛ばし読みが可能なのだ。

僕の問題意識も、これからは自治体間の競争が激化するというところにある。以前何かの記事で「足による民主主義」というようなことを書いたことがあるが、勝ち組自治体には人がどんどん集まって栄えるし、負け組自治体からは人がどんどん流出して、税収不足により公共サービスもどんどん劣悪化して悪循環に陥っていく。特に地方農村部に行くとそういう現象が見られる。それでも高齢の住民はその土地に愛着もあるので、なかなかその土地を離れたがらない。逆に都市部の高齢者は元々その土地で生まれ育ったという人ならともかく、仮の棲家をそこに設けているに過ぎない人は、その自治体のサービスが気に入らなければ行政サービスがより充実した自治体に引越せばよい。フットワークは軽い。だから、地方-都市の比較軸で見れば地方はどんどん住みにくくなるし、都市の中でも勝ち組・負け組の対立軸がはっきりしてくるのである。日本のような狭い国土の国において、こうして勝ち組・負け組がはっきりしてきて、幾つもの対立軸が生じて国民がバラバラになっていくのは悲しいことだ。
 1990年代の中頃までは、地域間格差はあるにしてもまだまだ許容範囲であったように思えたが、新しい世紀となり、グローバル化がますます進行する中で、地域間格差はもはや許容限度を超えてしまったのではないかと感じるようになった。それはさまざまなデータからも垣間見えるが、現場を見て、その地域の人と話をしてみると、私の予感は実感となるのだ。(p.29)
こんな地域間格差を助長してしまった政治家は、最近政界引退を表明されてしまったが、残された「負債」はなんとしても解消しなければならない。自治体の生き残りをかけた方策として著者が強調するのは、「お任せ民主主義」からの脱却である。住民はこれまで過度に行政に依存してきたし、自治体が行なうことを無批判的に受け容れてきたところが大きい。著者自身が経験したエピソードには耳を傾ける必要がある。
 一方、住民からほとんど意見がだされないケースも多い。私はある自治体の自治基本条例の制定作業にかかわったことがある。自治基本条例は、地域の課題への対応やまちづくりを誰がどんな役割を担い、どのような方法で決めていくのかを文章化したもので、自治の仕組みの基本ルールを定めるものだ。
 この自治基本条例の素案を住民代表の委員と議論を行って作成し、ホームページや広報紙などを通じてパブリックコメントを行ったが、結局誰一人意見を出すものはいなかった。地方分権、そして地方の時代と言われて久しいが、その主役は住民である。住民の関心が高まっていかないと健全な自治は育っていかないのである。(pp.198-199)
本書を読んでいると、自治体の盛衰は住民人口の高齢化と密接に関係していることを改めて実感させられる。高齢化が進んだから行政サービスが維持困難になったという一方向の因果関係があるわけではなく、自治体が財政破綻して行政サービスを切り詰めたために若年人口が流出して結果的に高齢化率が高まったというところもあるのではないかと思う。

高齢化率が50%近くに達している徳島県上勝町のような自治体でも、その高齢者と豊かな自然環境を地域の資源として「つまもの」出荷で町おこしに成功しているところもある。勿論、今はそれでよくても、野山で採れる葉っぱを手作業で加工するスキルを持ったお年寄りが10年20年後にお亡くなりになるような時期を迎えた場合、「つまもの」は必ずしも自立発展性が高い事業とはいえないのではないかという気がする。

さて、僕が今籍を置いている都内の某自治体も、今は幸いなことに人口流入が進んでいる。但し、東京都全体で見た場合、2015年には人口減少に転じるとの予測がある。限られた人口を奪い合うという意味で、今後都心周辺の自治体間での競争はもっと高まってくるのではないかという漠然とした予感がする。そうした中で、僕達に求められることは、住民の1人として、「まず住んでいる地域のことに関心を持つ」(p.218)ことだろうと思う。次の世代を生きる僕の子供達にも、そうした意識を持ってくれるよう仕向けていくことも重要だ。
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コメント 1

坪井

はじめまして。
nice!ありがとうございました。

むずかしいことはわからないのですが、「競争」よりもまず「住民のため」
というのが本筋ですが。
自分は今住んでいるところが「ベッドタウン」なので、地元への関心が
薄いので、自分のそこを見つめなおしたいと思います。
by 坪井 (2008-09-28 22:26) 

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