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『気をつけ、礼。』 [重松清]

気をつけ、礼。

気をつけ、礼。

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本
僕は、あの頃の先生よりも歳をとった―――
それでも、先生はずっと、僕の先生だった
受験の役に立たなかったし、何かを教わったんだということにさえ、若いうちは気づかなかった。オトナになってからわかった……画家になる夢に敗れた美術教師、ニール・ヤングを教えてくれた物理の先生、怖いけど本当は優しい保健室のおばちゃん。教師と教え子との、懐かしく、ちょっと寂しく、決して失われない物語。
久々の重松作品は発刊ホヤホヤの短編集である。重松作品は殆ど読み切っているので新しい作品といったら新刊本ぐらいしかないが、インドに住んでいるから入手が困難で、一時帰国のような機会でもないとなかなか読めない。だから、楽しみにして読み始めたのだが…。

最近体力が磨り減っている自分にとっては、素直に感動に浸れない作品だった。仕事の方が余裕ないので、ゆっくりと一字一句を追いかけて読んでいられなかったというのもある。出張中でもデリーに残してきた仕事に今もちょっと関わったりもしているし。オチがよくわからなかった作品もあった。機会があればもう一度読んでみたいと思う。

フレームワークは面白いと思う。先生と生徒の関係をある一時期の静学的な関係としてだけ捉える作品は多いが、それが時間の経過と共にどう変化していくのかというのを追いかけるようなダイナミックな作品というのはあまり聞いたことがない。せいぜい、主人公がA地点からB地点まで時間軸上を移動する過程まで丁寧に描いた長編小説というのはあるかもしれないが、これを先生と生徒との関係に当てはめて描かれ、かつ過去のA地点というのは回想シーンとしてしか登場させずに現在のB地点だけを描く短編というのはかなり珍しいのではないかと思う。

例えば、僕が小学校でお世話になった担任の先生方は、おそらく今の僕の年齢よりも年下であっただろうと思うが、僕達は今や社会人としては現役バリバリの時代を迎える一方、片や昔は現役バリバリだった先生方は70代を迎えている頃である。校長先生になると、ご健在であれば80代、90代ということもあるだろう。父や母に対して感じる「小さくなったな」という印象は、もし今先生方とお目にかかるならきっと同じように感じるだろう。余談ながら、僕の高校3年時の担任の先生とは今でも年賀状のやりとりぐらいはあるが、既に教員を退職し、年に1回はご夫婦で海外旅行を楽しむ悠々自適の生活を送っておられる。そこで気づくのである。僕にとっては、先生は幾つになっても先生であることに。

僕は本作品で描かれているような先生とのやり取りで印象に残っているものが殆どない。作品で出てくる「その他大勢」の中の1人だったのではないかと思う。先生の教員生活の中で強い印象を与えた生徒であれは良かったんだけど、適当に優等生で、先生にとっては最も手のかからない生徒の1人だったのではないかと思う。多分、先生方は、「Sanchaiならそつなく成長して立派な大人になっていくだろう」と思っていただいていただろう。

先生に好かれていようが嫌われていようが、先生から気をかけてもらっていた生徒というのは幸せだったのではないだろうか。ある意味羨ましい話であるが…。
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降龍十八掌

聖書の放蕩息子もそうですが、ばかな子ほどかわいいってこともあります。
もっとも、ばかで態度も悪いってのいますが・・・
by 降龍十八掌 (2008-09-11 12:20) 

Sanchai

降龍十八掌さん、コメントありがとうございました。ばかで態度が悪いって子も、後になってみると気になるのかもしれません。
by Sanchai (2008-09-13 21:55) 

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