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『宿澤広朗』 [読書日記]


宿澤広朗 運を支配した男

宿澤広朗 運を支配した男

  • 作者: 加藤 仁
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/06/02
  • メディア: 単行本

内容紹介
2006年6月17日、三井住友銀行専務・宿澤広朗は群馬県内で山登り中に突然倒れ、急逝した。享年55。ラガーとして頂点を極め、銀行マンとしても大銀行頭取の座まで指呼の間まで迫りながらの無念の夭折だった。

宿澤の告別式には4000人を超える人々がつめかけ、故人の人脈と人望の厚さを示した。地方の進学校から名門・早稲田大学ラグビー部に進み、あっという間にレギュラーを獲得しただけでなく、社会人を破って日本一に。日本代表選手にも選ばれ、卒業時には多くの社会人チームから勧誘された文字通りの天才ラガーだった。戦局を見通す目の確かさは指導者としても発揮され、1989年日本代表監督に就任するやいなや強豪スコットランドを破る金星を挙げた。この勝利は、いまも日本ラグビー最大の金字塔として語り継がれている。 
このノンフィクションが月刊現代で連載された時、その第1回だけは普段買ったりもしないこの月刊誌を買って読んだ。それが本になったと聞いて、是非全て読んでみたくなった。僕はラグビーのファンではない。宿澤のことはNHKサンデースポーツのラグビー解説で知ってはいた。でも、彼が日本代表監督を務めてテストマッチでスコットランドに勝った頃は僕は修士論文執筆のラストスパートの時期だったので、全く記憶にない。それに、当時僕が下宿に持っていたテレビは壊れていたし…。
続き…
宿澤氏は、サラリーマンとしても別格の決断力、実行力を示した。住友銀行に就職するとたちまち頭角を現し、ロンドン支店時代にはディーラーとして銀行に巨大な利益をもたらした。帰国後も重職を歴任、とくに9・11テロでは卓抜な危機管理を示した。松下電器グループ子会社の整理、江崎グリコ、ワールドなどの企業防衛にも手腕を振るうなど、金融のまさに第一線で活躍した。

宿澤広朗は、人並みはずれた強運の持ち主だっただけでなく、想像を絶する努力によって「運を支配した男」でもあった。本書は、宿澤広朗の銀行内での活躍や私生活上の知られざるエピソードを、膨大な取材によって掘り起こした傑作評伝である。
ラグビーにそんなに興味のないので、ラグビーのことだけではなく、銀行マンとしてのキャリアも含めて、リーダーたる者の取るべき立ち位置というものについて多くの示唆が得られたように思う。リーダーに見える風景は追従者が見えるものとは違う。役割が違うのだから当然のことだと思うが、宿澤氏が職場でパソコンを使わなかったことや、短い言葉を通じて部下をモティベートし、そして育てていったというプロセスを見ると、リーダーが部下と同じ目線で物を見ていてはいけない、リーダーにはリーダーならではの視点があるのだという当たり前のことを改めて痛感させられる。

うちの会社を見ていると、リーダーと追従者の区別がなかなかつかないと感じることが多い。リーダーとおぼしき肩書きを持った管理職が平社員と同じ目線で物を見ている。いわゆる「マイクロマネジメント」という奴である。交渉事も管理職と部下が同じタイミングで同じ交渉の場に立っていたり、管理職が中間職とスタッフも交えて2時間も3時間も会議室に籠って打合せをやったりするのを見ると、時間の使い方が適切ではないのではないか、リーダーならもっと別のことに時間を充てるべきではないかと強く感じる。宿澤氏は元早稲田のラガーマンで日本代表監督も務めたその経歴を銀行の営業でも存分に利用し、新規顧客開拓や財界への食い込みを図っていっているが、自分の立場をよく理解してその通りに行動されてきたのだなというのが本書を読んでいてよくわかる。

また、リーダーの真価が問われるのは平時よりもむしろ激動期であるというのも痛感させられる。2001年9月11日の米国での同時多発テロの直後に取った宿澤氏の行動及び部下への指示は、考えてみれば当たり前と言えるが本当に有事の際に誰もがそのような行動が取れるかどうかはかなり疑問だと思う。しかも、適切な指示を部下に飛ばした後は、その夜のうちにさっさと退社している。陣頭指揮は陣頭指揮であるが、対応振りがスマートだなと感じる。

そしてまた痛感させられるのは、リーダーは孤独だということ。交友関係はかなり広かった人らしいが、親しい友というとあまりいなかったとも書かれていた。

自分がリーダーの器かどうかはともかくとして、こうしたリーダーが求める部下の理想像というのは常に考えておく必要がある。本書では度々言及されているが、宿澤氏は部下に対して度々こんなことを言っていたらしい。

―「ぼくは意見を持たずに会議に出てくる奴は嫌いなんだ。」(p.207)

―「きみ、プロじゃないの」(p.208)

さらに、本書には宿澤氏が行った講演での一節も下記のように紹介されている。
「日本の一般社会を見渡しても、企業内リーダーのなかにはあまり好ましくないと感じる、違和感のある人たちが少なからずいると思います。部下の下に数人の課長がいて、そのまた下に数人の課員がいて、さてほんとうにこの部長がいちばん優秀かというと、必ずしもそうではありません。実際に育てるという過程を経たならば、部長より優秀な課長が出てくる。課長より優秀な課員が必ずいるはずです。そうでないと、むしろおかしいのです。キャリアがちがうだけで、上司より優秀な人間が必ずいます。」

「ほんとうにいたならば、私たちはこの人の能力を最大限活かす必要があります。日本の組織のあり方としては簡単なことではないのかもしれませんが、少なくとも、部下と張り合うような部長がいては、なんの意味もありません。やはり、組織の力を強化するには、個々の能力をより上手に活かすことです。そして、スペシャリストといえる人材のなかからリーダーを育てるというのが、私はもっとも正しい方法ではないかと考えています。

「(中略)なにかのスペシャリストは、必ずゼネラリストより優れているように思います。(中略)すべてに万能である人たちを多数そろえる必要はありません。ほんとうの意味でのスペシャリストを少数育て、そのなかからリーダーを選ぶ。裏を返せば、なにかスペシャリストとして持っていないと、リーダーになれないということです。

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